指が無くなろうが
足が千切れようが
右腕さえあれば 戦える
荒クレ-前編-
"噂の真選組女隊士・またもお騒がせ!
攘夷浪士大量検挙"
「…またこの女隊士か…」
新聞を大きく飾った記事を見て、浪士は目を細める。
「先日からこの女に浪士が多くやられている。
女だと甘く見ていたが…相当腕は立つようだ」
「まずはコイツから潰す必要がありそうだな…」
ぐしゃ、と新聞を握り締め、
腰の刀に手をつかえた。
「ふあぁあぁー…」
行きつけのラーメン屋のカウンターで大きなあくびをする。
「オフだってのに眠そうだね、ちゃん」
店主のオヤジがそんなの顔をみて笑った。
「昨日はお上の接待でねー…酌に付き合ってたら
帰りが午前様になっちゃって」
はそう言って再びあくびをする。
店主は再び笑い、の食べているラーメンの横に餃子の皿を並べた。
「サービスだよ。食べてスタミナつけな」
「マジで!?おじさんありがとー!!」
は嬉しそうに笑い、餃子を口に含む。
いつものようにオフを満喫する。
そんなを、店の外の路地から睨むように見ている浪士が居た。
「…また幕吏大量殺害か…」
局長室で新聞を開き、近藤は暗い顔でため息をつく。
「最近多いなぁ」
「派閥に属さねェ浪士はある意味一番厄介だからな」
テーブルに頬杖をついていつものように一服しながら、土方が答えた。
「そいやどこ行った?」
バサッ、と新聞を閉じ、近藤は首をかしげる。
「昼前に起きてどっか出てったよ。
大方、いつものラーメン屋でラーメンでも食ってんじゃねーのか」
「昨日は夜中まで接待に付き合わせちまったからな。
ゆっくり休めばいいさ」
呆れるように答えた土方に苦笑する近藤。
ラーメン屋を出たは、そのまま大通りの茶屋へと向かった。
「おばちゃーん抹茶黒蜜団子1本お願ーい!
あと2本はお土産用に包んでちょうだーい」
店前の長いすに膝を着き、店の中へと声をかける。
中から「はいよー」と元気な声が聞こえる。
この辺りのお店はほとんど通いなれた店ばかりで、皆顔見知りだ。
1分も経たないうちに店の女将が団子を持って店を出てくる。
「はい、これがお土産用ね」
紙袋を1本の団子をに差し出した。
「ありがとう」
は受け取ると同時に代金を払う。
「今日もいい天気だねェ」
「ねー暑いくらいだよ。でもこう天気いいと屯所でじっとしてんのも勿体なくてさぁ」
目蓋の上に手で影をつくり、晴天の空を見上げる女将。
も笑いながら言葉を返した。
「そういえばちゃん、こないだまた新聞に載ってたね?」
手にもった剥き出しの団子を既に口にいれたは、
もごもごと口を動かしながら女将を見た。
「うん。派手なことすんなって、上司に怒られちゃった」
そうは言うものの、悪びれた表情はしていない。
「あまり無茶するんじゃないよ」
「オウ、任せて!」
元気に返事をする。
店の影には浪士がしっかりと尾けて見張っている。
は女将に挨拶をして店を離れ、そのまま大通りを歩いて行った。
「----なかなか定まらんな」
「…焦るな。時機を待とう」
は大通りを抜け、駅前の喫茶店へと入っていく。
窓際のテーブルには栗子が座っていた。
「ちゃん!こっちでありまする!!」
栗子は席を立ち、に向かって手を振る。
も手を振り返し、テーブルに近づいた。
「ごめんねー待った?」
「いいえ、全然待ってないでございまする」
栗子はにこりと笑い、2人は向かい合わせにテーブルに座る。
「ハイこれお土産。まえに言った美味しいお団子屋さんの抹茶黒蜜だよー」
は持っていた土産用団子を栗子に差し出した。
「わぁ!ありがとうでございまする!!
ちゃんに聞いてずっと食べてみたかったんでございまする!」
「めっちゃ美味しいよー!」
栗子は嬉しそうに笑った。
栗子の彼氏の話だとか、マヨラ13の行方だとか、新しく出来た甘味処の話題だとか
他愛のない、実に女の子同士らしい会話が喫茶店に響く。
「・・・・・・・」
店の外でそれを見張る浪士たちの目は険しい。
すっかり陽が暮れ、辺りが薄暗くなってきた頃
ようやく栗子とのおしゃべりを終えて喫茶店を出た。
「……さて、と…」
風に靡く髪を耳にかけ、屯所とは反対方向へ歩いて行った。
浪士たちもその後を追う。
駅裏を通り、どんどん人気のない裏路地へと入っていく。
尾けていた浪士もそれを見失わぬよう、しっかりと後を追った。
はそれを誘うように入込んだ路地を歩いていく。
そして
「--------何の用?」
そう言って立ち止まり、くるりと振り返る。
尾けてきていた浪士たちも足を止めた。
「出て来なよ。折角ここまで誘ってやったんだからさ」
背後に人はいないが、物陰に気配を感じる。
「…さすがだな。話が早い」
編笠を被った数人の浪士が建物の影から出てきた。
「ラーメン屋から尾けてたね?よくもまぁ飽きもせず1日密着してくれちゃって。
さすがに人気の多いトコで仕掛けてくる程馬鹿じゃねェと頃合を見てたけど…
生憎あたしも暇じゃないからさ。出向いてやったよ」
ジャキッ
腰の刀を抜き、構える。
浪士はニヤリと笑い、編笠の紐を解いた。
「真選組一番隊隊士・とお見受けする」
浪士も刀を抜き、刀身をに向ける。
「…最近じゃ新聞載りすぎてちょーっと有名になってきちゃったからね」
右足を軸に、勢いよく地面を蹴って間合いを詰めた。
同時に手前の男も斬り込んでくると刀身同士がぶつかって火花を散らした。
(……コイツ…)
太刀筋が今までの雑魚浪士とは違うことがすぐに分かった。
「…高杉一派は伊藤を使って近藤の暗殺に失敗したらしいな?」
「ッ」
刃を交えたまま、男は笑って口を開く。
一瞬にしての瞳孔が開いた。
「裏切り者を利用し混乱に乗じて殺ろうなど、野蛮な連中よ。
だがその揺さぶりも多少の効果はあった模様だな。
伊藤派だった隊士の死者は数十人に上るとか」
「……黙れ」
がギリッ、と奥歯を食いしばる。
「副長の土方、剣豪の沖田も相当深手を負ったと聞いたぞ。
伊藤如きに崩されるようでは底が知れるな!」
「黙れェェェェッ!!」
浪士の刃を弾き、再び体勢を整えて男の胴を狙う。
男は抜いた鞘での刃を受け止めた。
「…ベラベラと随分煩いね…その舌かっ斬ってやろうか!?」
全体重を刀にかける。
浪士はフ、と笑った。
「やれるモンならやってみな」
ガキンッ!!
の刀を弾き、距離をとる。
「真選組女隊士の実力拝見といこうじゃないか」
「っ!」
「この人数相手にどこまでやれるのか」
の背後、左右からぞろぞろと湧いてきた浪士。
その数ざっと30人。
「…小娘1人に随分ご苦労なこって」
の頬からツ、と冷や汗が垂れた。
30人の浪士がいっせいに跳びかかってくる。
は右足を振り上げ、浪士の右手に踵落としをかまして刀を落とした。
「らァッ!!」
正面がガラ開きになった浪士を容赦なく斬りつける。
間髪入れず攻めてくる浪士の着物の袖を引っ張り、
ぐいっと引き寄せて膝蹴りをお見舞いした。
くの字になってそのまま倒れた浪士を突き飛ばし、
振り向くと同時に刃を振って後ろから跳びかかってきた別の浪士を斬った。
ピッ、と白い頬に返り血が飛ぶ。
「…伊達に女隊士を名乗っていないということか」
「名乗った覚えはないんだけどね」
刀を振って血を掃い、鋭い目で浪士を睨む。
すると
「……あまり調子に…乗らない方がいいぜ!!」
「ッ」
後ろに倒れていたはずの男が勢いよく立ち上がって
振り返ると同時に太く長い腕が伸びてきた。
「……っが…ッ!」
伸びてきた腕は首を掴み、の体を勢いよく壁に体を叩き付けた。
「-----所詮は女。力では敵うまい」
ニッ、と笑う浪士。
首を掴む手に力が入る。
「……ナ…メんじゃ…」
はその腕をぐっ、と掴んだ。
「ねェッつの…!!!」
「っ」
バキッ!!!
押さえられた腕を支えに、右半身を浮かせて浪士の首を蹴る。
の首から手が離れ、男は倒れた。
だが間髪入れず、再び浪士が数人斬りかかってくる。
2つの刃を刀と鞘で受け止め、柔軟に振り切って刃を切り替える。
斬った浪士たちは血を吹いて倒れた。
「……っゲホッ…!ゴホッゴホッ!!」
鞘を捨てて左手で喉を押さえる。
前髪の合間からツ…、と血が垂れてきた。
浪士はの四方を囲い、じりじりと距離を詰めてくる。
「怯むな!殺せ!!」
「ち…っ」
キリなく湧いてくる浪士。
攻撃を絶えず避けるの足取りも覚束無くなってきた。
「ああぁぁぁあああ!!」
浪士は刃を突き立て、突進してくる。
地面を蹴って身を翻し、その勢いを受け流すと
そのまま低い瓦屋根に飛び乗った。
飛び乗ると同時に瓦を両足で蹴って再び下へ跳び降りる。
返り血が頬に飛ぶと、息つく間もなく体を捻って背後にいた浪士を蹴り飛ばした。
両足を地面につくと、激しい動作に両足がフラついて思わずよろける。
軸足に力を入れて踏ん張り、再び体勢を整えると
「きゃッ…!!」
「っ!」
路地の前を通りかかった2人の女性。
血まみれのと、地面に倒れた浪士を見て思わず声を上げる。
十数人の浪士たちの目線が、いっせいに2人の女性へ向けられた。
手前の浪士が前に出て、右手の刀を女性たちへと向ける。
「…ッ来るなァァ!!!」
浪士たちに背を向け、女性たちを庇おうと走り出す。
「------いけねェな」
「ッ」
瞬時に背後に回ってきた男。
「侍が敵に背中を向けちゃァ」
「…ッ!」
To be continued