I wish,I war-後編-
「いやはや…大変でしたな近藤局長」
京都の高級老舗料亭
大きなテーブルを挟む形で、近藤との向かうに座るのは警視庁のお偉いばかりだ。
「攘夷浪士による幕吏殺害…伊東派や高杉一派の一件もようやくひと段落したというのに…
今度は女性隊士が集中襲撃に合うとは…心労お察しいたしますぞ」
あからさまな皮肉。
は近藤の横で膝に爪を立てるが、近藤は慣れた様子で笑ってみせる。
「ありがとうございます。まぁこの程度は慣れてますから、ご心配なく」
ハッハッハ、と笑う近藤。
はそんな近藤の様子にほ、と胸を撫で下ろした。
まだあちこちにガーゼや包帯の残る自分の姿を官僚に見られては、真選組の面子が立たない。
だが今回の件で面子などは一切考えていない近藤の一言は、
にとって肩の荷が下りた気分だった。
「さぁさぁ、難しい話はこれまでにしてどうぞ飲んで下さい」
近藤はそう言って目の前に出された豪華料理を見る。
は徳利を持って官僚の酌を始めた。
「…すいません、近藤さん」
接待が終わり、宿へ向かいながらがぽつんと呟いた。
「ん?何がだ?」
近藤は首をかしげてを見る。
「あたしのせいで…無駄に嫌味言われるハメになっちゃって…」
「ああ、気にすんな。嫌味なんか言われ慣れてるさ。
そもそも、今回の件はお前のせいなんかじゃないんだから
気にすることなんかこれっぽっちもないぞ!」
明るく笑う近藤。
もつられるように笑った。
「さ、明日も色々やること山積みだからな。早いトコ休んだ方がいい」
「はいっ」
翌日
「じゃあ、俺は寄る所があるから適当に時間を潰しててくれ。
用事が済んだら連絡するから」
「分かりました」
朝早くに宿を出た2人は京の道をそれぞれ反対方向へ歩いていく。
近藤は道場時代、世話になった人たちへ挨拶に。
は土産を買いに街へ出ていた。
(隊の皆と万時屋には八ッ橋でいいよなー…あ、総悟にチョコクランキーの八ッ橋頼まれてたんだった。
妙ちゃん…には近藤さんが買うだろうし…(受け取られずに生ゴミに行きそうだけど)
あ、羊羹食べたいかも)
道に面した数々の土産屋を覗きながら、はそれぞれの土産を思案する。
京都には何度も足を運んでいるので、今更珍しいものでもないが、
やっぱり遠出したからには土産に目が行ってしまうものだ。
「すいませーんこの八ッ橋2つずつ…」
店頭に並ぶ八ッ橋を指差して注文した瞬間
スッ
「ッ」
後ろを通った浪人に、只ならぬ気配を感じて勢いよく振り返った。
腰に刀を差した男が2人、路地裏に入っていく。
本来なら廃刀令で即刻職務質問に入るところだが、何せ此処はかつて日本の中枢だった街。
攘夷派が多数巣食うこの街では、あちこちで腰に刀を差した浪人が見受けられる。
----ただ、その2人の気配にの"勘"が過ぎった。
「はいよ、八ッ橋4つ。2300円ね」
「ありがと!」
は袋を受け取ると同時に女将の手に5千円札を乗せ、走って浪人の後を追う。
「あ!ちょっとお釣り!!」
そんな女将の声を無視して、路地裏へと入って行った。
狭い路地を真っ直ぐ突き進んでいくと、入り組んだ長屋通りへと出る。
(あ…ヤバイ、隊服じゃ目立つな…)
戸板の裏に隠れ、隊服の襟を引っ張る。
チラ、と横目で長屋の物干し竿を見た。
男物の渋い着物が干してある。
「ちょっと失敬」
八ッ橋の袋を口に銜え、着物を失敬して隊服の上からはおった。
隊服の袖を捲くり、着物をベルトで固定する。
銀時を真似た格好でどうにか隊服はカバーできた。
「------よし」
ベルトに再度刀を差し、気合を入れる。
(嫌ーなニオイがプンプンするな…)
辺りをキョロキョロと見渡しながら先へ進んでいくと開けた向こうに港が見えた。
(貿易船の港か…)
長屋の影に隠れ、ひょこっと顔を覗かせて港を見る。
港にはいくつもの船が停まっていて、商人たちが忙しそうに積荷を移動させていた。
その中で、一際大きな黒い船がある。
明らかにただの貿易船には見えない武装
は目を細め、身を乗り出してその船を睨む。
「----------ッ!!!」
次の瞬間、は目を見開き、長屋の影から飛び出して港へ走った。
黒に映える紫の着物
ぼんやりと浮かぶ煙管の煙
それはしっかりとの確信を突く。
「高杉ィィィ!!!!」
声を腹の底から張り上げ、黒い船の船首に立つ1人の男の名前を叫ぶ。
高杉は自分を呼ぶ声に気づき、横目でを見やった。
「何奴!!」
「取り押さえろ!!」
港にいた浪士たちがを取り押さえる。
高杉は煙管を口から離し、を見て不敵に笑った。
「何事ッスか!!」
中からバタバタとまた子が走ってくる。
港には黒いジャケットに男物の着物を重ねた奇妙な格好の少女が1人、
浪士に押さえられながら暴れている。
「邪魔…っすんな!!!」
自分を押さえている腕を掴み、右肘を曲げて
男のみぞおちに勢いよく肘撃ちした。
「ぐあっ!!」
「この女…ッ!!」
次々と浪士が跳びかかってきて、後ろから羽交い絞めにする。
「っつ…!!」
右脇腹の傷に激痛が走った。
「く、そ…!!どけ!!邪魔なんだ、よッ!!」
そのまま右足を降り上げ、男の顔面に強烈なハイッキックをかます。
「がッ!」
頬骨の折れる音と同時に男は鼻血を吹いて倒れる。
ベルトが緩んで着物が崩れ、中に着ていた隊服が完全に露になった。
「あの隊服…!!真選組ッスか…!?ちッ…幕府の犬がこんな所まで…!
大筒用意ッス!!」
「-----放っとけ」
他の浪士に指示をするまた子を、高杉が制止する。
「で、でも晋助様!!」
焦るまた子をよそに、高杉は悠長に白い煙を吐いて舳先に近づきを見下ろした。
「いけませんよまた子さん、あの娘は今は一番イイ時期…」
「言ってる場合ッスか先輩!!真選組ッスよ!?」
船倉から出てきた武市。
また子は怒鳴りながらも警戒の意でに銃口を向けたまま。
「こ…ッの…離せこんにゃろッ!!
あたしは高杉に用があるんだよ!!雑魚は引っ込んでろ!!!」
頭に血が上って、とにかく力任せに周りの男たちを殴っては蹴飛ばす。
その男たちもまた攘夷浪士だということなんか考えていない。
ただ今は、目の前の男に借りを返さないと気がすまない。
『名前と心意気くらいは覚えておいてやるよ』
それは真選組としてではなく、1人の侍としての意地だ。
「離せって…言ってんだろーがぁあああああ!!!!」
ゴシャッ!!
後ろから羽交い絞めにしていた男に勢いよく後頭部で頭突きをかます。
乱れた着物を剥ぎ、完全に隊服姿で港の先端へ走った。
「高杉ィ!!降りて来やがれ!!」
だが船は離陸を始める。
「フン、陸から何が出来るッスか!!」
また子が馬鹿にするように笑うと
ジャカッ
「「っ」」
は隊服の懐から飾り紐のついた黒い拳銃を取り出した。
その銃口を、上昇していく船へとまっすぐ向ける。
「-----あたし武士だけど…警察なんだよね」
そう言ってニヤリと笑い、引き金に両指の力を込めた。
すると
パァンッ!!!
「ッ!」
自分が引いたと思ったのだが、
次の瞬間には自分の銃の銃身が破壊されている。
上昇を続ける船から、の手元を真っ直ぐ狙うまた子の銃が見えた。
「ちッ!油断の隙もあったもんじゃないッス!!」
「この…ッ邪魔すんな小娘!!テメーにゃ用はねーんだよ!!」
「んだとコラ!!テメーも小娘だろーがァ!!」
手首を押さえて怒鳴る。
舳先に片足を乗せて身を乗り出すまた子を、武市が後ろから押さえた。
「--------、だったな」
また子の横に並び、口を開く高杉。
は目付きを変え、高杉を睨む。
「随分ボロボロじゃねーか。江戸でなんかあったのか?」
まだ頬に貼ってあるカーゼ
両手に巻かれた包帯
それはつい最近まで重症患者だった証拠だ。
「…色々とね。江戸にゃアンタらなんかよりずっと節操のねェ浪士がゴロゴロしてんだよ!」
ベリッ!!
頬のカーゼを勢いよく剥がした。
まだ新しい刀傷のすぐ上に、うっすらと白く残る刀傷。
高杉はそれを見てフ、と笑った。
「-------テメェには貸しがあるだろ?」
煙管を仕舞いながら、高杉が言った。
「どうせなら鉛弾じゃなくコイツで返してくれよ。
侍らしくな」
そう言って笑い、腰の黒い鞘から刀を抜いて鋭い刀身をに向ける。
「上等だ!!」
も抜刀して、自分に向けられた刀身に自分の刀を向けた。
その闘争心も空しく、船は空高くへと舞い上がって行く。
「必ず江戸に来い!!そん時は必ずあたしが!アンタをぶった斬る!!!」
エンジン音とそれを巻き込む突風の音にかき消されそうなりそうな声を、
高杉は舳先でしっかりと聞いていた。
「----また厄介なのに付け狙われたものでござるな」
どこに居たのか、万斉がそう言って高杉の横に並ぶ。
『全力でてめーをぶった斬る!!』
「------面白ェじゃねーか」
高杉は少し前、知り合いに言われた言葉を思い出した。
ハッ、と鼻で笑い、港を見下ろす。
「---------っつ-----………」
拝借した着物を元の持ち主へそっと返し、
は表通りへ戻ってきていた。
脇腹の傷がズキズキと痛む。
(これ開いちゃったかなァ…また暴れたなんて山崎にバレたら小言言われる…
土方さんには怒られるだろうし…だめだ、黙っとこう)
ピリリリリリリ
ポケットの携帯が鳴り、サブ画面に近藤の名前が表示された。
「はいもしもし」
『オウ、こっちの用事は終わったぞ。
お前土産は買ったか?』
「土…産……あ…ッあぁ---------------!!!!!!」
は自分の手に買ったはずの八ッ橋の袋がないことに気づく。
きっと暴れ回っているうちにどこかへ落としてきてしまったんだろう。
『ど、どうした?』
電話の向こうで近藤の焦り声が聞こえる。
「え、あ…いや、ちょっとあちこち回って決めかねてて…
これからササーッと買っちゃいますんで!!」
『そうか。じゃあ30分後に駅前で待ち合わせしよう』
「分かりました。それじゃあ後で」
通話を切り、はーっと深いため息をついた。
「っモタモタしてらんない!さっさと買わないと!!」
携帯をポケットに戻し、右足を1歩前へ出したところで
振り返って空を見上げる。
雲1つない青い空に、小さく飛行船が見えた。
少し強い向かい風が吹いて、黒髪が靡く。
は眉間にシワを寄せ、表情険しく空を睨んだ。
この身が剣を失わぬ限り
あたしの体は、あたし自身の戦を
欲し続けている
(…武士の本能ってやつかね)
浅くため息をつき、左手で柄に触れる。
「-------帰ったら稽古しなきゃな…」
原作無視して鬼兵隊登場です。
また子と武市変態は生きてるに違いないということで。
どうしてもヒロインとまた子をいがみ合わせたかった…!!
ヒロインはもう真選組関係なく個人的に高杉にくってかかります。