端無く、しあわせ。
は、と短く息を吸い込んで目が覚めた。
じっと天井を見上げていると自分の体が小刻みに揺れているのが分かるくらい鼓動が速い。
寝ている間ずっと息を止めてたみたいに酸素が恋しくなって、
何度も確かめるように深呼吸した。
少し耳鳴りがする。
背筋が冷たくて身震いし、慌てて右隣を見た。
こちらに向けられた大きな背中は規則的に動いていて、
羨ましいほど安らかな眠りについている。
このひとは、悪夢で目覚めたりするんだろうか。
数十cmほどの距離を詰めてその背中にぎゅっとしがみつく。
肩甲骨のあたりに顔を埋めて固く目を閉じた。
人肌、というのは多分37℃前後なのだろうけど、
しがみついた人肌はまるで湯たんぽを抱きかかえてるみたいにあたたかい。
このひとはきっと真冬でも暖房なしで寝られるんだろうなぁ。
…事実、寒がりな自分も彼が同じ布団に入ってる時はエアコンも湯たんぽもいらない。
しばらくしがみついていると、眠りが浅かったのか背中がぴくりと動いた。
そして首を捻って背中を振り返り、斜め下に視線を落としてようやく背中にしがみつく細い体に気づく。
「……どうした…?」
寝ぼけているのか反応が鈍い。
声も少し掠れていた。その掠れた低い声、ちょっと、いやかなり好きかもしれない。
よかった、意識がはっきりしてる時じゃ真っ赤になって引き剥がされてただろう。
「…ものすごく、怖い夢みた」
更にぎゅうっとしがみつくと「…そうか…」と今にもまた眠ってしまいそうな低い声が降ってきて、
数秒後寝床はまた静かになった。寝ちゃったかな。
するとシャツを掴んでいた手が緩く握られてシャツから引きはがされて、
掴まれた手の熱さに驚いていると大きな背中がゆっくりと反転した。
視線を上げると額に喉仏が触れる。
長い腕がぽふん、とお腹の辺りに乗せられた。
「…暖かくして眠ると、悪い夢は見ないと聞いた…」
「…本当?」
「昔佐助に聞いたことがあったような……なかったような…」
「どっち」
「……分からぬ……」
瞼が下がってきて、声も小さくなっていく。
お腹に乗った腕がいっきに重くなって「あ、寝たな」と分かった。
暗闇に目が慣れると見えてくる気持ち良さそうな寝顔。
規則正しい寝息を聞いていると鼻をつまんでやりたくなったが、さすがに可哀相なのでやめた。
彼を起こしたくてしがみついたんじゃないのだし。
「…なんの夢見てるの」
いいな。私も連れてってよ
シャツの上からでも分かる、鍛えられたしなやかな背中に腕を回して再度ぎゅうっとする。
きっと朝が来たら「どうしてこんなにくっ付いて寝ているんだ!?」って真っ赤になって大騒ぎするかもしれないけど、
アンタがそうしたんでしょって知らん顔しておこう。
きっと、私の夢のことも、寝ぼけて自分が言ったことも覚えてないだろうし。
「…おやすみ。いい夢みせてね」
長編書いてると間にちょいちょい短編書きたくなる悪い癖。
寝ぼけてる幸村を書きたかっただけです。
寝ぼけてる時は幸村がデレるのもヒロインがデレるのも
素直に受け止めて面倒くさくなさそうなので(笑)