純情乙女血潮録-後編-
「何だ、結局桂の野郎見つからなかったのかィ」
「見つからなかったのかィって…アンタもあの辺捜索に行ったんで、しょっ!?」
鍛錬場に響く木刀同士がぶつかる音。
「相変わらず逃げ足だけは速い奴だァ、
変装して人込みに紛れられたら手の打ち様がねーだろィ」
勢いのいいの突きを避け、
後ろに回りこんで木刀を振り下ろす。
が避けた木刀は板の間に大きな音を立てた。
「とかなんとか言ってサボって戻ってきたんでしょ」
「人聞きの悪いこと言うなィ。オメーもだろ」
「あたしは山崎が別の仕事で抜けたから仕方なく…あっ!!」
バシッ!!
素早く間合いに詰めてきた総悟の木刀に、
しっかり握っていたハズのの木刀が弾かれた。
木刀は音を立てての足元に落ちる。
「ハイ残念でしたー」
木刀の先をに向け、ニヤリと笑う。
「…くっそー…」
「この総悟様から一本取ろうなんざ1億年早いんだよ」
落ちた木刀を拾い、自分の木刀と一緒に立てに戻した。
「業務サボって稽古たァ、随分熱心じゃねーか」
「「ッ」」
低いドスの効いた声に2人はビクッと肩をすくめる。
そして恐る恐る入り口を見た。
声の主は戸に寄りかかり、煙草を銜えている。
「「…土方さん」」
「とっとと検問行って来い。休んだら切腹な」
「あ-------っ…超寒いんですけどォ--------」
車がヘッドライトを点けて走る時間帯。
は笛を銜え、赤灯を持ってぐすっと鼻をすする。
「総悟はまだあったかい隊服だからいいとして…
あたし生足出してんですけどー」
自分以外誰もいないのに、白い息を吐きながらぼやいた。
向こうから車が走ってくる。
「はーいちょっと止まって下さいねー」
銜えていた笛を吹き、止まった車の運転席に近づいた。
「今検問中なんでー免許証出してもらっていいですかー?」
「あァー!?真選組か!?俺たちゃ幕府と取引ある国の天人だぞ!?」
運転席の窓を開け、顔を出してきたのは天人。
「一応規則ですんで、免許証お願いします」
「ちッ…しょーがねーなァ…」
運転手の天人はしぶしぶ免許証をに見せた。
はそれを受け取り、身分を確認する。
「…しっかし…真選組に女がいたとはしらなんだ…」
助手席に乗っていた天人も身を乗り出してを見た。
「女隊士なんて何考えてんだろーな真選組も!」
「男所帯の娯楽なんじゃねーの!
幕府の犬が更に堕ち潰れやがった!!」
声を揃え、汚い大きな声で笑う天人達。
慣れたこと、とはその声を聞き流しながら免許証に目を通す。
「局長の近藤に副長の土方、俺達に使われるだけの猿の
考えてることが知れねーや」
「ッ」
の目つきが変わった。
「所詮猿は猿並の脳みそしか…」
ジャキッ!!
「「ッ!!」」
は勢いよく抜いた刀の刃先を窓の前で止める。
「…犬だろーが猿だろーがゴリラだろーが、
あたしにとっては大事な人たちなんだよ」
「あたしを詰るのは構わない。
けど今度局長や副長のコト好き勝手言ってみろ…斬り殺してやる。
法令なんかクソくらえだ」
綺麗な顔付きにそぐわない、殺気に満ちた目つき。
ぞく、と背筋を冷たいものが走る。
「……っち…!!お、覚えてろよ!!
上官に言いつけてやる!!」
天人たちは早々と窓を閉め、免許証を受け取らずに猛スピードで車を走らせて行った。
「……………」
はふぅ、とため息をついて刀を下ろす。
「あーららこららー」
「っ」
去っていった天人と入れ違いに、
やる気のない低い声が近づいてきた。
「…万事屋の」
「警察があーんなこと言っていーいのかなァー?
ヘタすりゃクビ飛ぶぜ。真選組さんよー」
ニヤニヤと笑いながら近づいてきたのは、あの時大江戸マートの前であった男。
坂田銀時。
は刀を鞘に収める。
「仲間を馬鹿にされても黙ってないと繋がらないようなクビなんか、こっちから切ってやるってんですよ」
そう言ったを見て、銀時は目を丸くした。
そしてすぐにフ、と柔らかく笑う。
「…いい目してんな、お前」
「どーも。あー寒ッ…桂ァ…さっさと出て来いこのヤロー」
制服の襟を立たせ、白い息を吐いてが眉間にシワを寄せた。
銀時は頭を掻き、首の赤いマフラーを巻きなおす。
「仕事疲れの婦警さんに、銀さんがおでんを奢ってあげよう」
「おじさん、大根とがんもと結び昆布」
「はいよ」
河川敷下の屋台
客は丁度自分達だけ。
は「いただきます」と丁寧に手を合わせてから
出されたおでんにかぶりついた。
「しかしよォ、俺もチンピラ警察に女がいるなんて知らなかったぜ」
「んーあんまかぶき町の方巡回に行ったことないんですよねー
池田屋の時は長官にくっついて出張にいってたし、
おたくらの噂は総悟に聞いてるんですけど」
結び昆布を口に銜え、は答える。
「ムサイ男連中に紅一点たぁ…珍しいこともあるもんだな…」
徳利から猪口に酒を注ぎ、銀時は言った。
は横目で彼を見る。
「ゴリラとマヨラー馬鹿にされた時の目は、
普通の人間のモンじゃあなかったぜ」
酒を一口、口に運び、銀時はそう言ってを見る。
はもごもごと口を動かしながら、提灯の灯りに照らされた自分の手元を見た。
「…あたしの家族、戦に巻き込まれて死んだんですよ」
そして口を開いた。
銀時は猪口を口から離し、を見る。
「家もなくなっちゃって、ほかに親戚もいなくて、
路頭に迷ってたあたしを拾ってくれたのが…
近藤さんだった」
箸をコト、と皿に置き、もグラスを持った。
「死んだ父親が道場開いてて、あたしも小さい頃から木刀振ってたんです。
行くとこなくて木刀ぶら下げて歩いてるところを浪士が絡んできて…ムカついて
それを滅多打ちにしてたら」
『すげェな、女の子なのに剣術の心得があんのか』
『行くトコ無いんなら、俺たちと来ねェか?』
「…それから近藤さんはあたしに真剣の振り方を教えてくれた」
の表情が柔らかくなった。
「土方さんも最初は「小娘なんか」とか言ってたけど、
なんだかんだで面倒見てくれるし、剣術も教えてくれました。
他の隊員の人たちも、バカだけどいい人たちです」
「あそこしかないんですよ、あたしの居場所」
は顔を上げ、銀時を見る。
銀時もを見て、黙って耳を傾けた。
「幕府の犬だって言われよーが、非道だチンピラだと罵られよーが、
あたしの帰る場所はあそこしかないんです。
男ばっかでムサイし、ムチャクチャな人ばっかだけど…
一緒にいるとあったかい。家族ってこんな感じなのかなって、ちょっと思っちゃう」
「近藤さんが拾ってくれなきゃ多分どっかで野垂れ死んでたし…
土方さんがいなきゃここまで精神的に強くなれなかった」
「あの人たちがいて今のあたしがある。
誰に何を言われようと、あたしはあの人たちに助けてもらったから。
だから一生をかけて恩を返したいんです。…彼等を愚弄する奴は許さない」
真っ直ぐ、強い目で前を見る。
銀時はそれを見てフ、と笑った。
「いい武士道持ってんじゃねェか、ねェちゃん」
「旦那ほどじゃないッスよ」
は苦笑してグラスの水を飲み干す。
すると
ピリリリリリ
の携帯が鳴った。
「はいもしもし。あ、土方さん?」
『土方さん?じゃねェよこの野郎!!
検問サボってどこほっつき歩いてやがる!!!』
キーンと耳を通る大きな声。
それは横にいた銀時にも聞こえた。
は思わず携帯を耳から離す。
「え、えー…と…デ、デート…」
『デートだぁ!?馬鹿言ってんじゃねェよンな相手もいねェくせに!!!』
は横目でチラ、と銀時を見上げた。
銀時は呆れ笑いを浮かべながらグラスの酒を飲む。
『…ったく…さっさと帰って来い。近藤さんが心配してる』
ため息交じりに聞こえる土方の声。
は顔を上げて目を丸くした。
それからすぐに嬉しそうに笑う。
「……はいっ!」
ゆっくり通話を切り、携帯を閉じると同時に席を立った。
「すいません旦那、あたし帰りますね。ご馳走様でした」
「ああ」
は暖簾をくぐり、屋台の外に出る。
「あ」
何かを思い出して再び屋台の中に顔を入れた。
「美味しいパフェがある甘味処知ってるんです。
今度おでんのお礼させて下さい」
柔らかく笑う。
そんな彼女を見て銀時もつられるように笑った。
「期待してるぜ」
は再びにっこりと笑う。
そして屋台を出て駆け足で土手を登って言った。
銀時は暖簾を手で退けてその後姿を見送る。
「…月、きれいだな」
澄んだ空に浮かぶ、くっきり輪郭を出した満月
も空を見上げて月を眺め、少し歩く速度を速めた。
早く帰ろう
走って帰ろう
あたしの帰りを待ってくれてる人たちのところに。
真選組固定ヒロイン第1弾。
これから色々シリーズものとして書いていきたいと思います。