DANGER SUMMER-前編-
「お祭り!?」
局長室の広間のテーブルに両手を着き、
身を乗り出して目を輝かせる。
「オイ、祭りったって遊びに行くんじゃねーんだよ。
前回みてェなことがねーように、会場の警備を徹底するんだ」
土方はあきれた顔でを見る。
「警備ったって、今回お上は来ないんですよね?
高杉が江戸に来たって情報もないし」
はそう言ってテーブルの上に置かれたチラシを見た。
「だが油断は出来ん。
奴が手駒を使う可能性もあるからな」
向かいに座る近藤は腕を組んで答える。
「この場に乗じて騒ぎを起こす浪士もいる。
気を抜くな」
数時間後
「………って言ったよなぁ俺」
祭り当日
会場の神社はたくさんの人で賑わっている。
土方は前髪を掻き上げ、はーっと長いため息をついた。
指定の場所には、と総悟の姿がない。
「ったく…2人揃ってサボりやがって…」
「違うぞトシ。総悟は知らんがはちゃんと俺に
"ウンコしに行ってきます"って断りを入れていったからな」
「年頃の娘がそんな断り方するわけねーだろ!!
何で信じんだよアンタ!!!」
呑気な近藤を土方が怒鳴る。
「や、信じるっていうかもし本当ならそれはそれで興奮するっていうか」
「馬鹿だアンタ!!っていうかただの変態だ!!!」
「あーやっぱ屋台のたこ焼きっておいしいなー!!」
神社の境内に並ぶ屋台の道を通り、
たこ焼きを口に銜えては幸せそうに笑う。
「そのうちたこ焼きみてぇに丸くなっても知らねーぜィ」
「うるさいな。動いて消費するからいいんだもん」
横を歩く総悟も同じたこ焼きを食べながら言った。
すると
「お兄さん方」
「「?」」
後ろから声をかけられて2人は振り返る。
後ろにはス●リームのマスクを被っている男が立っていた。
「…ここが祭り会場じゃなきゃ職務質問するとこなんだけど」
は思わず1歩たじろぐ。
「ちょっとお化け屋敷寄って行きません?」
男は籠った声でそう言って、神社の方を指差した。
見ると神社の一角には、横の林と繋がる小道に「お化け屋敷」と書かれた札が立っている。
「お化け屋敷なんて出店あったんだ」
「どーせ子供騙しだろィ」
関心すると呆れ顔の総悟。
「アラアラお兄さん怖いんですか?」
仮面の男の横に血糊で化粧した少女が並ぶ。
「俺ァどっちかっつーとお化け屋敷で怖がって恐怖に引きつってる
奴等を見て楽しむ方が好きなんでさァ」
「あたしアンタとは絶対お化け屋敷入りたくない」
が隣で嫌な顔をすると
「まァまァ、日頃お仕事で大変でしょうお役人さんは。
こういう時こそヒヤッとするモンで疲れを癒して」
仮面の男と少女は後ろから2人の背中を押す。
「わっ、ちょっ、公務中なんだけど!」
「はーい2名様ごあんなーい!」
2人はそのまま押されて小道まで連れてこられた。
鬱蒼と茂る森林の入り口には包帯グルグル巻きの眼鏡男が立っている。
「提灯どうぞ。この道をまっすぐ行くと神社裏の墓地に出ますから、
そこの管理室からお札を取って出口へ向かって下さい。
目印があるんで、迷わないと思いますよ」
「…………………」
包帯男から提灯を受け取るの手は冷や汗がだくだく。
包帯男の声がどこかで聞いたことがあるとか、
そういうことを考える余裕はない。
「何でィ、お前ひょっとして怖いのか?」
「)ち、違うもん!!怖いわけないじゃんこんなの!!
天下の真選組だよ!?真選組で4番目に強いこのあたしがお化けなんか怖いわけないじゃん!!」
馬鹿にするよう笑う総悟に必死で答えるの顔は真っ青。
「んじゃ行くぜィ」
「あ、ちょっ…!!」
の手から提灯を奪い、総悟は1人で先を歩いていく。
も慌ててその後を追った。
小道は街灯もなく本当に真っ暗で、総悟が持っている提灯が唯一の灯り。
左右に鬱蒼と茂る木々が不気味だ。
は総悟の1歩後ろを歩きながら、いつでも抜けるように常に腰の刀に手をつかえている。
(何が出てきたら即効斬る…何が出てきたら即効斬る何か出てきたら即効斬る…)
頭の中で念仏のように繰り返していると
ガサッ!!
「ッ!!!」
横の茂みから大きな音。
びくっと肩をすくめて立ち止まる。
「なっ…何………!!」
前を歩いていた総悟の立ち止まって茂みを見た。
「ただの風だろ」
「な…なんだ…そ、そうだよね…」
安堵したが振り返ると
どんっ
ぶつかったのは総悟ではなくて、
長い前髪で顔を隠した入院服の女。
髪の隙間からこちらを睨む片方の白目だけが見える。
「っぎゃァァあああああああ!!!!!!」
ジャキッ!
ズシャッ!!!!
は大声で叫ぶと同時に抜刀して、
その女を真っ二つに切り裂いた。
「はっ…はぁっ、はぁっ…」
は刀を持つ両手をぷるぷる震わせていつの間にか総悟の後ろにいる。
「…オイこれ人形じゃねーか」
総悟は冷静にその場にしゃがみ、
まっぷたつになった人形を突く。
よく見るとたしかにそれはよく出来たマネキン。
2人の頭上には糸が張ってあって人形と繋がっている。
「あーあーどうすんだコレ。器物破損容疑で訴えられるぜィ」
「言ってる場合か!!どうでもいいよそんなこと!」
「ほら見ろィ、とみ子(仮)も悲しんでるだろ」
総悟はそう言ってがぶった斬った人形の頭を持ってきた。
「いーから持ってくんな!!怖えーから持ってくんな!!!
つか誰だとみ子って!!!」
は総悟と人形の頭に刃先を向け、1歩たじろぐと
ぴとっ
ハーフパンツの足裏に生温い感触。
「にゃあ!!!」
勢いよく振り向くと
ぐにっ
右足で踏んづけたのは
入り口で見た血糊の少女。
ごろ、とこっちに血まみれの顔を向けて倒れている。
「…っいやぁぁあああああああ!!!!!!」
はそのままダッシュで小道を走り抜けて行ってしまった。
「オイ、お前灯りなしで道分かんのか?」
総悟の声なんかもちろん聞こえてない。
抜刀したまま猛ダッシュで暗い小道を数10メートル走りきった。
「……何でィアイツ結局怖いんじゃねーか」
総悟はそう言ってため息をつく。
すると
「イタタ…の奴思っクソ踏んでったアル…」
倒れていた血糊少女がむくりと起き上がった。
特徴的な語尾。
見覚えのある髪色
「……お前…」
「はっ…はぁっ…はぁッ…」
気が済むまで走ったところで、は膝に手をついて立ち止まる。
「…あれ…?」
真っ暗な道に1人佇み、我に返った。
「…総悟…は…?」
後ろには総悟がいない。
というか、置いてきてしまった。
ヒュウッ…、と夜風が背中を通る。
本来なら涼しいハズの夜風も、今では鳥肌がたつくらい冷たく感じた。
「だ、大丈夫だよ…あの包帯男この道まっすぐって言ってたもん。
灯りなくたって行けるよ。べっつに総悟なんか居なくても怖くなんかないし!」
自分以外誰もいないのに、誰かに話しかけていないと
不気味な静寂に押しつぶされてしまいそうなので
とりあえず大きな独り言を言ってみる。
相変わらず右手は刀の柄を握ったまま。
両足をずるずると引きずるように1歩1歩足を進めた。
ガサッ!!
「ぅおわ!!」
突如後ろの木の枝が揺れて音を立てた。
反射的に振り返る。
暗くてよく見えないが、木の葉から何かが抜け出した影が見えた。
「は…っなんだ…カラス…」
飛び出した物体は、空へ飛んで行ったかに見えたが…
ビュウゥゥゥゥゥゥ…
「…………え」
それは猛スピードでこっちに向かってくる。
ビュウゥゥゥゥゥゥゥ
至近距離まで来て見えた、
ス●リームのマスク(顔だけ)。
「ぎゃあァァァァァアアアアアア!!!!」
は猛ダッシュで追ってくるマスクから逃げる。
それに比例してマスクもを追ってきた。
「来-------る-------なぁぁあああああ!!!!!」
恐らく自己最高記録。
土方から逃げる時よりも
山崎と100M競争する時よりも
多分今が一番速い。
後ろを振り返ることなく全力疾走していると、
釣り糸のついたマスクは小枝に引っ掛かって止まった。
「っ!」
無我夢中で走っていたの視界がいきなり開ける。
そこは広い墓地。
機械的に並ぶ墓石の真ん中に、小さな管理小屋があった。
包帯男が言っていた通り。
『この道をまっすぐ行くと神社裏の墓地に出ますから、
そこの管理室からお札を取って出口へ向かって下さい』
ちら、と辺りを見渡すと"出口→"と書かれた看板が目に入る。
(…札なんか無視して帰りたい…)
そうは思うが、天下の真選組がルールを無視なんかしようものなら何を言われるか分からない。
っていうか、自分のプライドも許せない。
「…っお化けがなんだっつーの…真選組ナメんなよ」
ハッ、と鼻で笑い、気合を入れ直して管理小屋へ近づく。
神社の横にある摂社みたいな、小さな小屋。
数段の階段を上ると、木製の扉が見えてきた。
右手を扉の左端に付き、そのままぐっ、と体重をかけて押す。
ギイ…
To be continued