オトメの味方-前編-
チャララー チャラッチャー♪
チャララー チャララーララー♪
朝7時過ぎ
枕元で響く「太陽に吠●ろ」のテーマ。
「……んぁ?メールだ…」
はゆっくり起き上がり、ボサボサの髪を手ぐしで直しながら携帯を見る。
新着メール1件
<<花子ちゃん>>
「…花子ちゃん…?珍しいな…」
目を擦り、受信ボックスを開いた。
花子は妙と同じくスナックすまいるで働くホステス。
大阪から上京してきた彼女とは、妙を通じて仲良くしていた。
From:花子ちゃん
件名:久しぶり(*^□^*)
本文:ちゃん久しぶり!ちょっと相談したいことがあるんやけど…今日時間ある?
「……相談したいこと…?」
目を細め、本文を消してあたらしいメール作成画面を開く。
(何だろ…また悪徳商法かな)
From:花子ちゃん
件名:Re.久しぶり(*^□^*)
本文:いいよー♪夕方には外回りが終わるから、その時に喫茶店で待ち合わせよう(^_^)
"送信"
「近藤さーん」
「何だー?」
広間で朝食をとりながら、は上座にいる近藤に声をかける。
「あたし今日遅くなるんで。夕飯いらないって女中さんに伝えて下さい」
「何だ、友達の家にでも行くのか?」
「まぁそんなとこです」
茶碗を片手には口を動かしながら答えた。
「野郎の家に泊まりにいく時、年頃の娘は十中八九ダチの家って言うんでさァ」
「何ィィィィィィ!!!!誰の家に行くのかしっかり教えていきなさい!!」
「…お父さんかアンタ」
ご飯粒を飛ばしながら近藤は大声をあげる。
は呆れ顔で近藤を見た。
「花子ちゃんと約束してるんです」
焼き魚のししゃもを口に頬張り、は言う。
「花子ちゃんって…お妙さんと同じスナックで働いてる子か?」
「そうです。なんか相談あるっていうから、ちょっと話してこようと思って」
ご飯を綺麗に食べ終えて、端を椀の上に揃えた。
「じゃ、行ってきます!
あ、土方さんにも後々グダグダ言われたくないからちゃんと伝えて下さいね」
横の置いていた刀を腰に挿し、広間を出て行く。
「……何だ、女の子か」
近藤はふーっと安堵のため息を漏らした。
「近藤さんは少し心配し過ぎなんでさァ」
「いやーまた家出とかされちゃたまんないからなぁ」
(過保護だなぁ…)
総悟はずずーっと茶をすすりながら呆れた顔をする。
「えッ、痴漢!?」
「しーっ!ちゃん声デカイわ!!」
夕方、喫茶店で思わず大きな声を出した。
花子が慌てて口の前で人差し指を立てる。
「ご、ごめん…でも…本当なの?
電車の中で痴漢なんて」
は少し姿勢を前に出し、声を潜めて花子を見た。
「うん…」
花子は暗い顔でこくんと頷いた。
「ウチな、たまに仕事場まで電車で通うんよ。
妙ちゃんやおりょうちゃんと一緒の時はタクシー使こうてんけど…
必ずあたしが電車使う時見計らってくんねん、ソイツ」
はテーブルに頬杖をつき、花子の言葉に耳を傾ける。
「混んでるのをいいことに後ろから近づいてきてな、
お尻触ってくんねん!気持ち悪ぅてかなわんわ!!」
「…妙ちゃんたちには?相談したの?」
ストローでアイスカフェオレを飲む。
「ううん…心配かけたないし…
妙ちゃんに言ったらなんか逆に犯人殺しそうやん?
だから警察のちゃんに言うのが一番いいと思ったんよ」
「…うん、正しい判断だと思うよ」
ずずーっと最後の1滴まで飲み干して、
グラスを端に寄せてテーブルに肘をつく。
「何時の電車?」
「6時半発の大江戸線…いっつもその時間ホームが混んでて
乗るの最後尾になってまうんよ」
「…なるほど、それを付け狙ってるわけね…
非道極まりねェなぁ…」
親指の爪をカリ、を噛み、眉間にシワを寄せる。
「よっしゃ!女の敵!!絶対逮捕して土下座させようじゃねーの!!」
「ちゃん格好ええ!!」
「おい、どこ行った?」
午後6時過ぎ
広間に夕飯が並べ始められた頃
いつもなら誰より早く席についているの姿がないことに、土方が気づいた。
「あぁ、「今日は遅くなります」って」
「何で」
隣に腰を下ろす近藤の言葉に眉をひそめる土方。
「さっき電話きたけど、友達の女の子が電車で痴漢にあってるから助けてやるんだと」
「助けてやるって…電車で刀振り回す気か?」
「さァ…自分が囮にでもなるつもりなんじゃねェのかな」
「…囮?アイツが?」
土方は目を細める。
「前も後ろも真っ平らなくせに囮なんて勤まるんでしょうかねェ」
「誰も引っ掛かんねェだろ」
広間にギャハハハハと笑い声が響いた。
「…っふぇ…っくしゅん!!!」
盛大なくしゃみ。
「大丈夫?」
「噂されてっかな…」
心配そうに顔を覗き込む花子。
はぐすっと鼻をすすり、首をかしげる。
「しっかし…足がスースーするなぁ…」
桃色の色鮮やかな着物に袖を通した。
いつも横で1つに結わえていた髪を後ろでアップにして、
かんざしとヘアクリップで綺麗に飾っている。
「ちゃん可愛いわぁ!ちゃんとした格好すれば美人さんなのにねェ!!」
「一言余計だよ花子ちゃん」
巾着を右手に持ち、呆れた顔で花子を見た。
「いつも袴とブーツで歩いてたからなぁ…
着物で草履って超久しぶり」
カランとなる草履
慣れたブーツと比べるとやはり歩きにくい。
(普通の女の子はこれが普通なんだろうけどね)
そうこうしている間に、ホームに電車が入ってきた。
「最後尾だったよね」
「うん」
「よし、乗ろう!」
は花子の手を引き、彼女の前を歩いて電車に乗り込む。
車内はほぼ満員。
座席はもちろん、つり革も埋まっていた。
「は、花子ちゃん!いっつもこんな電車乗ってんの!?」
「そ、そうや!」
2人は揉みくちゃになりながらなんとかドアの前に留まった。
(パトカーって楽チンだなァ…)
そしてそんなことを改めて実感する。
"発車します。閉まるドアにご注意下さい"
アナウンスと同時に、すべての車両のドアが閉まる。
(刀がない上にこの混み様じゃ…あんま派手なこと出来ないなァ…)
ドアに映る自分の顔を睨み、
何か手立てはないかを考える。
すると
「……っちゃん…!!」
「ッ」
横から消えるような声が飛んできた。
は目つきを変えて花子を見る。
「…来おった…!!」
の着物の袖を掴む花子の手。
はゆっくり視線を後ろへ向ける。
「……どいつか分かる…?」
声を潜め、少し姿勢を落として花子に問いかけた。
「私の斜め後ろ…!眼鏡の太った男や…!!」
花子はぎゅうっ、と強くの着物に掴まって目をつぶる。
は周りに気づかれないように眼鏡の太った男を捜した。
(……いた…!)
花子の右斜め後ろに、眼鏡をかけた中年の小太り男が立っている。
その左手は不自然に人込みの中にあった。
は目を細め、その左手を追ってそっと花子の後ろに手を忍ばせる。
そして
「ッ!」
勢いよく掴んだ太い手を、そのまま高く上に上げた。
「な、何だお前…!!」
「えー…6時43分、痴漢容疑で逮捕ー
はいブタ箱行きー」
着物の袖から携帯を出して時間を確かめる。
「ち、痴漢なんかやってない!!濡れ衣だ!!!」
慌てる男に、周りの客もざわめき出した。
は男の手を掴んだまま、ふーっとため息をつく。
そして左手で胸元から警察手帳を出した。
「…ッ真選組…!?」
「そうッスよーこのまま嘘ついてればもっと怖ーい連中に尋問されちゃうんだから。
瞳孔開きっぱなしのマヨラーとか、拷問好きのドSとかね」
ニヤリと笑うの目から笑みが消える。
「大人しく吐いちまえば楽だよっ、と!!」
「いででででででで!!!!」
掴んだ腕をそのまま捻って男の背中に着けた。
<新宿ー新宿ー>
駅で降りたは、現場に待機していた本庁の警察に痴漢犯人を引き渡した。
「ご協力感謝します」
「はいどうも」
びしっと敬礼する警察官に気の抜けた敬礼を返し、
ふーっとため息をつく。
「ありがとぉちゃん!ほんまに助かったわ!!」
「よかったね。でもこの時間って変な人多いから、気をつけるんだよ」
「うん、ホンマにありがとう!」
の言葉に、花子は嬉しそうに笑う。
「じゃあお店まで送るよ。かぶき町だよね?」
「あ、うん…それでなちゃん…もう1個お願いがあるんやけど……」
「?」
躊躇いがちにを見上げる花子。
は首をかしげた。
To be continued