風邪引いた時はバナナか桃缶











「……アッタマいたーい…」

朝7時

は布団の中でうつ伏せになり、額を押さえてうなだれていた。

「ついでに喉も痛い…」

あーと声を出すと語尾が掠れている。

むくりと起き上がり、喉を押さえてはーっとため息をついた。

すると

ー起きろーィ」

いつもの様に勝手に障子を開ける総悟。

「…おはよー…」

寝間着のまま、ガラガラ声で返事をする

「相変わらずブッサイクな寝起きしてやがんな。つーかどーしたィその声」

障子を完全に開け、総悟は布団の前にしゃがむ。

「うるひゃいなぁ…なんか起きたら喉痛くてさァ…

 ついでに頭も痛いんだよねー…」

は額を押さえ、顔を伏せた。

「どれ」

総悟は右手の平をに額に当て、

左手を自分の額に乗せた。

「………………」

「………………」

「……どうなの?」

は眉間にシワを寄せる。

「…温い」

「ダメじゃん!!」

はバシッと総悟の手を掃った。

「…ま…いいや…着替えるから出てって。

 ちょっと遅れるけど朝礼は出るからって…土方さんに」

「2度寝すんなよ」

「分かってるよ」

額に手を当て、ふーっとため息をつく。

総悟は障子を閉めて広間へと歩いて行った。

「よっこいしょ…っと」

ババくさい声で気合をいれて立ち上がり、ハンガーにかけてあるワイシャツと隊服をとる。

着物の紐を解き、ワイシャツをはおって覚束無い手つきでボタンを締めて行った。

(なんか…指先に力入んない…)

ボタンを1つ掛け違えたことにも気づかずにそのまま上から隊服をはおる。

「風邪ひいたかな…」

腰に刀を挿して、ガラッ、と障子をあけた。






「えー今日は以前から話をしていたターミナル警備だ。

 幕府と取引がある天人が大勢来るらしい。テロを目論む攘夷派の輩もこれを見逃さないはずだ。

 全員心してかかれ!」

広間の上座で、近藤がいつものように隊士に渇を入れる。

は一番後ろに正座して、ぼーっとそれを聞き流していた。

(なんか…脳に酸素……行ってない気がする…)

広間に響き渡る近藤の声もすごく遠くに聞こえてぐわんぐわんと耳鳴りがしてくる。

(すっごい暑いし…)

隊服の襟を開くと、首筋に汗が滲んでいた。

「………イ。オイ。いつまで座ってやがる。!」

「はっ、はい!!!」

突然耳をキーンと通った土方の怒鳴り声に驚いて、

はがばっと立ち上がった。

だが。





フラ------------っ…





そのまま重心が後ろに傾いて、

頭が真っ白になって





べしゃっ






!!」

ちゃん!!」



目を回してブッ倒れた。



「局長ぉ!!がブッ倒れました!!」

「何ィ!?」

近藤は立ち上がり、慌ててに駆け寄る。

「うわあっつ!!すげェ熱だ!!」

「コイツボタン1個ズレてますぜ」

の額に手を当てて驚く近藤。

総悟はの横にしゃがんで冷静にツッコんだ。

「と、とにかく部屋に運ぼう。総悟、女中さん呼んできてくれ」

「はい」












「………ん……」

ゆっくり目を開けるとそこは再び自分の部屋の床だった。

額が冷たいと思ったら、濡れタオルが乗っている。

髪もいつの間にか解かれていた。

(……あたし…どうしたんだっけ…?)

額のタオルを押さえ、ゆっくり起き上がる。

「……っ頭…いた…」

頭痛と耳鳴りは更に酷くなっている気がする。

障子の向こうはとても静かで、人の声はしない。

ふと目線を枕元に移すと、メモのようなものが目に入った。

はそれを手に取る。





予定通りターミナルの警備に行ってくる。

お前は黙って寝てなさい



「……近藤さんの字だ」

霞む目を細め、メモを顔に近づけた。

「…寝てなさいって…子供じゃないんだから…

 でもまぁ……こんな状況で行っても迷惑ンなるしなぁ…」

メモを戻し、もぞもぞと再び布団へもぐりこむ。

「っくしゅん!!!」

潜り込んだ瞬間にくしゃみ。

「あー…もう…絶対旦那のせいだ。

 絶対全身ズブ濡れで帰ってきたからだ…」










「はっ…くしょい!!」



同時刻

万事屋銀ちゃんの居間には布団が1つ敷いてあって、

その中では家の主が同じようにくしゃみをしていた。

「ちょっと…大大丈夫ですか?だから言ったんですよ。

 あんなズブ濡れで帰ってきて絶対風邪引きますよって」

台所で新八が呆れた顔をしている。

「だいたい、さんと出掛けてなんで濡れて帰ってきたんですか?」

「あー…アレだよアレ。水かけ合いっこして遊んだんだよ」

ずびっ、と鼻をすすり、ぼーっと天井を仰ぐ銀時。

「かけ合いっこっていうか、着衣水泳しましたってレベルでしたよねあれ」













「だーいじょうぶかなぁの奴…」

相変わらず天人でごった返しているターミナルで、

近藤は腕を組みながら心配そうにため息をついた。

「ありゃ完っ全に風邪だな。全身ズブ濡れで帰ってくりゃあ誰だってああなるさ」

その横で煙草を銜え、土方が続く。

「そういやアイツ今朝、喉が痛てェとか頭が痛てェとか言ってました」

「今までも何度か風邪こじらしたことはあったが…目ェ回してブッ倒れたのは初めてだな…」

ターミナルの窓から外の景色を見下ろす。

空は雲ひとつない晴天。

「あんだけ熱ありゃいくらアイツでも動けねェよ。

 2〜3日黙って寝かしておくのがいいんじゃねーの?」

「そうだな……」












その頃は。

「……40度ジャスト」

口に銜えていた体温計の目盛りを睨み、呟く。

「…完全に、風邪だ……」

トロンと下がってくる目蓋をそのままゆっくり閉じて眠りにつこうとすると


"本庁から入電!本庁から入電!!新宿駅前の銀行に強盗5人が押し入り、

 従業員を人質に立てこもっている模様!

 至急応援をお願いします!!"


「……あぁ〜?」

はゆっくり首を動かして、枕元にたたんである隊服を見た。

隊服の無線機からその声は聞こえる。

「…本庁からだ…応援って…今皆ターミナルの警備で出払ってますけどー…」

聞こえるわけないけど、無線機に向かってそう言った。

すると



バタバタバタバタ…




「…んだようるせーなァ…」

廊下を走る足音。

はもぞもぞと布団から出て、這ったまま部屋の障子を開ける。

向こうから廊下を走ってきたのは山崎だ。

「あれっ!ちゃん!キミしかいないの!?」

「アンタこそ…局長たちと一緒にターミナルに行ったんじゃなかったの…?」

頭を押さえ、充血した目で山崎を見上げる。

「別の仕事が入って別行動してたんだ。

 そしたら今無線で…多分これを聞いてターミナルから何人か来ると思うけど…」

「ターミナルからじゃ時間がかかるでしょうが…

 本庁の連中は自分等じゃどうしようもないクセにごちゃごちゃうっせーんだから…」

障子に寄りかかり、床に両手をついてゆっくりと起き上がる。

ちゃん!?何、行く気!?」

「あたしが行かなきゃだーれが行くっつーのさ。

 せめてターミナルから応援が来るまでどうにかしないと…

 隊服とって」

山崎はに言われるまま枕元の隊服をとってに手渡した。

はワイシャツの上から隊服をはおり、ヨロヨロと立ち上がって腰に刀を挿す。

「無理だってそんな体じゃ!」

「ここで寝てたってどうせ起こされるんだから…

 パトカーは?」

「1台あるけど…」

縁側からブーツを履いて外に出る

山崎も慌ててその後を追った。

「あー俺が運転するから!!ちゃんそっち乗って!!」

ふらふらと運転席に向かうを止め助手席に乗るように言った。

は言われるまま助手席に乗り、座席に深く寄りかかってのろのろとシートベルトを締める。

「局長!山崎です!!これから入電のあった銀行まで向かいます!」

『頼むぞ!俺たちもなるべく早くそっちへ向かう!!』

無線を置き、山崎はパトカーを発進させた。

「あ、ちゃんもいるの言うの忘れた。

 …まぁいっか」

サイレンを鳴らすパトカーが猛スピードで新宿駅へと向かう。

「あ゛ぁー…サイレンの音が頭に響くぅー…」

は耳を塞ぎ、頭を垂れ下げた。

「すぐ着くから我慢して」

「しんどい…黙って車に乗ってるのって…かなり、しんどい…

 う…なんか吐きそう…」

窓を開け、顔を出して外の空気を吸いながらは口を押さえる。

ぉぉい!!駄目だよ!!キミ仮にもヒロインだからね!?

 吐いたらシリーズ終わっちゃうよ!!!」








「こちら新宿駅前の現場からお送りしております!

 先ほど午前11時過ぎに男が5人押し入り、従業員を人質に立てこもっている模様です!

 犯人は1億円の現金と逃走用の車を要求しています」

銀行前には花野アナとテレビ局のカメラが待機している。

「本庁のパトカーも続々と現場に到着しているようですが…

 真選組の到着は…」

「えー…犯人に告ぐ、犯人に告ぐー」

花野アナのアナウンスを遮るように、スピーカーからの気の抜けた声が響いた。

「無駄な抵抗はやめてさっさと出てきなさい。

 おまわりさんは今40度の高熱で辛いんだー

 さっさと帰って寝てェんだからさっさと人質を解放しなさーい」

「とんだおまわりさんだよ」

横で山崎は呆れ顔。

「皆さんお聞きになりましたでしょうか!?

 国の平和を守るべき真選組がメッチャ私事です!!

 人質がとられているというのに警察がこんなことでいいんでしょうか!?」

「うっせーなァ、人間みんな私事で動いてんだよ。

 40度熱出ててブッ倒れそうなのに国だ平和だって言ってられっか」

花野アナに睨みをきかせ、再びスピーカーを持つ。






「………聞いたか近藤さん」

銀行へ向かうパトカーの中で、無線を聞きながら土方は目を細めた。

「あー聞こえない。俺は何も聞こえない」

近藤はその後ろで耳を塞ぐ。







「あ、銀さん見て下さいよ。

 新宿駅前の銀行で立てこもり事件ですって。

 すぐ近くじゃないですか」

テレビを見ていた新八はリモコンで音量を上げる。

「物騒アルなー」

「……ん?」

画面が変わったテレビを二度見する新八。

眼鏡を上げ、目を細めてテレビにぐぐっと近づいた。

「…銀さんあれ……さんじゃないですか…?」

そう言って振り返り、テレビを指差す。

「あぁ〜?」

銀時は辛そうに首を曲げてテレビを見た。

テレビに映るニュースには、スピーカー片手に銀行前に立つが映し出された。









「ちッ…要領得ねーなぁもう…

 おい聞こえてんのか!!無駄なことやめてさっさと出てこいっつってんだよ!!」

熱のせいで頭に血が上って、口調はいつもよりも荒くなる。

すると、銀行の自動ドアが開いて

1人の男が女性社員を盾に出てきた。

「要求は言った通りだ!1億円と車用意しろ!!」

「この状態でどうやって逃げるっつーのさ?

 もうすぐコワーイ真選組もいっぱい来るし、

 あたしもこのままアンタたちを逃がす気なんかサラサラないし?」

はスピーカーを山崎に預けてフラフラと男に近づく。

「来るな!!黙って言われた通りにしろ!!じゃねェとコイツの首ブッ飛ぶぞ!!」

男はそう怒鳴って女性社員の頭に銃を突きつけた。

は目を細める。

「ヘタに刺激しない方がいいよ…

 ここは局長たちが来るまでどうか時間を稼いだ方が…」

「あたしの体がそれまでもってくれねーんだってば」

声を潜めて耳打ちする山崎の言葉を一刀両断。

とりあえず体が辛い。

40度つったらお風呂の温度。

体がそんな熱をもってんだから立っているのだってやっとだ。

すると

「……………っ」

男に捕らわれていた女性社員が、一瞬の隙をついて男の手を振り払った。

「ッこの…!!」

「山崎!!」

男の手を逃れた女性社員を山崎がしっかり保護する。

は素早く距離を縮めて軸足でジリッ、とコンクリートを蹴った。

「っ」

勢いよく振り上げた右足は





ぽすっ





・・・・・・





・・・・・・





気の抜けた音を立てて男の肩を撫でるくらいの力で当たった。

うぉぉぉおおおい!!!!ちゃーん!!!!

 
しっかり-----------!!!!

山崎の悲痛な声。

「……は…っはァッ…」

無意識に息が荒くなってくる。

(キツい…っ)

冷や汗が顎を伝う。

男はそんなを見てニヤリと笑った。

「…そんな辛ェなら此処で寝な!おまわりさんよ!!」





ゴッ!!






銃身で勢いよくの顔を殴る。

「っちゃん!!」

「ハハハハハ!!!無様だなぁオイ!天下の真選組がこのザマ…」

ツ、と口元から赤い血が垂れた。

…だが。

「っ!?」

はそれにフラつくことなく右手で銃身を掴んだ。

「……ってェな…」

その手にぐぐっ、と力を入れる。

「頭に響くって…
言ってんだろーがァァぁああああ!!!





ゴシャッ!!!!






反対の手で男の胸倉を掴み、そのまま持ち上げて

勢いよく地面に叩きつけた。

その映像はテレビががっつり捕らえて全国へ配信される。

「…は……ッはぁっ…ハッ……」

いっきに熱が上がって、体がふらついた。

すると



ドサッ



ヨロついた体を支えた大きな手。

「待たせたな」

聞きなれた声は斜め横から降ってくる。

「…遅いよ……近藤さん……」

辛そうに肩で息をしながら、は近藤を見上げた。

近藤は苦笑して「すまん」と謝る。

「総悟、をパトカーに」

「はいよ」

総悟はしゃがんでの二の腕を掴み、自分の首にかけての体を起こす。

「ちょっと…病人なんだからもっと丁寧に扱ってよ…」

「文句言うな。犯人刺激しまくった挙句殴り飛ばしといて何が病人だィ。

 黙って寝てろ」

「いでっ」

パトカーのドアを開け、突き飛ばすようにをパトカーに乗せる総悟。

は座席に蹴躓いて倒れた。

病人だろうが怪我人だろうが、ドS王子はいつだって容赦ない。

(…いいけどさ…)

はーっと息を吐き、額に手を当てて後部座席にごろんと横になる。

「全員突入!!」

近藤の掛け声で隊士全員が刀を抜きいっせいに銀行の中へ突入して行った。

「突入です!たった今真選組が銀行内へ突入しました!!」

現場は騒然として、各局のアナウンサーやテレビ局が慌しく動き始める。

は目を瞑り、耳鳴りに重なって遠く聞こえる騒がしい声を聞いていた。








"お手柄真選組・銀行強盗逮捕!人質は全員無傷"

"まさにチンピラ・問題発言目立つ女性隊士のその後は…?"




「…相変わらず好き勝手書いてんなぁ」

畳にあぐらをかき、新聞を広げて近藤は目を細める。

には見せねェ方がいいんじゃねーの?暴れ回って新聞社に殴りこみ行きそうだ」

その横でテーブルに頬杖をつきながら土方が言った。

「アイツ取り上げんなら土方さんなんかとっくに問題になってますぜ」

総悟もせんべいをかじりながら悠長に続く。

「局長ォ、女中さんに卵粥と桃缶貰ってきましたー」

障子の向こうから山崎の声。

「オウご苦労。総悟、持ってってやってくれ」

「その卵粥頭からブッかけてきてもいいですかィ?」

「今日はやめとけ。何されっか分かんねーぞ」

総悟は席を立ち、山崎からお盆を受け取る。

土方は座ったままフーッと煙草の煙を吐いた。

「寝てても起こして食わしてくれ。

 何か食わないと体力つかないからな」

「へい」

総悟はやる気のない返事をして、お盆を持ったまま廊下を歩いて行った。










………あ











なんか……いい匂いする……












重い目蓋を、ゆっくり開く。

チカ、と眩しい明かりに再び目を細め、慣れてきたころにまた目を開いた。

「起きたのか」

「っ総悟…」

頭の上にのった濡れタオルを押さえ、ぎこちなく首を回す。

「これ食えって、近藤さんが」

総悟はそう言ってお盆を布団の横に置き、後ろ手で障子を閉めた。

「……卵粥と……桃…?」

ゆっくり起き上がり、タオルを水の張った洗面器に戻した。

「…そういえば…お腹空いたかも……」

お盆を膝の上に置き、蓮華にお粥をすくって冷ましながら口に運ぶ。

「痛っ…口に沁みるー……」

左の口元にはいつの間にか絆創膏。

銃で殴られた時口が切れたんだ。

「……つか…見てられると食いづらいんだけど…」

「お前が残さねーか見張ってんでィ。

 残したら鼻から流し込んででも食わせろって、近藤さんが」

嘘だぁ!近藤さん言ってねーだろ!ぜってーそんなこと言ってねーだろ!!」

掠れた声では怒鳴った。

「そんだけ元気ありゃあ大丈夫だ。全部食べてさっさと寝ろィ」

総悟はそう言って立ち上がり、障子を開けて部屋を出て行く。

「………………」

はそれを見送り、再び自分の膝のお盆を見つめた。

そしてフォークで白桃を刺して口に運ぶ。

「……おいしい」

もごもごと口を動かしながら、いつもより静かに感じる自室を見渡した。

(なんか一応…心配されてる、っぽい)



全部、食べて


さっさと寝て




あしたからまた、頑張ろう。





明日はきっと、元気になってるような気がする。







昔っから風邪に桃缶がいいっていうのはなぜでしょうね。
熱を吸う要素でも含まれてるんか…?
白桃がいいのか、黄桃でもいいのか謎い。
近藤さんは過保護です。ヒロイン引き取って初めて風邪こじらした時はテンパったんです(笑)


お題配布元:Noina Title様