純情乙女血風録-前編-











天人が地球に降り立って早数年



物とビルが溢れて豊かに見える外観の傍ら、

国を守るハズの幕府はその天人と手を組み

弱者は虐げられ、

治安は悪化の一途を辿る



「キャアァァァァァ!!!!」

江戸の町に響く女性の悲鳴。

「ひったくり…!!そいつひったくりよ!!誰か捕まえてぇー!!!」

叫ぶ女性に指を指され、

江戸の人込みの中を走り抜けていく男。

その手には高価そうなハンドバックを持っている。



「…お姉さん、ここで待ってて」



女性の肩に手を乗せ、男を追ってその横を猛スピードで走っていく真選組隊士。

あっという間に天人を視界にとらえ、

地面を蹴って宙で一回転すると、スタッ、と男の前に着地する。

そこは川に架かる橋の上。


「手に持ってるモノを返してもらいましょーか」


横に靡く黒髪

真選組の黒いジャケットに黒いハーフパンツとミドルブーツ

腰には華奢な体と不釣合いな、日本刀

「し、真選組…!?」

「そうですよー白昼堂々こんな街中でひったくりたァ大胆なこった。

 悪いこと言わないからそのバッグこっちに寄越して大人しくお縄につきなさい。

 知り合いの美人婦警がいるトコに送致してあげるから」

刀の柄に左手で触れ、右手を男の方へ差し出した。

「ち…ッ!!」

男は橋の手すりに足をかけ、バッグを持ったまま川に飛び込もうとする。

「…させるかっての」

自分も手すりに飛び乗り、その上を走って男に近づいた。





ドゴッ!!!






振り上げた右足で、男の喉に踵落としを決める。

男が後ろに倒れると同時に、その手からハンドバックが滑り落ちて橋の外に投げ出された。

右手で刀を鞘ごとベルトから抜き、

手すりから飛んで柄の先にハンドバックの持ち手を引っ掛ける。

「…っゲホッ、ゴホッ…!!くそ…!!!」

男は喉を押さえてフラつきながら立ち上がり、

その場から逃げようと足を進める。

「逃がすか!」

そのまま刀を鞘から抜き、鞘を男に向かって思いきりブン投げた。


猛スピードで回転した鞘は男の後頭部に直撃。

男は再びその場に倒れ、今度こそ動かなくなった。

野次馬からオォーッと歓声があがる。

「よいしょ、っと」

落ちそうになったところを危機一髪手すりを掴み、

軽々と橋の上に戻ってくる。

「ハイお姉さん。気をつけなよ。この辺昼間でも物騒だからさ」

野次馬の中にいた先ほどの女性にバッグを手渡し、にこりと笑った。

「あ…ありがとう…あなた…真選組なの…?

 女の子なのに……?」

女性はバッグを受け取り、困惑した顔をする。

倒れた男の足元に落ちていた鞘を拾い、刀を納めて腰に挿した。

そして再び女性を見上げる。





「そうだよ」







あたし・


れっきとした真選組隊士。


所属は一番隊。


ちゃんとお仕事してるんだな、これが。









「ただいま戻りましたー」

屯所に戻ったはそのまま局長室に足を運んだ。

中には近藤と土方、そして総悟が座っている。

「オウご苦労。なんか変わったことあったか?」

「いえ特には。ひったくり犯を1人本庁に送っただけです」

は後ろ手で障子を閉め、その手前に正座した。

「そーか。あの辺も物騒だからなァ」

「あ、豆大福。食べたーい」

正座を崩し、すすすーっとテーブルに近づく。

「ホレ」

総悟は自分でも大福を頬張りながらテーブルの上にあった大福をとってに放り投げた。

「ありがと」

両手で大福を受け取り、嬉しそうに口に運ぶ。

「3人集まって、なんかの会議ですか?」

「こないだの祭りで高杉に動きがあっただろ?

 マムシのその後も含めて今後の体勢を整えようって話をしてたのさ」

大福を一口でたいらげて、湯飲みのお茶を流し込むように飲む近藤。

「最近桂の野郎が大人しくしてるってのも、どーも怪しいしな」

土方はフーッと煙草の煙を吐き、

テーブルの灰皿に先端を押し付けた。

「それより、テメーまーた派手に動いてきたんじゃねェだろうな?」

「ふぁい?」

ギロリとを睨む鋭い目。

は大福の粉で口周りを白くしながら返事をした。

「こないだ銀行強盗追うために奴等とカーチェイスしてパトカー1台駄目にしたろ」

「あれはぁ、あいつ等があたしの闘争本能に火をつけたのがいけなかったんですよ」

「ホシ追うのに闘争本能もクソもあるか」

土方は新しい煙草を銜え、呆れたようにため息をつく。

「犯人捕まえたし人質も無事だったんだからパトカーの1台や2台いいんじゃないですか。
 
 松平のとっつぁんに言えば新しいの買ってくれますよ」

「テメェはどこぞの我侭お嬢様か!?

 壊れりゃすぐ買ってもらえるなんて甘いこと考えてんじゃねーよ!!」

「トシ、とっつぁんはに激甘だからパトカーなんざ駄菓子屋で酢昆布買うみたいに買って寄こすよ。きっと」

「……世も末だな」

もごもごと口を動かし、近藤はテレビのリモコンでチャンネルを変えた。

土方は額に手を当て、テーブルに肘を着く。

「とりあえず、だ。桂や高杉がどこに潜んでるか分からねェんだ。

 あんま派手な動きして奴等刺激するような真似は止せっつってんだよ」

鋭い目でを見て、そう警告した。

「はいはい、分かってますって」

は口元についた大福の粉を指で拭い、立ち上がる。

「それじゃ、あたしそろそろ寝るんで。

 なんかあったら起こして下さい」

そう言って襖を開け、右足を廊下に出した。

「総悟、明日稽古付き合ってね」

「おう」

2個目の大福を口に入れながら、総悟は返事をする。

は嬉しそうににこりと笑い、部屋を出て静かに部屋を出た。

「………ぜってー分かってねェな」

銜えていた煙草を指に挟み、土方は煙と共に息を吐く。







--------あたしは正直、幕府だとか将軍だとか





どうでもいい。





どっちかって言えば

天人と手ぇ組んでまで自分の地位守ってる将軍様ってのは気に入らない。

でもしょうがない。

近藤さんや土方さんが「護れ」っていうんだから。


(土方さんに言ったら切腹、とか言われそう)


廊下を歩きながら、は笑みを浮かべた。







翌日

ー起きてんだろーィ?」

早朝、総悟はの部屋の前に立って障子の縁を叩く。

「開けますぜー「いーいーよー」ハイ開けるー」

勝手な1人芝居の終了と同時に障子が開いた。

は既に上半身を起こして額を押さえている。

「…まだ何も言ってないでしょーが…」

仮にも同い年の女の部屋に、ノックも無しに入ってくるのは日常茶飯事。

男所帯で暮らしているうちに慣れてしまった。

…特にコイツの起こし方には。

「もう稽古の時間?」

は寝ぼけ眼で総悟を見上げる。





「桂の野郎がまたテロ起こしたらしいんでさァ」






「ッ」








サイレンを鳴らし、赤灯を点滅させたパトカーはかぶき町に向かって猛スピードで公道を走り抜けていく。

助手席に総悟を乗せ、は更にアクセルを踏んだ。

「あ、土方さんだ」

煙の立つ建物の前に屯する真選組の制服

その手前に見えた土方を指差す総悟。

猛スピードで迫ってくるパトカーに気づき、土方は振り返った。

うおぉわァァぁぁああ!!!



キキィィィ



ドゴンッ!!!!







パトカーはカーブを曲がりきれずに煙の上がった建物に突っ込む。

!!おまっ…なんて運転してやがる!!」

シートベルトを外し、車から出てきた

土方はその場に倒れこみながらを怒鳴った。

「しょうがないじゃないですか。

 まだ初心者マーク取れてないんですから」

「パトカーにンなもん付けんな!!!市民の信頼ゼロじゃねーか!!」

立ち上がってパトカーの後ろに張り付いている初心者マークをべりっと剥がす。

「総悟!テメーが運転して来い!!」

「土方さんコイツの運転は凄いですぜ。

 路上でジェットコースター気分が味わえる上に俺の代わりに土方さん抹殺してくれるってんでさァ」

「テメーら2人して俺おちょくってんだろ!!そーだろ!!」

建物に突っ込んだままのパトカーをガンッ!と蹴り、

土方は新しい煙草を銜えてはァっ、とため息とつく。

「此処が爆破された建物ですかィ?」

「ああ、幕府配下にあった局の所有物だ。幸い今は使われてねーから怪我人もいねェ。

 ちッ…桂の野郎ォ…」

フーッと煙を吐き、半壊した建物を見上げる土方。

総悟とも建物を見上げた。

焦げ臭い匂いと埃っぽい空気

「何で桂だって分かるんですか?」

「怪我人がいねーのが何よりの証拠だ。

 ご丁寧に使ってねェ幕府の持ちモン狙って壊す辺りが、嫌味なアイツらしい手口だろうが」

の問いにそう答え、目を細める。

「まだそう遠くにはいってねェはずだ。手分けして探せ!」

「「はい」」

2人は返事をして再び突っ込んだままのパトカーに乗り込もうとドアを開ける。

土方はがしっ、との首根っこを掴んだ。

「オメーは運転いいから山崎たちと歩いて探せ 
総悟運転席来い

「えぇ?土方さんが悠々とパトカーで移動ってのが気に食わないんですけど」

「俺一応副長なんですけど!!」









そんなこんなで。


「え、ちゃんまたパトカー1台ダメにしたの?」

「しょうがないじゃん、免許とりたてなのに総悟が運転しろっつーから」

山崎や他の隊員と並んで歩きながら、は唇を尖らせる。

「駄目だよキミの運転はネズミーランドのスプラッシュマウンテンより強烈なんだから」

「おかしいな、総悟に運転出来てあたしに出来ないワケがないと思うんだけど」

すると


「あれ、山崎さんじゃないですか?」


進行方向から男の声。

大江戸マートから出てきた3人の男女と1匹。

声をかけてきたのは眼鏡の少年、志村新八。

その横には万事屋の主、坂田銀時と、チャイナ服の神楽が立っている。

神楽は自分の身長より大きな犬にリードを繋いでいた。

「新八くん。万事屋の旦那も」

「…誰?」

立ち止まる山崎の横で、は首をかしげた。

「ああ…ちゃん池田屋の時いなかったんだっけ。

 池田屋の時に桂と一緒にいた万事屋の人たち。

 まぁ結局桂のテロとは無関係だってことで処理されてるけど」

「…ふぅーん…」

は怪訝な目で3人を見上げる。

そういえば、以前近藤と土方を倒したことがある変な木刀侍がいたってことを

総悟に聞いた覚えがあった。

「なんかさっきデケェ爆発があったみてーだが…何かあったのか?」

銀時は今だ灰色の煙が立つ方向を見て山崎に問いかけた。

「ええ、また桂がテロやらかしたんですよ。

 怪我人はゼロなんですけど、なかなか尻尾がつかめませんからね。

 真選組のメンツが立たないって副長が息巻いてるんです」

「まーたやらかしてんのかあのヅラァ」

ふーっ、とため息をつき、ガシガシと頭を掻く。

「旦那、奴の居場所知りませんかね?」

「知らねーよ。アイツも相当な根無し草だからな。

 つまんねェことで顔出したかと思いきやすぐどっかに消えやがる。

 アイツから尋ねてきたことはあっても、こっちから連絡なんかとらねーよ」

「そうですか…旦那ならなんか手がかり知ってると思ったんですけどね」

山崎は残念そうに肩を落とした。

「行こうかちゃん、別を探そう」

「はーい」

は面倒くさそうに返事をする。

「それじゃ旦那、失礼します」

山崎は3人に軽く頭を下げ、の前を歩いて行った。

顔を上げたと、銀時の目線がバチリと合う。

はにこりと笑い、早足で山崎の後について行った。

3人はその後姿を目で追う。

「……なんだアイツ」

「真選組の隊士ですかね?制服着てるけど…女の人もいたんだ…」

新八は眼鏡を上げ、首をかしげた。









To be continued