Memory-土方編-
「土方さん」
煙草を銜え、テーブルに頬杖をついてテレビを見ている土方。
はその向かいでせんべいを銜え、吸い殻が山積みの灰皿を見下ろす。
「あー?」
土方はテーブルに頬杖をつき、テレビを見たまま返事をした。
「煙草っておいしいんですか?」
ぶしつけな質問
土方は視線をに移す。
「…何だ突然」
眉間にシワを寄せ、銜えていた煙草を指に挟んだ。
「え、なんかいつもに増して山積みだから素朴な疑問」
は灰皿を指差し、バキッ、とせんべいを折る。
「別に…煙草を美味い不味いで考えたことはねーよ。
俺は吸ってなきゃ落ち着かねーってだけで」
再び煙草を銜え、吸い込んで煙をフーッと吐いた。
「一本下さい」
せんべいを食べきって、は手を差し出す。
「やめとけ。女が煙草なんか吸うもんじゃねーよ。ムセて目に沁みて終わりだ」
土方は呆れたようにため息をつき、短くなった煙草を一杯の灰皿に押し付けた。
「あ!それ差別!」
「そういうんじゃなくて…ってオイ」
は身を乗り出してボックスから煙草を1本出して口に銜える。
土方は再びため息をつき、仕方なくジャケットの内ポケットからマヨネーズ型のライターを取り出した。
「ホレ」
シュボッ、と火をつけ、の銜えた煙草の先端に近づける。
「そのまま吸い込めよ。火ィ点かねェから」
燃えていく先端を見ながら、は言われるまま大きく息を吸い込んだ。
そして
「………ッ!!!!」
「ゲッホ!ゴホッ!!ゲホッ!!ゴホッ!!!」
「ほら見ろ」
思い切り咳き込んで、煙草をテーブルの上に落とした。
土方は呆れ笑いを浮かべる。
「ゲホッ…マズッ!!つか苦!!!ゴホッ、何でこんなの何十本も吸えるんですか!?」
「慣れだ慣れ」
「こんなモン慣れたくない…ゴホッ」
が落とした煙草を拾い、灰皿に入れる土方。
は涙目になってそれを睨んだ。
「…土方さんて、お母さんのお腹から煙草銜えて出てきたっぽいですよね」
「そんなガキ俺だったら即効捨てるぞ」
まだ咳き込んでいるを横目で見て、呆れた顔をする。
「土方さーん、稽古付き合って下さいよー総悟まだ外回りから戻って来ないんです」
「胴衣に着替えんの面倒くせェ」
土方煙草の灰を灰皿に落とし、テーブルで頬杖をついた。
は唇を尖らせる。
「…昔っからそうですよね。気が向いた時しか稽古の相手してくんないの」
「山崎とかどっかどの辺のやつに相手してもらえよ」
「山崎とはミントンしか出来ないもん」
はーっとため息をつき、テーブルに突っ伏せた。
「変わんないなぁ土方さんは。もうっ」
不機嫌そうにため息をつき、テーブルに伏せたまま土方を見上げる。
「テメーもな」
煙草を銜え、土方は淡々と答えた。
第一印象はお互い、
お世辞にもいいものではなかった
7年前
『トシ!今日からコイツを真選組の隊士にするぞ!!』
・・・・・・・
『…コイツって、どいつだよ』
『コイツだこいつ!この娘!』
近藤はそう言って横にいるの頭にポンと手を乗せた。
土方の眉間にシワが濃くなる。
『……女じゃねェか』
『そうだ。それがどうかしたか?』
『どうかしたかじゃねーよ!!!こんな小娘に刀振らせる気か!?』
けろっとした顔で答える近藤に耐えかねて、土方は大声で怒鳴る。
『剣の腕は確かなんだ。この目で見たから。
話聞いたら戦で家族も家も失くしちまって、行くとこ無ェっていうからよ。拾ってきた』
『拾ってきた、…ってオイ!!!犬猫と一緒にすんな!!!』
バカがつくほどお人好しだとは分かってたがここまでだったとはな!!
国護るためとはいえ女に剣握らせるたァどーゆー了見だってお上から文句言われっぞ!!』
終始怒鳴りっぱなしの土方を見上げ、は1歩後ずさりする。
『何だよトシ、俺達これから警察になろうってのに、孤児の女の子見捨てるのか?』
『そうは言ってねェよ。誰か子供の世話できる奴に預けるとか、なんかあんだろ。
男の総悟とはワケが違う。俺等に面倒見れるわけがねェだろーが』
『そんなこと言ったってなァ、俺達の周りにそういう奴がいるわけでもないだろ?
俺だって出来るならミツバさんに頼もうと思ったが、彼女だって色々大変なんだ。
剣術の嗜みがあるってんならウチに来たほうがいいだろ?』
バカがつく程お人好し
同時に一度言い出したら動かない頑固な男だっていうことも土方はよく知っていた。
前髪を掻き上げ、ハーッとため息をつく。
そして顔を上げ、を見た。
『…お前幾つだ?』
睨むようにを見て、土方は問いかける。
『……11』
『…総悟と同い年じゃねェかよ…』
そう言って再びため息をついた。
『なっ?だから総悟とも仲良くできると思うんだ』
『アイツは誰とも仲良くなれそうにねーがな』
息巻く近藤に、呆れ顔の土方。
『第一、松平のオヤジには何て説明する?総悟の時だって結構大変だっただろうが』
『なんとか説明するさ』
近藤はそう言って笑ったまま。
土方は何度目か分からないため息をつき、額に手を当てる。
『んじゃ俺他の奴等を集めてくるから待っててくれな』
『オイちょっと待…っ』
そのままのテンションで近藤は縁側から外へ出て行った。
『………………』
『………………』
腰を浮かせた土方とが取り残される。
『…とりあえず座れよ。そこに立ってられっと落ち着かねェ』
『……はい』
は返事をしてその場に正座した。
『…最初に言っとくが』
土方が口を開いたので、はそのまま顔を上げる。
『俺は近藤さんみたく甘くねェぞ』
睨むような目つき。
『俺も今まで好き勝手暴れてきた人間だから偉そうなことは言えねーが…
幕府配下に置かれて警察になるってんだから話は別だ。
やる気がねェなら今のうちに出てくんだな』
足を組み、膝の腕で頬杖をついて横目でを見た。
は正座を守り、膝の上で硬く拳を握っている。
土方はそれを見てふーっとため息をついた。
『…お前自分の意志で此処に来たんだろ?
まァ半強制だったかもしれねェが、お前が首を縦に振らなきゃ近藤さんは連れてこなかったハズだ』
は土方の表情を窺いながらコクンと頷く。
『ここにいることでお前は普通の女より多くの敵を作ることになる。
攘夷派の人間、幕府を恨む浪士、天人…敵は多いぜ』
緩い風に揺れる黒髪。
鋭い目がを見た。
『それでもお前は、刀を握り武士として生きることを選ぶのか?』
ジャキッ
そして土方は自分の腰に挿した刀を半分抜いた。
『コレで死ぬことを、覚悟するのか?』
ギラリと光る刀身が反射して、鋭い目にも銀色の光が宿る。
は自分の姿が映るほど研ぎ澄まされた刃を見た。
『……あたし…死ぬことは怖くない…です…』
刃に吸い込まれるようにじっと銀色の光を見つめ、は口を開く。
『あの人に拾われてなければ遅かれ早かれ野垂れ死んでたと思うし…
家族が死んでから、いつ死んでもいいって思ってたから…』
齢11歳。
11歳の少女が既に「死」を理解し覚悟している。
…こんな世の中じゃ珍しいことではないが。
『"その手段が刀に変わっただけ"、ってか?』
土方の言葉に、は顔を上げた。
言おうとしていたことを見抜かれて驚いて。
『武士をナメんなよ』
鋭い目が細くなって、睨むようにを見た。
『信念持たずに刀振ったところでそりゃただの人斬りだ。
根拠のねェ武士道語ったところでその辺の浪士となんら変わりねェ。
俺たち侍には、刀を振り刀で死ぬ意味がある』
『死にたきゃいつでも介錯してやるよ。
だがテメーは近藤さんに拾われた。近藤さんが面倒見るっつったんだからしょうがねェ。
近藤さんがテメーを必要とする限り、勝手に腹切って死なせはしねェ』
刀を納めた鞘を帯から抜き、自分の横に置く。
ゴトッ、と重い音が響いた。
『……信頼、してるんですね…あの人のこと……』
『当然だ。犬猫感覚で子供拾ってくるバカだが、あんだけ人望を得てる人はそうはいねェ』
何を当たり前のことを、と土方はため息をつく。
終始乱暴な口調の彼からそんな言葉が出てくるとは思っていなくて、は目を見開いたまま土方を見た。
『……どうしたら…いいですか…?』
そして土方を見たまま口を開く。
『女のあたしが…皆と一緒に刀を振るには…あたしは…っどうしたらいいですか…?』
下唇が震えているが、丸く大きな目は強い光を放って土方を見ている。
『強くなるしかねェだろ』
当然の答え。
『誰にも文句言われねェくらい、強くなれ』
『幸い此処には、その材料が揃ってるぜ』
土方はそう言って後ろを振り返る。
広い道場の本道。
新しいとは言えない木目だが、懐かしい木の香りがする。
奥にかけられた掛け軸と、その手前にある竹刀
謎の大木。
『テメーが色んなモン敵に回しても腰に刀挿して生きるってんならそれで構わねェ。
面倒事は増えるが、俺に利害はねェからな』
再び視線を庭に戻し、足を組み直す。
『男だろーが女だろーが、最後に勝つのは最後までテメーの信念貫いた奴だ』
は目を見開く。
…前にも誰かに、同じようなことを言われた。
『テメーが強くなって、テメーの信念貫き通せば、
そこいらの野郎には負けねェハズだ。近藤さんの目利きが本当ならな』
『……あたしの……信念』
"変わらず剣を奮うなら、何のために奮いたいと思う?"
…そうだ
いつだって選択肢はあたしにあった。
そしてあたしはずっと
自分に正直な選択肢を、選んできたつもりだ。
"俺たちと来ねェか?"
「あーあー、土方さん稽古付き合ってくんないし、
ヤニくさくてたまんないから部屋でテレビでも見ようかな」
嫌味を言いながら立ち上がり、障子を開ける。
「あーさっさと行け」
土方は座ったまま興味なさそうに答えた。
は振り返ってそれをじろりと睨み、浅くため息をついて部屋を出る。
(…土方さんに稽古つけてもらったのって、ホント数えるくらいだよな…)
彼は自分も稽古で胴衣に着替えている時か、オフで本当に暇な時くらいしか自分に稽古をつけてくれない。
頼めば喜んで引き受けてくれる近藤とは大違いだ。
(総悟とはよくやってんのに…差別だっ)
すると
「オウ!戻ってたのか!」
反対側から近藤が歩いてくる。
「はい。さっきまで土方さんトコに入り浸ってました。
土方さん頼んでも稽古つけてくれないんだもん」
「お前とトシが稽古つけてるとこなんか滅多に見ないもんなぁ」
近藤は腕を組んで苦笑した。
「諦めて総悟が帰ってくるの待とうと思って」
「そうしろ。もうすぐ戻ってくると思うぞ」
「それじゃ、失礼します」
軽く頭を下げ、近藤の横を通って自室へ戻る。
近藤はそれを見送り、が出てきた副長室の障子を開けた。
「稽古くらいつけてやったらいいだろうに」
後ろ手で障子を閉めながら、あきれるように笑って腰を下ろす。
土方はそれを横目で見てふーっとため息をついた。
「アイツとの稽古は総悟以上に面倒くせェんだよ。
べーつに俺じゃなくたって誰かしら捕まえて相手させりゃあいいのに」
「はお前と稽古がしてェのさ」
「ハッ、アイツぁそんなタマじゃねェだろ?総悟とつるんで人おちょくりやがって…」
近藤の言葉を鼻で笑って受け流す。
近藤はそれを見てフ、と笑った。
「アイツは刀を持って武士として生きる上で、誰よりお前を尊敬してるんだよ」
「は?」
思いもよらない言葉に、土方は眉間にシワを寄せて近藤を見る。
「バカ言え。アイツは総悟以上に俺に敬意ねェぞ」
すぐに飽きれた顔。
「…には絶対言うなって言われてんだけどな?」
そんな土方を見て近藤が話を続けた。
『あたし、土方さんみたいになりたいです』
真選組として形を築いてその名も世間に知れて腰が落ち着いてきた頃
まだあどけなさの残るが、縁側でそう言った。
近藤は今もそれをはっきりと覚えている。
『隊士の皆、トシを慕ってるよ。誰より曲がったことが嫌いな奴だ。
武士なら誰しも奴に憧れるだろう』
その隣に座る近藤は腕を組み、真っ青な空を仰いで答えた。
『武士としてもそうだけど…やっぱ、あたしが女っていう立場で刀を握る上での生き方っていうか、
そういうの全部、教えてくれたのは土方さんだから』
はそう言って笑い、近藤に続いて空を見上げる。
『でもお前、いつも総悟と一緒になってトシをおちょくってるじゃないか』
近藤は呆れ笑いを浮かべた。
『あ、心外だなぁ、愛情の裏返しってやつですよ』
柄にでもないことを言うものだから、近藤は目を丸くしてを見る。
『敬意を形に出すのっていかにもって感じで恥ずかしいじゃないですか。
絶対気持ち悪ィって言われるし!』
「確かにな」と近藤は笑った。
『刀を腰に挿して何かのためにそれを奮う時は、常に土方さんの背中追ってたいんです。
絶対、その先に間違いなんかないから』
そう言ったの目は真っ直ぐで、
大きな瞳に映った青空はその意志を表しているようだった。
『……そうか』
近藤は柔らかく笑う。
『あ!これ土方さんには絶っ対言わないで下さいよ!?
馬鹿にされるの目に見えてるから!!』
(……言っちゃったけど)
近藤はばつが悪そうに頭をかいた。
「……馬鹿だなったく…」
フーッと白い煙を吐き、短くなった煙草を灰皿に押し当てる。
「俺の背中なんか追ったところでその先にゃ何もねェよ。
追ってるうちに墓ン中ってのがオチだぜ」
そう言いながら土方は席を立ち、障子を開けた。
「どこ行くんだ?」
「散歩だよ散歩」
障子を閉めながらそう答える。
カタン、と障子が閉まったところで近藤は呆れ笑いを浮かべた。
「やれやれ…」
(総悟との稽古と違って、との稽古じゃ無意識に手加減するからな…トシは)
稽古をつけないのはそのせいだ。
…もちろんはそんなこと知る由もないが。
土方は廊下を歩きながらスカーフを緩め、その足をの自室の前で止める。
「オイ」
障子の向こうへ声をかけた。
「土方さん?」
中から障子を開けたは、口にせんべいを銜えている。
「稽古つけてやる。さっさと着替えて広間に来い」
「へっ?」
は目を思いっきり開いて丸くした。
「さっき面倒くさいって…どーゆー風の吹き回しですか?」
「いーからさっさと準備しろよ。やりたくねーのか?」
解いたスカーフを右手に持ち、眉間にシワを寄せてを見下ろす。
「やりますやります!!すぐ着替えるんで先行ってて下さい!」
は障子を閉め、バタバタと中で準備を始めた。
土方は前髪をかき上げ、呆れるように笑ってため息をついてからそのまま広間へと向かう。
(…ホントどういう風の吹き回しだろ…)
隊服のジャケットを脱ぎながら、考える。
タンスから白の胴衣と紺の袴を出した。
「……へへっ」
嬉しそうに笑い、畳んであるそれらをぎゅっと抱き締める。
荒々しくも、
広く頼もしい
そんな背中は昔から変わっちゃいない。
総悟に続き土方編。
あたしも土方さんは煙草銜えて腹から出てきた、に1票(笑)
総悟とヒロインが11の時計算では土方さんは18のはず…です。
年の差が実物と一緒ならね!そしたら現在土方さん25だわ!いい大人の男具合だわ!(笑)
土方さんは年下嫌いなのに、慕われるって感じだと思います。
締めは近藤さん!