荒クレ
-後編-









「……………ん……」

自室の床でゆっくり目を覚ました

丁度様子を見にやってきた山崎はそれに気づいてガラッ、と障子を開ける。

「っちゃん!気がついた!?」

ぼんやりしている視界に、誰かの姿が映る。

聞き覚えのある高い声。

その視界は次第にはっきりしてきた。

「俺が分かる!?」

「………地味ーな顔が…見える…」

ガーゼを貼った口元を動かし、は答える。

逆様に見えるのは隊一地味ぃーな奴。

「あ、全然大丈夫だね」

山崎はストンと腰を下ろした。

「…あたし…どう、したんだっけ…」

ぼーっと部屋の明かりを見つめる。

「攘夷浪士と戦って、気を失ったところを万時屋の連中が助けてくれたんだよ。

 旦那が背負ってここまで連れてきてくれたんだ」

「旦那…あ…っそうだ旦那…!!」

いつもの調子でがばっ、と起き上がろとすると

「…っつッ…!!」

右脇腹に激痛が走った。

「駄目だよ動いちゃ!!18針も縫ったんだから!!」

山崎は慌てての肩を押して床へ戻す。

「…っ…旦那…まだ、いる…?」

「え…?うん、広間で局長たちと話してるよ」

「お礼…言わ、なきゃ……」

傷口を押さえ、ゆっくり起き上がった。

「駄目だったら!!旦那と話したいなら呼んでくるから!

 動いちゃ駄目だよ!!」

山崎はそう念を押して、バタバタと部屋を出て行った。

はその音を聞きながら腹を押さえてふーっと深呼吸する。

「局長ォ!ちゃん目覚ましました!!」

「本当か!!」

山崎の報告を受けた近藤は勢いよく立ち上がり、

走っての部屋へ向かっていく。

土方もその後を追った。

「あと旦那も!ちゃんがお礼言いたいって」

山崎はまだ座っている銀時に向かって言う。

銀時は頭を掻きながら立ち上がった。

「怪我人が余計な気ィ回してんじゃねーっつーの」

そう言いながら広間を出て行った。








!大丈夫か!!」

バタバタと廊下を走ってきた近藤は

布団の横に座り、の顔を覗き込む。

「…ごめんなさい…心配かけて…」

は近藤にそう言って、その横に立つ土方を見上げた。

この男に謝るのが、一番気が重い。

「土方さんすいません…

 自分の力…過信しました…」

「今はそんなこと気にしてる場合じゃねェだろ。

 無茶しやがって…」

土方は浅くため息をつき、険しい顔で近藤の隣に腰を下ろす。

「嫁入り前の顔なのに…」

の口元のガーゼや、頬の切り傷を見て近藤は切ない顔をした。

は苦笑する。

すると、遅れて銀時が部屋に入ってきた。

「っ旦那…!」

「あー寝てろ寝てろ。傷開くぞ」

反射的に起き上がろうとする

銀時はそう言って障子の近くにどかっと腰を下ろした。

「……すいません迷惑…かけて…服も汚しちゃったし…」

白い着物にべっとりと付着している自分の血を見て、

は申し訳なさそうに謝る。

「いいよ別に。
同じの4着あるし

 何、俺が重病患者にクリーニング代請求するように見えんの?」

「「見える」」

近藤と土方は即答。

は苦笑する。

「んだとコラ!!税金泥棒のクセに!!

 テメーが代わりにクリーニング代出しやがれ!!」

「誰が税金泥棒だ!つーかテメー納税してねーだろ!!

 ぜってー未納だろ!!」

そしていつものように銀時と土方は怒鳴りあった。

「あーもう止めて下さいよ2人共!

 怪我人の前ですよ!」

山崎が止めに入る。

「あはは…っつ…イタタ…」

笑うと激痛が走るが、それは生きている証拠だ。

は傷口を押さえて少し表情を歪めた。

「寝てろ。当分は絶対安静だ」

「体鈍っちゃいますね…」

近藤の言葉には苦笑する。

「あれ、そういや総悟の奴どこ行った?」

土方が辺りを見渡す。

「そういえば姿が見えないな…」







さん…大丈夫かな…」

廊下の縁側に座る新八と神楽。

庭では定春が大人しくしている。

「大丈夫ヨ。あれでもチンピラ警察の仲間ネ、

 そう簡単にはやられないアル」

定春の背中を撫でながら神楽が答えた。

すると

「何でィ、お前らまだ居たのか」

「っ沖田さん」

廊下を歩いてきたのは総悟。

「丁度よかった、がやられた場所まで案内してくれィ」

「え…いいですけど…もしかして沖田さんさんの敵討ちに…!!」

新八は慌てて立ち上がる。

「馬鹿言うな。アイツが怪我したのはアイツの腕が未熟だったからだ。

 敵なんざ討ってやる義理はねェや」

総悟はそう言って立ち止まった。

神楽がその背中を恨めしそうに睨む。

「ただ俺が、気に食わねェだけでィ」
 
いつもに増して真っ直ぐな目。

「奇遇だな総悟」

「っ」

聞こえてきたのは近藤の声。

3人は廊下を振り返る。

廊下には土方と、山崎や原田たち他の隊士が立っていた。

「ちょーど俺達も、満場一致したところだよ」

不敵に笑う土方はそう言ってスパーッと煙を吐く。

他の隊士たちもニヤリと笑って腰の刀を強く握り締める。








翌日


「昨夜はとんだ邪魔が入ったな…」

かぶき町の裏路地

一般市民では滅多に立ち入らない入込んだ道を、

昨日の攘夷浪士たちが数人屯をしている。

「だがあの女隊士…手こずらせたな」

「フン、無能な幕府の尻拭いしか能がない犬が出しゃばりやがって」

浪士たちが路地を歩き進めていると



スッ



「っ」

1本向こうの路地を横切った人影に、浪士たちは目を見開いた。

真選組の隊服

横に靡く黒髪のポニーテール

「まさか…っ」

浪士たちは慌ててその影を追う。

影の見えた路地に入ると、確かにその女隊士は居た。

小奇麗な黒い隊服に身を包み、ハーフパンツに生足を出して

腰にしっかり刀を差している。

だが昨日の傷など、どこにも見られない。

「お、おい貴様…!」

浪士の1人が思わずその後姿を呼び止めた。

女隊士は立ち止まる。

「な…っなんで…相当な重症のはずだ…!!」



「ああ、全治5ヶ月だとよ」



「「ッ!」」

突如背後から聞こえた声に、浪士たちは勢いよく振り返る。

背後には黒い隊服の男たち。

「……ッ真…選組…!!」

浪士たちがたじろぐと、前方を歩いていた女隊士も刀を抜いて振り返った。

それは鬘を被っての隊服を着ている山崎。

「…はッ…な、仲間の敵討ちにでも来たのか!?

 幕府の犬が!!」

同じように抜刀した浪士は震える刃先を先頭の土方に向ける。

「敵討ちだァ?悪ィが俺たちゃ仲間の為に剣奮うなんざ御免だ。

 全員、テメーの我の為に刀抜くんだよ」

土方はそう言ってスパーッと白い煙を吐いた。

後ろの隊士たちが一斉に刀を抜く。



ジャキッ



「ッ!」

浪士の背後から鋭い刃も伸びてきた。

「めずらしく全員の我ァ一致しちまってね」

土方と対照的な、のんびりした高い声。

振り向かずとも声の主は分かった。



「-----神妙にしてもらおうか」




指に持った煙草を再び口に銜え、土方も刀を抜く。

それと同時に一斉に隊士が斬りかかった。













「すいません近藤さん…刀…手入れしてもらって…」

「なに、気にすんな」

近藤は動けないの代わりに、血染めされたの刀を錆びないよう手入れしている。

「なんか…やけに静かですね」

「皆仕事で出はらってんだ。黙って寝てると余計静かに感じるだろ」

近藤はそう言ってハッハッハと笑った。

すると、その会話の直後に外から騒がしい声が聞こえてくる。

ドカトカと不揃いな足音が廊下を通って、部屋の前で止まった。

勢いよくドアを開けたのは土方。

「オウお帰り」

土方も、その横の総悟も、

そのほかの隊士も、どこかしらに小さな生傷を拵えている。

「…どう…したの皆…

 仕事そんな大掛かりだったんですか…?土方さん」

は寝たまま隊士を見て困惑した顔をする。

「大した仕事じゃねーよ。

 捜査願い出てた猫探してただけだ」

病人の前でもお構いなしに煙草を銜える土方。

「猫…って…嘘だぁ、土方さん猫なんかで動かないもん。

 将軍のカブト虫の時も『面倒くせェ』って言ってたもん。

 他人の猫1匹の為に生傷作ってくるような人情深い男じゃないもん」

「…怪我人じゃなきゃこのまま腹にケリ入れんぞ」

明らかに怪訝な顔をする
 
土方は目を細めてを見下ろす。

後ろに立つ隊士たちもニカッと明るく笑うだけ。

近藤も安心しきった笑みを浮かべている。

は首をかしげた。









翌日

「-------暇だぁあああ」

静かな屯所の静かな自室に黙って横になっている

全治5ヶ月の人間なら当然のこと。

絶対動くな。

布団から1歩でも出たら切腹だ。

土方はそう言い残して仕事へ行った。

「…切腹ならもうしてるんですけど」

18針分。

はーっとため息をつくと痛む傷を押さえ、目線を横にずらす。

枕元に、折りたたまれた新聞が目に入った。

「新聞でも読むか…」

普段は読まない新聞も、今なら暇つぶしにはなるだろう。

そう思って右手を伸ばし、新聞を引っ張る。



バサッ




"寺門通全国ライブ絶好調!"の見出しの裏

「あ」











一方

「銀さん銀さん!これちょっと見て下さいよ!!」

朝9時過ぎにやってきた新八が、

バタバタと廊下を走って居間に入ってきた。

「…んだようるせーなぁ…」

ソファーに横になって、ジャンプで顔を隠していた銀時が

ウザったそうに目を細めながら起き上がる。

「ホラこれ!」

新八はそう言って手に持っていた新聞をずいっと銀時に突きつけた。

銀時は頭を掻きながら新聞を手に持つ。



"幕吏連続殺害容疑・攘夷浪士逮捕

 お手柄真選組"



大きく載っている白黒写真には

土方と総悟、その他の隊士たち。

隊士たちが連れている浪士には、見覚えがある。

「やっぱりなんだかんだで、仲間思いですよねあの人たち」

新八は嬉しそうに笑った。

「…ただテメー等のやりてェようにやっただけな気がするけどな」

銀時も呆れるように笑う。









「…何が猫探しだよ」

同じ記事を見ていたは、ぼすっ、とそのまま新聞を両腕で抱えるようにして笑う。

そして包帯が巻かれた自分の右腕を上げ、灯りに翳した。

「-------ちゃんと付いてる」





あたしの大事な右腕



あたしの大事なものを護る、右腕。









これがある限り、あたしの存在理由は無くならない。












一度書きたかったネタです。
書きたい放題してたら3編になってしまいました;
史実の山崎は隊医だったから、退の方も多少治療が出来ると萌えるな、と思って書きました。
銀さんはおぶって欲しかったから出しただけ(笑)
次はまた高杉を出したいです…!