「お前惚れてる男はいるか?」








松平の唐突な質問。

はスプーンですくったオムライスをポロリと皿に落として目を丸くした。

「…何言ってんのとっつァん」

そしてすぐに怪訝な顔をする。

言っている意味が分からない。

「武士だ侍だっつってもお前も女だろ?

 惚れた男の一人や二人いるんじゃねェかと思ってよ」

向かいの席で茶をしばくヤクザ。

否松平片栗虎。

「もし今そういう男がいるならおじさん協力しちゃうよー」

「や、いねーから。つーか何でいきなりそんな話?

 今日はこないだのセクハラ紛いの謝罪なんじゃないの?」

そう。

二人は駅前の洋食屋に来ている。

ほぼ強制的にオヤジの趣味を押し付けられて1日ミニスカポリスにさせられた謝罪のため

一日20食限定のオムライスを食べに。

「いやーそのミニスカポリスでちょっと面倒なことになりやがったんだよ」

「ミニスカポリス自体面倒事だったよ」

煙草を銜え、頭をかく松平。

は興味なさそうにそう答え、オムライスを口へ運んだ。

「もう一度聞く。惚れてる男はいねーんだな?」

念を押すように、松平は身を乗り出して再び問い掛ける。

「しつこいなぁもう。今はそんなの居ないし興味もないよ」

オムライスを完食して、面倒くさそうに答えた。

煙草を指で挟んで灰皿に置き、

フーッと白い煙を吐いて再び真っ直ぐを見る。

「よーし分かった。、オメー明日有休やるから」




「見合いしろ。」






・・・・・・・・





・・・・・・・・








はぁぁあああああ?!










サムライ花嫁(仮)-前編-









「ちょっ、見合いって何!どういうこと、とっつァん!!」

局長室に響く近藤の声。

その横には土方と総悟、殺気立っているが座っている。

松平はその向かいで煙草を吸いながら湯飲みの茶に手をつけた。

「また余計な世話回したんじゃねーだろうな?

 近藤さんの二の舞はごめんだぜ」

土方は腕を組んで松平を睨む。

「節介にはおじさんもほとほと懲りたさ。

 残念ながら今回のは俺の意志じゃあねぇ」

フーッと煙草の煙を吐き、テーブルに肘をつく。

「…どういうことだよ…?」

近藤は目を細めた。

「この前、が一日ミニスカポリスだった写真が新聞に掲載されたろ?」

「ああ、これかィ」

総悟はそう言ってどこからか、額に飾った新聞の切り抜き(拡大済)を

テーブルの上に出した。

オイィ!何だそれ!いつの間に拡大して額縁に飾ってんだよ!!」

「気付かなかったのかィ。新聞に載った翌日から鍛練場の隅に貼ってあったんでさァ」

うそぉ!

「…で?あの新聞がどうしたんだ?」

土方は呆れたようにため息をついて話を元に戻した。

と総悟も松平を見る。

「あの新聞を見た官僚の息子がを大層気に入ったようでなァ、

 是非一度会わせてくれって頼まれちまったのよ」



・・・・・・・




3人は無言でを見て、それから額の写真に目をやった。

「これを見て…って…何かヤバイ趣味あんじゃねーの?」

「婦警プレイが好きなんだよきっと」

「とりあえずいい眼科と精神科を紹介した方がいいですぜ」






ゴシャッ!!!!






の踵落としがテーブルの上の額縁を粉々に破壊した。

「…好き勝手言ってんじゃねーよ」

声低く3人を睨んでから、そのままキッ、と松平を睨む。

「とっつァん、あたしやっぱ惚れてる人いるの思いだした」

「思い出したって何だよお前。あれか?この想いは胸の奥に秘めて忘れることにしたのってか?」

松平は目を細める。

誰だ!!惚れてる男って!!!

近藤は腰を浮かせて声を荒げた。

「土方さんでいいよ!」

でいいよじゃねーよ!!!お前何様!?

左腕に絡んできたを大声で怒鳴る土方。

はぶーっと口を尖らせ、しぶしぶ土方の腕を離す。

松平はため息をつき、アタッシュケースから何かを取り出した。

「ホレ、先方の写真だ」

そう言ってテーブルの上に置かれたのはお見合い写真。

近藤が台紙を開き、全員が写真を覗き込む。

「結構な色男だろ?」

写真に写っているのは20代半ばくらいの男。

きれいに整えられた黒髪

爽やかで誠実そうな容姿

びしっと正装している。

「いかにもって感じの優男だなぁ…」

「よかったじゃねーか、ちゃんと人間だぜィ」

「近藤さんの時はあれ以下にはなりようがなかったからな」

「あたし優男嫌い…」

は写真を覗きこんで顔をしかめた。

そして再び松平を睨む。

「あたし絶対嫌だからね。どこの馬の骨とも分からねー野郎と

 会って喋ることなんか何もないんだから」

「自分で馬の骨っつったよ」

総悟は横で呆れ顔。

松平は煙とため息を同時に吐きながら、

土方と兼用でいっぱいになっている灰皿に煙草を押し付けた。

「俺だってお前のことは実の娘みてーに思ってるさ。

 それこそどこの馬の骨とも分からねェ野郎になんざくれてやるつもりはねェんだよ。

 だが相手が相手だ。お上の息子となっちゃあ話は別ってモンだろ?」




「…ヘタすりゃ首が飛び兼ねねェ、ってことか?」




「っ」

割って入った土方の一言。

は土方を見る。

「好き勝手言ってくれるぜ。コイツ組に入れたときゃ頭ごなしに否定したクセに

 私欲の為なら女隊士も悪くねェってか?馬鹿にすんじゃねーよ」

いつになく真剣な顔で松平を睨む土方。

「…土方さん」

「……確かにそうだ、否定はしねェ。だがこれが現実だ。

 派手に動くなっつったのに、新聞沙汰になるようなことするからこういうことになるんだよ。

 官僚の息子っつったら時期デカくなりやがる。圧力かけられて潰されかねねーぞ」

「…………………」

は顔を伏せ、膝の上でぎゅっ、と両手を握り締めた。

そして顔を上げ、近藤を見る。

「…近藤さんが行けっていうなら…行きます…」

「だが…」

近藤は腰を浮かせた。

「自分で蒔いた種だし…自分でどうにかしないと」

表情暗く、はそう言って再び顔を伏せる。

近藤は土方と顔を見合わせた。

「……分かった。悪いが、相手の機嫌を損ねないよう丁重にお断りしてきてくれ」

「…はい」

は返事をして、ゆっくり立ち上がる。

「んじゃ着物…準備してきます…」

障子を開け、のろのろと部屋を出て行く後姿。

4人はそれを目で追う。

「先方に連絡入れねェとな」

それに続いて松平も席を立ち、部屋を出て行った。

「……どーするよ、トシ」

「どーするったって…決まっちまったもんはしょうがねーだろうが。

 アイツなら何としてでも断って帰ってくんだろ」

畳に手をつき、天井を仰いでフーッと煙草の煙を吐く。

「いや…とっつァんにあんなこと言われたら、

 俺達のことを気にして派手なことは出来んだろうよ」

近藤は腕を組み、真剣な面持ちでテーブルと睨み合った。

土方は横目でそんな近藤を見る。

「しかし物好きな奴もいるもんですねェ、

 まさか嫁の貰い手があるとは思わなんだ」

総悟はテーブルに頬杖をつき、他人事のように言う。

「いや!嫁には行かせん!!断りに行かせるんだ!!

 それには黙ってれば可愛いんだから!!」

「アンタどんだけ親バカなんだよ;」

真顔の近藤に土方は呆れ顔。

「…男勝りとはいえまだ18歳の女の子だ。

 いつかこんな話が来るんじゃないかとは思ってたが…

 まさかお上から来るとはなぁ…」

参った、と近藤は深いため息をついた。

土方と総悟もそれ以上何も言わず、顔を伏せる。











翌日

「それじゃ…行ってきます…」

艶やかな着物に着替え、髪を後ろで綺麗にアップにまとめた

だが表情は暗い。

「何かあったら、すぐ連絡を入れろよ」

玄関で見送る近藤の言葉に、こくんと頷いて外で待っている松平と共に屯所を出て行った。

黒塗りのベンツが屯所を離れていく。

「…アイツのあんな表情、久しぶりに見るな…」











「うぉーいちゃんよーいい加減機嫌直してくれよー

 お前がそんな顔してっとおじさん困っちゃうよー」

約束の場所へ向かう車の中

ぶすーっとした顔で窓の外を見るの横で

松平は煙草を銜えて困ったような顔をしている。

「…あたしの方が困ってんだよバカヤロー」

ははーっとため息をつき、膝の上にあった見合い写真を再び開いた。

「やだな…あからさまに話題合わなそう」

眉間にシワを寄せ、こちらを見て微笑む男の写真を睨む。

「うまくいきゃ玉の輿なのによ。勿体ねーな」

「興味ない。優男嫌いだし」

はーっとため息をつき、ポイッと写真を投げる。

「総悟の奴も見た目は優男じゃねーか」

「総悟はドSだから中和とれてるんだよ。

 あたしはどっちかっつーと土方さんくらい人相悪い方がいい。

 この人なんかヒョロイし…近藤さんくらい筋肉ある人がいい」

「じゃあモンゴル相撲の選手と結婚しろ」

着物にも関わらず、足を組んで肘掛に頬杖をついた。

「…真選組と近藤さんの面子を守るために行くんだからね。

 お上のご機嫌取りに行くんじゃねーんだから」

「わーってるよ、ったく…小娘がナマ言うんじゃないよ」

ジャケットの内ポケットから煙草を抜き、口に銜えて火をつける。

は再びため息をつき、窓の外を眺めた。









To be continued