オトメの味方-後編-









「っ旦那」

店に入って来たのは紛れもない、

万事屋の主・坂田銀時。

一緒にいるのはサングラスの男だ。

「あ?何でお前ここにいんの?警察クビになってキャバ嬢に転職かオイ」

「違いますよ。ちょっと厄介な客を調べに潜入捜査してるんです。

 旦那も知らないフリしてて下さいね。面倒なことになるから」

は声を潜め、辺りに注意を配る。

「言われなくても面倒くせーことに首なんか突っ込まねェよ。お前等で勝手にやってくれ」

銀時はそう言って頭を掻きながらの横をグラサンの男と共に歩いて行った。

「銀さん、知り合いかあの娘?可愛いじゃねェか!!」

「顔はそこそこだけど怒らせっと何するか分かんねーぞ。つーか呼んだ本人どこ行ってんだ?」

どうやら妙に招待されて来たらしい。

は彼らの後姿を見ながら浅く息を吐く。

ちゃん!!」

焦った様子で花子が走り寄ってきた。

「あぁごめん、どしたの?」

呼ばれていたことを思い出しては花子に謝る。

「来たんや…!あの男!!」

「!」

「こっち!」

花子はの手を引き、奥のテーブルへ駆ける。

2人は物陰に隠れテーブルを覗き込んだ。

一番奥のテーブルに座る澄の横に、派手なシャツを着た金髪の若い男が座っている。

「……あいつ?」

は目を細めた。

「うん…」

花子は表情険しく頷く。

「あたしヘルプに入るから。あっちのテーブルにいる山崎…じゃなくてザキ子に伝えてくれる?」

「分かった」

花子は反対方向のテーブルに駆けて行った。

はしばらくその様子を伺い、ふーっと深呼吸して笑顔を作る。

「こんにちはーヘルプのでーす」

満面の笑みでテーブルに近づき、男に頭を下げる

澄はほっとした表情を見せた。

は男の隣に腰を下ろし、グラスに酒を注ぐ。

「どうぞ」

「アンタ新人か?見ねェ顔だな」

男はグラスを受け取り、の顔を覗き込んだ。

「今日からなんです。次は指名して下さいね」

自分こっちの仕事に向いてるんだろうか。

そんなことを思うくらい慣れてきた。

すると

「澄ちゃーん!ご指名だよー!」

入り口から店長の声。

「はい!」

澄は返事をして席を立つ。

「ごめんなさい、すぐ戻りますね」

「んだよ、つまんねェな」

男は不服そうに澄を見上げた。

澄は申し訳なさそうに苦笑する。

「澄ちゃんが戻るまで私がお相手しますから」

はそう言って男の腕に触れた。

澄は軽く頭を下げ、席を離れていく。

「澄ちゃん、お気に入りなんですか?」

空のグラスに酒を注ぎ、は男に問いかける。

「今ちょっと俺の仕事に誘ってんだ。成功すればすっげェ金になる儲け話」

男は背もたれに腕を乗せ、不敵に笑った。

の目つきが変わる。

「…へぇ、羨ましいなぁ」

「アンタからも説得してくれよ。楽して金稼げるんだからこれ以上の話はねぇぜ?」

「そうですね」

再び笑顔を作り、グラスを男に差し出した。

「厠行ってくる」

男は酒に手をつけずに席を立つ。

「お待ちしてます」

にこりと笑い、男を見上げると男は席を離れて反対方向のトイレに向かって行った。

はそこですかさず胸の無線機に手を伸ばす。

「…局長、男が来ました」

『容姿は?』

「20代半ばの若い男、金髪に紫の柄シャツ、黒のスラックスで身長は175cm前後です」

『分かった、店の周りを包囲する。

 引き続き監察を続けろ』

「はい」

音量を下げ、マイクを着物の襟に押し込んだ。

そして厠の方を見る。






「……………」

厠から出た男は、裏口に回ってカウンターで酒の準備をしている澄をじっと見ていた。

澄が酒の瓶を持ってカウンターから離れると

「きゃっ!」

裏口から手を伸ばして澄を引っ張る。

「…なぁ、例の話いい加減返事くれよ。

 俺も運び人がいないって上から文句言われてんだ」

うつろな目。

「わ、私…いや…っ怖い…!!」

強く掴まれた腕が震える。

澄は男から顔をそらして目を瞑った。

「大丈夫だよ。うまく行けばこんなトコで働くの馬鹿らしくなるくらい

 すっげー金が入るんだぜ!!なっ!?」

「やだっ…!!ねぇ、薬なんてやめて!?

 体ボロボロになっちゃうよ!!」

必死の願い。

男の顔から不敵な笑みが消えた。


「…シケるなぁ…そーゆーの」


手を掴み力が強くなる。

生気のない目で男は澄を見た。

「女のクセに…生意気なこと言ってんじゃねぇよ!!」

そして男は反対の手を振り上げる。

澄>は肩をすくめて目を瞑った。



「待て!」



「「っ」」

2人の前に立ちはだかる

「長っげー厠だと思ったらとうとう尻尾出しやがったな」

「っ何だお前」

「覚せい剤取締法違反容疑及び傷害容疑で逮捕する。神妙にお縄に付け」

そう言って警察手帳を男に見せた。

きゃあっと周りから悲鳴があがる。

遠くの席で妙やおりょうと話していた銀時も、騒ぎに気づいて裏口を見た。

「……ち…ッ!!」

男はポケットからナイフを抜き、

澄を盾に彼女の首にナイフを突きつけた。

「それ以上動くとコイツの喉かっ切るぜ!!」

男は声を荒げる。

は表情を変えず、男を睨んだ。

「…無駄なこと、やめた方がいいよ」

そう言って1歩、男に近づく。

「動くな!!」

男はそう叫んでナイフを更に彼女に近づけた。

「…だから、無駄なんだってば」

が浅くため息をつくと


「後ろガラ開きだよ」


「ッ!?」

男の後ろに女装した山崎が降り立った。

山崎は隙をついて男の手からナイフを取り上げる。

それと同時には男に接近して右足を振り上げた。




ゴッ!!!




硬い草履の蹴りが男の顎を直撃する。

その隙に澄は男の腕から脱出して山崎に保護された。

「……っく…そぉ…!!女のクセに…!!」

男はフラつき、傍にあったガラス製の灰皿を掴んでに跳びかかってくる。

は再び右足を振り上げた。

すると

「ッ」

着物の裾がビンッ、と突っ張って、足が前に出なくなった。

(うそぉ!!!)

全身の血がサーッと引く。

「っちゃん!!」

山崎の焦り声。

script language="JavaScript"> は思わず顔の前で手を交差させて目を瞑る。


ゴッ!!!



鈍い音。

灰皿はの頭に直撃した…

かのように見えた。

「…旦那……っ」

の前に立つ銀時は、木刀で灰皿を受け止めている。

「ったく…テメーと居合わせるとロクなことねェな」

「ち…っ!!」

男は灰皿を捨て、裏口へ逃げようと走った。

「ホラ、逃げられるぞ」

銀時の言葉ではハッと我に返り、

着物の裾をガバッと開く。

「…っ待ち…やがれ!!!」

そして右の草履を脱いで勢いよく男に向かって投げつける。

堅い草履は男の後頭部に直撃して、男はその場に倒れた。

!!」

裏口の戸を開け、近藤たちが突入してくる、

店内はいっきに騒然とした空気になった。

「あ?何でテメェがここにいんだ?」

の横に立つ銀時に気づいた土方が眉をひそめる。

「俺がどこで酒飲もうがテメーにゃ関係ねーだろ」

「こんなトコ来て破産寸前なんじゃねーのか?

 テメェはドンペリ10倍薄めた奴のがお似合いだぜ」

「テメー等みてーな税金泥棒がいるから世の景気は下がる一方なんだよ」

醜い言い争いを始める2人をよそに、はゆっくり男に近づいた。

男を睨むように見下ろし、うつ伏せに倒れている男の腹を蹴って転がす。

そして




ドゴッ!!




ぐ、ぇ…っ!!

右足を上げてそのまま男のみぞおちに振り落とす。

「女にボッコボコにされる気分はどーよ?

 あ゛ぁー?」

男の腹に乗せた足に体重をかけ、

ぐりぐりと左右に捩る。


(((ドS王女降臨なさったぁぁぁああああ!!!!))))


全員の顔が青ざめた。


「弱い奴に暴力奮う腐れ野郎は…半殺しだ半殺し!!!」



ゴッ!!!



ぐぼぁ!!

腹から足を離し、再び勢いよく振り下ろす。

「ちょ、そろそろ止めた方がいいんじゃねーの?

 あの顔でドSに目覚められたら俺ショックなんだけど」

「お、おい!!もういーからタンマ!!あと俺達やっとくから!!

 総悟を止めてェ!」

銀時の言葉に慌てる近藤。

近藤に言われて総悟は後ろからを押さえた。

「土下座してあの子に謝れ!!」

総悟に押さえられながら、は後ろにいる澄を指差す。

「力の弱い女の子に手ぇ上げて強くなった気でいる奴が一番ムカつくんだよ!!

 強さ見せびらかしてェならそれを護るために使え!!

 抵抗出来ない奴にそれを向けんな!!!」

店内にの怒鳴り声が響いた。

「「………………」」

近藤や土方は目を細めてを見る。

「…

後ろからを押さえていた総悟が口を開いた。

「もう聞こえてませんぜ」

総悟はそう言って顎で倒れている男を指す。

男は泡を吐いて伸びていた。

聞けコルァァアアア!!!

「どーどー」

再び男の胸倉を掴むと、それを抑える総悟。










数分後、本庁の警察も到着して男は送還されて行った。

が店の椅子に座り、テーブルで頬杖をついていると

「相変わらずやること派手だなオイ」

の前に水を出し、隣に腰を下ろす銀時

「やっぱお前アイツ等そっくりだわ」

ため息をつき、自分は酒の入ったグラスを手に持った。

「…助けてもらって、ありがとうございました。

 妙ちゃんはよくあんな動きにくい着物で暴れられるなぁ」

銀時に浅く頭を下げ、奥で駆け寄ってきた近藤を蹴り飛ばしている妙を見る。

「普段のお前なら放っとくんだけどよ。今日はそうもいかねーだろ」

頬杖をついて酒を口に運ぶ。

は苦笑して、再び自分の手元を見た。

「…落ち着いてるつもりだったんですけどね。

 どうも自分で作った道理に反する奴見るとそうもいかないみたいで。
 
 だからいつまで経ってもガキだって土方さんに言われるんですけど」

「いいじゃねーか、ガキだって」

はグラスから口を離して銀時を見る。

「お前の作った道理は間違っちゃいねェよ。

 お前だからこそ作れる道理でもあったんじゃねェの?」







『…っ悔しい…』








「…思い出すなぁ」

大分落ち着きを取り戻した店内で、近藤がしみじみと口を開いた。

「何が」

土方は煙草を銜えたまま興味なさそうに返事する。

「ホラ、が道場に来て間もない頃、

 よく近所の子供と喧嘩して帰ってきたことあったろ?」

「…あー…毎日のように傷作って帰ってきたな…」

土方も思い出すように言った。





!!どうしたんだその傷!!』

総悟と一緒に道場に帰ってきた

顔や腕にはかすり傷や痣が多数見える。

『どっかの門下生が"女のクセに刀持ってんのはおかしい"って、

 ケンカふっかけてきたんでさァ』

黙っているの代わりに総悟が答えた。

『……………』

は唇を噛み締め、泣くのを堪えるように下を向いている。

『放っときゃいいだろ。そーゆー奴はテメーの弱さを認めたくねーから突っかかってくんだよ』

襖の縁に寄りかかり、興味なさそうに土方が言う。

『……総悟!』

はがばっと顔を上げ、隣の総悟の手を掴んだ。

『稽古しよう!』

そのまま総悟の手を引っ張って本道へ走る。






「…人一倍、女っていう括りで見られることに敏感な奴だからなぁ…

 今回のことも、人事に思えんかったんだろう」

近藤は腕を組み、柔らかく笑ってカウンターのを見る。




「女だからどーのこーのって偏見とっ掃って、

 その力で自分の護りてェもん護ってんだからよ。

 やり方が荒っぽいのはさすがチンピラ警察って感じだけどな。俺ぁ好きだぜ。お前の武士道」



を見て笑う銀時。

は目を見開く。

すると

「あの…」

澄と花子がカウンターに近づいてきた。

「怪我…なかった?」

はくるっと椅子の向きを変えて澄の顔を覗き込む。

澄はこくんと頷いた。

「本当に……ありがとうございました…」

そして深々と頭を下げる。

「ありがとうちゃん」

花子も続いて頭を下げた。

は椅子に座ったまま2人の頭を見下ろす。

「……いいんじゃねーの」

横で銀時が口を開いた。

「お前の荒っぽい武士道と道理で守れるモンがあるなら、それで」





『変わらず剣を振るうなら、何のために振るいたいと思う?』






「……そうですね…」

はつられて柔らかく笑う。

「また旦那に借り、作っちゃいましたね」

「いいよ別に。パフェ2倍で返してくれれば」

面倒くさそうに頭を掻く銀時を見て、は再びふふっと笑った。

ー!帰るぞー!!」

向こうから近藤の声。

「はーい!」

は返事をして席を立つ。

「それじゃ旦那、また後で。

 オフもらったら約束通りパフェ奢りますから、予定開けといて下さい」

「おう」

ぺこん、と浅く頭を下げ、はカウンターを離れて行った。

「ほんっと、お前の行くトコ行くトコ事件だらけだなオイ。

 疫病神め」

「トラブルメーカーちゃんと呼んで下さい」

「カワイ子ぶっても変わんねェよ」

土方は呆れ顔でを見下ろす。

「あーあーそこそこいい着物だろうになぁ」

「着る人間で着物も可哀相に見えるってでヤツでさァ」

近藤が言うように、綺麗な着物の裾は肌蹴て汚れているし、

帯なんか今にも解けそうなくらいぐちゃぐちゃだ。

「うるさいなぁ、こんなのたまにしか着ないからいいんだよ。

 山崎!あたしにも着替えちょうだい!!」

既に隊服に着替えて化粧を落としている山崎。

は山崎に駆け寄って行く。

「…まーた上から派手なことやったって嫌味言われじゃねーの?」

煙草を銜え、近藤の横で土方が言った。

近藤は苦笑する。

「まぁ、どうにか言い訳するさ。もう慣れた」



「アイツには、幾つになっても自分の正しいと思ったことやって貰いてェんだ」



ニカッと笑う近藤。

土方は呆れるように笑った。

「アンタんトコで育ったんだから、その辺は大丈夫だろ」

「トシのお陰で逞しくなったトコもあるよな」

2人は顔を見合わせ、再び視線をに向ける。

「当面は心配いらねーよ」







やっと警察っぽい仕事(笑)
山崎の女装は可愛いと信じてます。
パー子とヅラ子に引けを取りません。