オトメの味方-中編-









「へーっスナックの裏口ってこうなってるんだ…」

かぶき町にあるスナックすまいる。

は花子に連れてこられ、そのまま裏口へ案内された。

化粧室には綺麗な着物や鬘、ドレッサーが並ぶ。

ここで身支度を整えたホステスたちが客の元へと出て行くのだろう。

「それで…?もう1つあたしに頼みたいことって?」

は首をかしげ、花子を見る。

「…うん……」

花子は躊躇いがちに顔をそらし、開店前の店の隅にいる、

1人のホステスに目をやった。

「澄ちゃん」

花子がそう呼ぶと、そのホステスは振り返る。

「おはよう花子ちゃん。どうしたのその人、新入り?」

2人に駆け寄ってきたそのホステスは不思議そうにを見つめた。

「あのな…この子私の友達なんやけど…警察官やねん」

「、」

声をひそめた花子の言葉を聞くと、彼女の顔が強張った。

「それで…あの事、相談した方がええと思って連れてきたんよ…」

真剣な顔で澄と呼ぶホステスと向き合う花子。

なにやら神妙な面持ちだ。

「…あの事?」

は首をかしげる。

「………………」

澄は顔を強張らせたまま俯いた。

花子は場の雰囲気を読み取り、再び人気のない裏口へと2人を誘う。

「澄ちゃん、ちゃんは女の子の味方になってくれる警察や。1人で抱え込まんと、相談した方がええよ!」

澄の肩を掴み、説得する花子。

はまったく状況が読めない。

「あのー…何の話だか全然わかんないんだけど…」

は困った顔で右手を挙げた。

すると

「………私…っ」

思い切ったように澄が口を開く。


「お客に…っ暴力振われてるの……!!」


「ッ」

勇気を出して吐き出したという様子。

は目を見開き、眉間にシワを寄せた。

「…暴力…?」

「彼…っ薬に…手を出してるみたいで……

 金になるから一緒にどうだって誘われて…っ

 怖くなってもうお店に来ないでって言ったの…そしたら…っ」

震えた声でそう言いながら、澄は着物の袖から腕をそっと出す。

腕には青い痣が広がっていた。

「っ!」

の表情がいっきに険しくなる。

「お店を出て誰もいないところで殴りかかってきて…

 誰かに言ったら殺すって言われて…それから何度も店に来るの!私…ッ怖くて…!!」

動揺している彼女の肩を、花子がそっと支えた。

「私がたまたま着替えの時この痣見てしもてん…

 この店で事情しってんのは私だけやし…」

花子は泣きだしそうな澄を宥めながら困惑した表情を浮かべる。

はそっと姿勢をかがめ、澄の顔を覗き込む。

「…殴られたの、1回じゃないの?」

澄は半泣きでこくんと頷いた。

「お店に…っ来るたび…顔だとバレるからって……腕とか足とか…っ」

「……………」

姿勢を戻すの目付きが変わった。

「…ちゃん」

花子はを見上げる。

「…大丈夫。任して」

強い目。

「とりあえず…薬が絡んでくるとあたし1人じゃどうしようもないから…局長に連絡するわ」

「でも…ちゃん…」

「大丈夫だよ。その子のことは絶対護るから」

は花子にそう言って笑い、携帯を開いた。



ピリリリリリリ…



「はいもしもし、オウ、か。

 さっき痴漢の犯人捕まって連絡が…は…?薬?」

近藤の声に、土方と総悟の目つきが変わる。

「ええ、あたし今スナックすまいるにいるんですけど」

『何っ!?お妙さん!お妙さんもいるのか!?』

「いるんじゃないですか?まだ見てないけど…ってそうじゃなくて、

 そこの女の子に言い寄ってくる男が、薬の密売に一役噛んでるみたいなんですよ」

『何!?その女の子ってお妙さんじゃねェだろうな!?』

「違います。じゃあその言い寄ってくる男ってアンタだろ」

はいい加減面倒くさくなって眉間にシワを寄せた。

「そいつ…ヤクに手ェ出してその子に暴力振ってるらしくて…

 さっき相談を受けたんですけど、薬が絡んでくるとあたし1人じゃ処理できないんで…

 応援をお願いしたいんですけど」

『なるほど…分かった、すぐそっちに向かう。

 お前はそこでしばらく待機してろ』

「了解」

は携帯を閉じ、ふーっと息を吐いて前髪をかき上げた。

すると


「皆揃ってんねー早速ミーティング始めるよー」


グラサンの店長が入って来た。

「ん?君初めてみる顔だな」

「あ、ウチの友達なんです!」

グラサンを上げ、近づいてきた店長。

花子が慌ててに駆け寄った。

ちゃん!」

傍にいた妙は驚いてを見る。

「可愛いね!!どう、ウチの店で働かない!?」

そう言っての前に回りこむ店長。

「捜査にご協力お願いします」

袖の中から警察手帳を出し、店長の前に出す。

「けッ、警察ぅ!?ちょっ、何!ウチの店は違反なんかしてないよ!?」

「この店じゃなくて、この店に来る客を調べるんです。

 あたしが店員に成りすましてそいつに近づくんで、

 営業はいつも通りお願いします」

慌てる店長に冷静な対応を返す

ちゃん…どういうことなの?」

妙が心配そうな面持ちで近寄ってくる。

「ごめん妙ちゃん、お仕事の邪魔はしないからちょっと協力して」

は苦笑して顔の前で手を合わせた。

「…ちゃんがそう言うなら…」

「えー…と、ホステスの接客とかってよく知らないんだけど…

 何?酒注いで話すればいいの?」

は隣の花子に問いかける。

「うん、基本は。でも寄ってベタベタ触ってくるお客もいんねん、気ィつけなアカンよ」

「気に入らない客がいたらとりあえずガンガンドンペリ頼ませておけば

 そのうち底が尽きて帰っちゃうから大丈夫よ」

妙はそう言ってにっこり笑った。

と花子は乾き笑いを返す。

すると



ピリリリリ



「っ近藤さんだ」

携帯の音を聞き、は走って店の外へ出た。

店の前には近藤と土方、そして総悟や他の隊士も何人か待機している。

「近藤さん!」

が駆け寄ると、3人は目を丸くしてを見た。

「…馬子にも衣装ってこのことだな」

「やっと見れるようになったって感じか」

「ホステスっていうより七五三だろお前」

頭の先から爪先までをまじまじと見つめる3人。

「テメーら後で覚えてろよ」

はひくっと口を引きつらせた。

「……とりあえず今後の指示を貰いたいんですけど」

怒りを抑え、近藤を睨む。

「ああ、お前と山崎を潜入させようってことになった」

近藤は腕を組んでを見下ろした。

「え、局長たち中で張らないんですか?」

「俺だってそうしたいの山々なんだがなぁ…

 俺達は顔が知れてるから中には入らない方がいいってトシが」

ふーっと残念そうにため息をつく近藤。

「男が店に来たら容姿と行動を細かく連絡入れろ」

土方がそう言うと、総悟が無線機を差し出す。

はそれを受け取り、親機を帯に入れ、イヤホンとマイクを着物の襟に忍ばせた。

「その男ホントに今日来るのかィ?」

「……来るよ、絶対」

は強くそう答え、顔を上げる。

「おい!お妙さんは本当に大丈夫なんだろうな!?」

がしっとの肩を掴む近藤。

「あの子は店に強盗が入ったとしても大丈夫ですよ」

は呆れ顔で近藤を見る。

「俺達は店周辺に散らばる。男が店を出たらすぐ連絡しろよ」

「分かりました」

近藤の言葉に返事をして、は再び店に戻ろうと向きを変えた。



土方が呼び止める。

「ヤクの中毒者ってのは厄介だ。…丸腰だってこと忘れんなよ」

銜え煙草の険しい表情。

はニッ、と笑う。

「誰に言ってんスか」

そして足早に店の中へ戻って行った。

土方ははーっとため息をつく。









「はーいそろそろオープンするよー!

 皆入り口に並んでお客様をお出迎えしてー!!」

パンパン、と手を叩く店長。

店員のホステスは階段を上って入り口の前にずらりと並ぶ。

(やー…いい経験っちゃあいい経験だよな…

 警察やっててホステス体験出来んだから)

「ダメだよそんな歩き方じゃ」

「っ」

隣に並んだホステスが口を開いた。

綺麗な着物

鮮やかに飾られた鬘



「山崎……?」



は眉間にシワを寄せる。

「鬘ってかゆいから苦手なんだよなぁ…」

地肌と鬘の間に指を入れ、唇を尖らせる山崎。

(……なんか)



……負けてる気がする…

レベル的に。



「ん?化粧どっかおかしいとこある?」

の視線に気づいて山崎は首をかしげた。

「…違和感ねーからおかしいんだよアンタは」

はーっと落胆したため息をつき、額に手を当てる。

ちゃん、ザキ子ちゃん、お客様が見えたわよ」

「…ザキ子」

妙の言葉には怪訝な顔。

「ほら、頭下げて」

山崎はそう言っての頭をぐいっと押した。


「「「いらっしゃいませー」」」


開店と同時に、ぞろぞろと沢山の客が入ってきた。

は山崎に頭を押さえられたまま、横目でチラ、と客の列を見る。

客のほとんどは気風のいいオヤジ。

(…人生下り坂まっしぐらのオヤジ共が癒しを求めてくるわけだ…)

もっとも、自分の上司の約2名もその中に含まれているが。

「お客様ご指名は?」

「妙ちゃんをよろしく」

「俺は阿音ちゃんがいいな」

客はそれぞれのお気に入りを指名して席へを向かう。

ちゃん、私の席のヘルプに入ってもらえる?」

妙がそう言ってに近づいた。

「…へるぷ?…って何?」

「私の席に一緒にきて、お酒を作ったり私の手伝いをして欲しいの。

 ザキ子ちゃんは阿音ちゃんのところにお願いね」

妙はさすが慣れた様子で席へ客を案内していく。

「とりあえず…あの子から目を離さないでね。それから無茶は禁物だよ」

「分かってるよ」

そしてその場では山崎と別れ、妙の席へと向かった。

(…要はニコニコしてオヤジと喋ればいいんだよな…)

席に近づき、営業スマイルを作る。

「どーもー妙ちゃんのヘルプのでーす」

客の前で頭を下げ、席に座った。

「お、可愛いね!新人さん!?」

「そうなの。自慢の新人よ、可愛いでしょう?」

妙も笑って客に酒を注ぐ。

「こちらの方も1杯どうぞ」

今までにないくらいの笑顔で酒のビンを持ち、隣に座る男のグラスに近づけた。

「可愛いなぁ!!今度来たら指名しちゃおっかなぁ!!」

「是非ご贔屓にしてくださいね」

(次なんかねーよバーカ)

にこりと笑う笑顔の裏に腹黒。

ちゃーん!ちょっと来てー!」

遠くで花子の声。

「はーい!」

「それでは一度失礼しますね。ごゆっくりどうぞ」

返事をして笑顔で席を離れる。

(…ちょろい)

くるりと向きを変えた瞬間に営業スマイルが消えた。

(…伊達に子供の頃から近藤さんの接待に付き合わされてたわけじゃないのよ)

「いらっしゃいませー」

油断した顔で歩いているとまた新たな客が案内されてきた。

は慌てて顔と姿勢を作る。

「いらっしゃいませ」



「「あ」」



目の前を歩いてきたのは

「…旦那…」




To be continued