Iwish,I war.-前編-
「おはよーございまーす」
朝7時
はワイシャツに隊服のハーフパンツ姿で欠伸をしながら居間にやってきた。
「おい…ホントに行くのか?
病み上がりなんだから休んでていいんだぞ?」
「だーいじょうぶですよー。いつまでも寝てたら勘鈍っちゃうし」
スカーフを巻きながら心配そうな顔をするのは近藤。
は小脇に抱えていた隊服をぐるぐると回し、
絆創膏や傷跡がのこる足を曲げて屈伸してみせた。
2ヶ月半前
は浪士数十名の奇襲に合い、大怪我を負った。
本体ならば全治5ヶ月という診断なので、今の段階ではかすり傷程度しか完治していないのだが。
「まったく…こんな時に京へ出張とはな…
とっつぁんも少し考えてくれればいいのに…」
ベストの襟を直し、上着をはおりながら近藤は不満を漏らす。
「しょうがないッスよ。お偉いさんが大勢くるんでしょ?
あたしが居なきゃ華がないじゃないですか」
警視庁と付き合いのある天人が京へやってくるということで、
局長の近藤と、その側近にが指名されたのだ。
上司の接待で出張へ行くのはよくあることなのだが、何にせよタイミングが悪い。
「あ」
テーブルの前に腰を下ろそうとしたは何かを思い出し、座るのを止める。
「近藤さん、何時くらいにこっち経ちます?」
「ん?まー…9時ぐらいでも間に合うんじゃないか?」
近藤は部屋の時計を見て時間を確認した。
「すいません、あたしちょっと寄り道して行きます。
かぶき町付近にいるんで、行く途中で拾って下さい」
そう言いながら上着をはおり、腰に刀を差す。
「分かった、気をつけてな」
近藤の言葉ににこりと笑い、部屋を出て行った。
が向かった先は
「ごめんくださーい」
数ヶ月ぶりに、万時屋銀ちゃんの戸の前に立っていた。
チャイムを鳴らしながら、中の反応を待つ。
「はーい…ってさん!怪我は…!?」
中から戸を開けた新八は、の姿を見るなり驚いて目を見開いた。
全治5ヶ月、あの時現場に居合わせていた新八も、
その重症さを目の当たりにしていたから。
「あはは、完全じゃないけどとりあえず生きてるよ。
あの時はホント迷惑かけてごめんねー」
けらけらと笑うの顔にはまだガーゼが貼られているし、
着物の袖から除く手首には包帯も見える。
「いえ、迷惑だなんて…あ、どうぞ中に。
銀さんもう起きてますから」
「うん。お邪魔しまーす」
玄関に入り、ブーツを脱ぎながら後ろ手で戸を閉めた。
廊下を歩き、今の戸を開けると
「新八ィ、新聞の勧誘ならいらねーって…」
ソファーに寝ていた銀時は慣れたようにそういいながらむくりと起き上がる。
「ッお前…!!」
起き上がったところで新八の横に立っているに気づいた。
「!もう大丈夫アルか!」
「うん、何とかね」
は神楽ににこりと笑いかけ、再び銀時の方を見る。
「改めてお礼に来なきゃと思ってたんです。
あの時は本当に、ありがとうございました」
真面目な顔で、頭を深々と下げる。
銀時はガシガシと頭をかいた。
「運いいよお前。あの出血量でよく助かったな」
「あのままあそこに倒れてたら間違いなく死んでたと思いますけどね。
山崎に、旦那たちが屯所まで運んでくれたって聞いたから。
確かに運はいいのかも」
はそう言って笑い、ソファーに腰を下ろす。
「つーかお前全治5ヶ月なんだろ?出歩いてヘーキなのかよ?」
ソファーの上であぐらをかき、その膝の上で頬杖をついてを見る。
「んー…実言うとあんま大丈夫じゃないんです。腹の傷はまだ抜糸済んでないんで。
今また襲われたら今度こそ死ぬと思います」
「おいおいおいおいおい…まーた巻き込まれんはご免だぜ」
けろりと答えるに銀時は焦って身を乗り出した。
はフーと長く息を吐いて、隊服の上から傷口を押さえた。
「何とかなりますよ。腹ァ裂けようが骨砕けようが、
腕さえ無事なら仕事は務まりますから」
そう言ってまだ包帯の残る右腕をブラブラさせる。
あれだけの怪我をしながらも死を恐れず果敢に向かっていく姿は、
女であれどやはり真選組なのだと銀時は思った。
ムチャクチャな男らしい理論が、近藤や土方にそっくりだから。
「それに…重症のあたしを狙ってまた浪士が動くんじゃないかって、
あたしの周辺を別の隊士たちが囲う形で巡回してるんです。
警護みたいで気に食わないんですけど、近藤さんの命令なんで」
出されたお茶をずずーっとすすり、飲み干したところで湯飲みをテーブルに置いた。
すると
パッパー!!
外から車のクラクション。
「あ、そろそろ行かなきゃ」
は玄関の方を向いて立ち上がる。
「これから京に向かうんです」
「----京に?」
の言葉に銀時は目を細めた。
あまりいい思い出のある場所ではない。
「近藤さんの出張のお供に。何でも上層部と取引相手の天人を接待とかで。
やっとこさ動けるようになったらもう引っ張りダコっすよ」
はそう言って苦笑してみせた。
「…京は此処よりタチ悪いぜ。そりゃテメー等が一番分かってんだろ」
真剣な面持ちでを見る銀時。
の顔からも笑みが消える。
「---分かってますよ。だからこそです」
「自分の体、餌に使えますから」
相変わらずどきっとさせられる言葉を簡単に言って退ける。
「あ、お土産買ってきます。やっぱ八ッ橋とかお菓子系がいいですよね」
玄関でブーツを履きながら、は3人に向かってそう言った。
「京から無事帰れたらまたお土産届けに来ます。
朝早くにすいませんでした」
物騒なことをさらりと言って、はぺこりと頭を下げる。
「---------気をつけろよ」
目を細め、いつになく真剣な表情で銀時は言った。
は返事の変わりににこ、と笑みを返す。
そして静かに戸を開け、万時屋を出て行った。
「よく此処だって分かりましたね」
車に乗り込みながら、は助手席に座る近藤を見る。
「何となくな。やっぱり連中に用だったのか」
「はい。やっぱ元気になってから挨拶にいかないとと思って」
は車の後部座席に乗り込んだ。
助手席に乗っていた近藤は腕を組んで「そうか」と笑う。
「よし、じゃあ出発しよう」
近藤の声で、車はターミナルに向かって発進する。
「あ?の奴、結局京都行ったのか」
少し遅れて起きてきた土方が、がいないことに気づく。
「ええ、病み上がりなんだから今回は止めたほうがいいって言ったんですけどね。
行くってきかなくて」
山崎は困ったようにため息をついた。
「ったく…よりによって京都たァな…」
土方もため息をつき、頭をかきながら畳の上に腰を下ろす。
「土産何がいいかなァ、やっぱ生八ッ橋ですかねィ」
「言ってる場合か。京には奴がいるんだぞ」
呑気に土産を考える総悟。
土方は表情険しく総悟を見る。
総悟も銜えていたせんべいをかじり、横目で土方を見た。
「京のどこに潜伏してるかも分からねェ。
今のの体じゃ、攻められりゃ終わりだ」
関係ないように振舞っても、の現在の怪我の状況は十分分かっている。
一番重症だった右下腹部はまだ抜糸が済んでおらず、派手に動けば傷はぱっくり開く。
頭部や手足の擦過傷は瘡蓋になったが、深い傷はまだ包帯が外せない。
「あいつもあの体で敵地に乗り込むような馬鹿じゃねーと思うが…」
ボックスから出した煙草を銜えずにテーブルを睨む土方。
(…アイツならやり兼ねねェな…)
総悟は茶をすすってせんべいを流す。
以前、が頬に刀傷をつけて帰ってきた相手は高杉だと知っているからだ。
もちろん本人に聞いたわけじゃなく直感なのだが、
ほぼ間違いないと見ていいだろう。
「大丈夫ですって。あいつもガキじゃねェんだ、自分の体調くらい把握してますよ」
「…だといいんだがな」
To be continued