荒クレ-中編-
避け切れなかった刀身が右脇腹を深く斬った。
「…っつ……!!」
勢いよく血が吹き出て、ボタボタッ、と足元に血溜りが落ちる。
「…あ…っあぁあ…」
「早く…ッ行って!ここを離れるんだ…!!」
動けないでいる2人の女性にそう言いながら、浪士たちを睨む。
女性は2人で手を引き合って走ってその場を逃げた。
「はぁッ…はッ…ハッ…」
左手で傷を押さえ、肩で息をする。
冷えた左手を温めるような温い血の感触。
目に見えて重症であるを見て、浪士は不敵に笑った。
「警察ってのは大変なお役所だなァ?
お上だけじゃなく、それを敬う馬鹿な市民も守らなきゃならねェ」
「はぁッ…つ…ッ!」
ドクドクと速く打つ鼓動。
自分の体の悲鳴は自分が一番よく分かる。
「-----そう大変でも…ない、よ…
仕えるボスがデカけりゃ、汚れた国守るのも苦じゃねーってモンだ…」
左手で傷口を押さえ、肩で息をしながら答えた。
こうして口を開くことで朦朧とする意識を保っていられる。
「忠義もクソも無ェ野良犬のアンタ等には…分からんだろうけどね」
傷を押さえることを止め、両手で刀を持って笑う。
「------上等だ」
同じように刀を構えた浪士は、と同時に踏み込んできた。
刀身がぶつかって同時に弾かれる。
は瞬時に再び距離を詰め、姿勢を低くして男の死角に入った。
「っ」
一瞬のうちに刀を左手に持ち替えてその刀身で浪士の刃を押さえ、
低い位置から右足で弧を描いて綺麗な回し蹴りを当てる。
急所を突いたが、威力が足りない。
「くっ……!」
は再び傷口を押さえてフラつき、やむを得ず後退する。
「はぁッ!はぁっ…はッ…!ハァッ…!!」
血は更に滲んで地面に垂れた。
(ヤバイ……っ目が…霞んで、きた……ッ)
ブレる視界
意識が遠のいていくのを感じる。
「……ッこんなところで……っ」
『』
必死に保つ意識に、いつも傍にいる人たちの顔が浮かんだ。
「こんなところで死ぬわけには…っいかねェんだよ!!」
血に汚れた両手でしっかり刀を持ち、
ブーツで地面を蹴って浪士に斬りかかる。
「……っく…!」
動く度にじわ、と血が滲んだ。
「押さえろ!!」
数人の浪士がを押さえようと飛びかかってくる。
すると
バキッ!!!
「っ」
浪士を木刀で殴り飛ばした男。
「……おいおい…女1人に野郎がこの人数たァ…
随分なんじゃねーの?」
銀髪の、侍。
「………旦、那…」
が目を見開いて驚いていると
「おまわりさんこっちです!!こっちで斬り合いが…!!」
表通りから新八の声。
「ちっ…!面倒なことになりやがった…!」
「一旦退くぞ!!」
残っていた数人の浪士たちは裏道へと逃げていく。
同時に表通りを新八と神楽が走ってきたが、「おまわりさん」は居ない。
浪士を撒くための嘘だったんだろう。
「は…ッはぁっ…万事屋…の…」
「路地裏で女の子が斬り合いに巻き込まれてるって2人の女性が教えてくれたんです。
もしかしてと思って…間に合ってよかった…!!」
新八はそう言って路地に入って来る。
ああ、2人の女性とはきっと庇ったあの2人のことだろう。
そう思い返していると
「………ッ」
ぐらっ、と視界が歪み、はその場に崩れた。
「っおい!!」
「さん!!」
「しっかりしろ!オイ!!……ッ」
銀時は倒れたを抱えると、脇腹にヌル、と生暖かい感触。
右脇腹にじっとりと滲む血。
鮮やかな紅梅色の着物に、真紅の血がじわじわと広がっていく。
「っ銀さん!これさんの携帯です!
これで真選組の人たちに連絡しましょう!!」
新八が地面に落ちている黒い携帯を見つける。
「掛けろ」
「はい…!」
新八は携帯を抜き、慣れない手つきでアドレス帳を開いた。
「えぇと…!!」
<<近藤さん>>
50音順に見ていくと、新八も見慣れた名前。
新八は急いで通話ボタンを押す。
ピリリリリリリ
ピリリリリリリ
「…お、だ。何やってんだアイツこんな時間まで…」
歯磨きをしながら、近藤はテーブルの上の携帯を開いた。
「俺だー何やってんだこんな時間…」
『もしもし!!近藤さんですか!?』
近藤は驚いて一瞬受話器を耳から離す。
の声ではない。
「…その声は…新八君か?それの携帯だよね?何で…」
『たっ、大変なんです!!さんが攘夷浪士に襲われて大怪我して…ッ
今意識がなくて…どっ、どうしましょう!?』
「…ッ何だと!?」
ガタッ、と勢いよく立ち上がる近藤。
「今どこだ!?」
『えっと…かぶき町の…ってあ!銀さん!!』
「待ってらんねェ、連れてく」
銀時はを背負った。
背中に生暖かい血の感触が滑ると、それは珍しく彼を焦らせる。
「神楽、定春で屯所まで行くぞ」
「分かったアル!」
「待ってくださいよ銀さん!
あっ…今からそっちに行きますんで!!」
新八は電話の向こうの近藤そう言って強引に通話を切った。
近藤は切れた電話を見て、表情を険しくさせる。
「どうした?近藤さん」
土方が入ってきて首をかしげる。
「…が…浪士にやられた……」
「ッ」
「ピーポーピーポー!!!
どけどけけェぇええええ!!
万事屋銀ちゃんのお通りだァァァァァ!!!」
定春の舵(?)をとる神楽。
4人を乗せた定春はかぶき町を抜けて、屯所へとまっしぐら。
銀時は自分の背に寄りかからせたを右手で押さえ、
左手で定春の毛に掴まっている。
「新八!意識は!?」
「無いです…!呼吸はしてますけど…!!」
を後ろから押さえる新八。
あちこちを血に濡らしたはぐったりとしているが、
消えるような息遣いがわずかに聞こえた。
「銀ちゃん着いたヨ!!」
「ぅおッ!!何だこの犬!デカッ!!」
屯所の入り口に立っていた隊士たちは定春にビビっている。
銀時はを背負って定春の上から飛び降りた。
「銀時ィ!!」
それを待っていたかのように、近藤や山崎たちが玄関から走って来る。
「は!!」
「息はしてるけど意識がねェ」
銀時は背中からを降ろして近藤に預けた。
近藤の両腕にじとっ、と血が映るのが分かる。
「山崎!医者は!」
「待機済みです!早く部屋に!!」
近藤はそのままを抱え、屯所の中へと走る。
「銀さん!僕らも行きましょう!!」
新八と神楽が銀時の背中を押して、近藤たちの後を追った。
「右下腹部18針、頭部外傷、切り傷十数箇所、その他打撲多数…
全治5ヶ月の重症です」
数時間後
隊士が集まる広間で山崎が治療の報告をした。
隊士たちはみな険しい表情をして黙り込んでいる。
「----------そうか」
上手にいる近藤は腕を組んで重い返事をする。
浅いため息を1つついて、縁側にいる銀時の方を向いた。
彼の白い着物にはべったりと血がついたまま。
「…を助けてくれたこと、礼を言う。ありがとう」
近藤はあぐらをかいた膝の上に手を乗せ、
珍しく銀時に頭を下げた。
銀時は顔だけ振り向いて近藤を見て、ガシガシと頭を掻く。
「俺が入った時にゃもう1人で粗方片付けてたからな。
そんな大したことはしてねェ」
そう言って髪から手を離し、血の乾いた手の平を見つめた。
「…相当目ぇ付けられてんじゃねーの、アイツ」
「当然だ。ただでさえ幕府直下の俺らは攘夷浪士にとって敵そのもの。
加えて女だってことで狙われやすいのは今に始まったことじゃねーよ。
今までだって何度も死にかけてる」
近藤の横に座る土方は煙草を銜え、冷静に言った。
「でも…女1人に野郎30人とは…卑劣過ぎます」
山崎も歯を食いしばって拳を握り締める。
「…剣の腕、身のこなしは並の野郎以上だが
幾ら鍛えたところで体格・スタミナは野郎以上にはなりようがない。
大人数で確実に潰しに来たってことだ」
近藤はそう言って重いため息をつく。
「いくら野郎みてェに強いからって…女だぞ!?許せねぇ!!」
原田が歯を食いしばって声を荒げる。
他の隊士も「そうだそうだ!」と騒ぎ立てた。
土方は煙草を銜えて息を吸い込み、白い煙をハーッと長く吐く。
「アイツは武士だ。女だろうがなんだろうが、
腰に刀差してる以上は野郎と同等。それはアイツ自身が一番分かってるだろ」
煙草を指で挟み、そう言った。
「俺達にとって派閥に関係なく攘夷志士が敵なように、
奴らにとって幕府に仕えるモンは男も女も関係ねェ。ただの侍だ」
「でも副長!!」
隊士たちが腰を浮かせる。
「-------だが気に入らねェな」
土方は煙草をそのまま灰皿に押し付けた。
「小娘1人ボコボコにして国変える気でいるクソ侍っつーのはよ」
力任せに潰した煙草がギチ、と音を立てる。
土方の表情はいつもに増して、瞳孔が開いて見えた。
To be continued