One-7-








深夜1時

池袋某高級マンション前

全身黒ずくめの首無しライダーと、血まみれのバーテン服を着た金髪の男

その2人の後ろを、どこからどう見ても一般人にしか見えないスーツ姿の若い女性がついて歩く。

その光景はまるで女性がその2人に拉致られているようにも見えた。

3人は高級マンションのエレベーターを上り、先頭を歩いていた首無しライダーが部屋のドアを開ける。


「セルティおかえりー……って…静雄!?…と…お客さん…?」


玄関で出迎えたのは眼鏡で白衣姿の男。

男は同居人だけでなく他に2人の来客がいたことに驚いた。

恋人のセルティと、高校時代の同級生の静雄と、その横に見知らぬスーツ姿の女性が1人。

そんな様子に疑問符を浮かべる白衣の男だったが、セルティがPDAを取り出し文章を打ち込んで男に見せる。

『ごめん中で詳しく説明するから、とりあえずこの子診てあげてくれないかな?怪我してるんだ』

「え!?と、とりあえず上がって!?」

男はびっくりしながらもドアを大きく開き、3人を家へ入れた。

「お邪魔します…」

彼女は遠慮がちに深々と頭を下げ、玄関でパンプスを脱ぐ。





「------------成程…それは災難だったね」

一通りセルティと静雄から経緯をきいた白衣の男は、難しい顔をしながら何回か頷いた。

が通されたのは様々な薬や治療器具がそろえられた部屋だった。

男が着ている白衣から、彼は医者か何かなのだろうと考える。

「僕は岸谷新羅。職業は見ての通り闇医者。愛しのセルティの恋人で、静雄の同級生だよ」

新羅と名乗る眼鏡の男はそう言ってにっこりと柔らかい笑みを浮かべ、

テキパキと慣れた手つきで診療道具を揃えていく。

『人の前でそういう言い方はやめてくれって言っただろ』

セルティは傍のパソコンで文章を打ち、新羅を一喝。

だが照れているのか、その文章から嫌悪感は見られない。

静雄はドアを隔てたリビングのソファーに座り、煙草を吸いながら治療が終わるのを待っていた。

「あ…私はと言います。すいませんこんな時間にお邪魔して…」

「いいのいいの、気にしないで。さて…傷の手当てだけど…」

と向かい合わせに座り、「失礼」と言ってからの右頬に触れた。

白い肌が無残に青く腫れている口元。

唇から僅かに血が滲んでいる。

「腫れは冷やせば引けるだろうけど…痣がねぇ…まったく、女の子相手に酷いことするよ」

消毒をして軟膏を塗り、ガーゼで痣を覆う。

痛々しい青痣は隠れたが逆に大きなガーゼが不恰好で目立っていた。

「問題は肩だなぁ…セルティ、上着脱ぐの手伝ってあげてくれる?」

の後ろに立つセルティにそう頼むと、

セルティはこくんと頷いてのジャケットの襟をそっと開いた。

も痛みを我慢しながら何とかジャケットを脱いでワイシャツ姿になる。

白いワイシャツ姿になると更に鮮明になる肩の血。

下着のストラップを切るギリギリのところで白い肩口が深く切られていた。

「ごめんね、触るよ?」

ここしばらく一般人を診ていない新羅は、その肩に触れるのを躊躇いながら

切れたワイシャツを少し裂いて傷口を見やすいようにする。

血は既に止まって固まっていたため、周りに付着している血を消毒液で洗い流した。

「…………ッ」

全身にビリビリと流れる痛みには思わず声を出して体を強張らせた。

「、」

ドアの向こうにいた静雄も、その声を聞いて反射的にそちらに顔を向ける。

だがこの場で自分に出来ることはないと思い直し、再びドアに背を向けた。

『もし違ったら謝るけど…もしかして貴女が静雄に2回助けられて

 ベストを洗濯してあげたっていう…?』

肩に分厚い包帯を巻かれているにセルティがPDAを見せる。

「あ…はい…でも何で私のこと…」

『静雄に聞いたんだ。よかった、何だかそんな感じがしたんだ。静雄が心を許しそうだなって』

そんな2人を交互に見ながら新羅は首をかしげる。

「なになに?何の話?」

『何でもないよ。知りたければ後で静雄に直接聞けばいい』

「えぇー!?それって俺に殴られろってことかい!?」




1時間後

「はーい終わったよー」

新羅の声とともにドアが開き、が部屋を出てきた。

頬にはガーゼを貼られ、ジャケットを脱いで少し大きめのワイシャツを着ている。

「シャツは治療のために裂いちゃったからとりあえず俺のを着せたよ。

 あ、俺のが嫌だったら静雄のを…って静雄のシャツの方が血まみれで嫌だよねぇごめんごめん」

「…殴り飛ばされてぇか?」

「ごめんなさい調子にのりました」

あっはっはと笑う新羅をじろりと睨む静雄。

新羅は頭を90度以上下げて謝罪する。

「治ったのか?」

浅く溜息をつき、静雄は新羅に問いかけた。

「治ったのかってねぇ…彼女は君と違ってごく一般的な体のつくりをしてるんだよ?

 君だからこそ銃創があっという間に治ったり、ナイフで刺されても平気なのであって

 5針縫った傷がすぐに治るわけがないじゃない。まぁ…全治3週間ってとこかな。

 鎮痛剤をあげたから日常生活に支障がないぐらいは動かせると思うけど、無理は禁物だよ」

医者としての常識を何度も静雄に打ち砕かれている新羅は、

一般人であるの診察をして当たり前の言葉を返す。

「あの…本当にありがとうございました…治療費は…」

「いいよいいよ。セルティや静雄の知り合いなら尚更ね。

 仕事でもあまり重いもの持ったり無理しちゃだめだよ。暇が出来たら傷見せにきて欲しいな」

新羅はそう言ったところで壁時計に目を向けた。

そろそろ午前2時になろうとしている。

ちゃん…だったよね?家どこ?もう終電も行っちゃっただろうし…セルティに送っていってもらったら?」

「いえそこまで気を使って貰うわけには…!大丈夫です、歩いても帰れる距離なので」

新羅の言葉には慌てて手と首を横に振る。

『でももう遅いし…危ないよ』

「俺が送ってく」

を気遣う言葉を打ち込むセルティの横で、煙草を灰皿で潰した静雄が声を上げた。

「あ、それは確実。頼もしいことこの上ないじゃない」

「俺にもシャツ貸してくれ」

「はいはい。でも君が着ると袖がぱっつんぱっつんになるんじゃないかな…」

ベストを脱ぎ、血まみれのシャツを脱ごうとボタンに手をかける。

新羅は再び隣の部屋に戻り、自分のワイシャツを取りに行った。

「こっから歩いてどんくらいだ?」

「30分もかからないと思いますけど…いいんですか…?」

は申し訳なさそうに静雄を見上げて首をかしげる。

静雄はボタンを外しながら、後ろめたそうに頭を掻いて顔を伏せた。

「…元を正せば俺の所為だし、セルティもポリに目ぇ付けられてっから見つかると面倒だろ?

 俺が行くのが一番いいんじゃねーかと思って」

血まみれのシャツを脱ぎ、新羅に渡されたシャツをはおってボタンを閉めていく。

「ヤンキーだろうがヤクザだろうが、警察だろうが首無しライダーだろうが、

 誰が絡んできても勝てないだろうしね」

新羅は眼鏡を直しセルティの肩をポンと叩いた。

自分の目でそれを確認しているはその言葉を疑うことはしない。

「……じゃあ…お願いします…」

そしてぺこりと頭を下げる。

静雄はベストを着ながら頷いた。

「んじゃ行くわ。世話んなったな」

赤い蝶ネクタイを締め、血まみれのシャツを小脇に抱えて部屋を出る。

「お世話になりました。また改めてお礼させてください」

2人に向かって深々と頭を下げる

「静雄のことよろしくねー」

にこにこと笑う新羅と、右手を振って見送るセルティ。

も笑い返し、静雄を追って部屋を出て行った。

バタン、とドアが閉まった音を聞き、新羅がふーっと長い溜息をつく。

「…静雄とあんな自然に接する女の子、初めて見たなぁ」

『私も驚いたよ。あの子、見た目よりかなり男前な性格してるから』

「そうなの?」

PDAに映し出される文字を見て新羅は目を丸くした。

『自分で自分の腕を切って「貴方と私どこが違うんですか」って。

 同じ血が流れる限り自分と静雄は同じなんだって。

 力が理由で他人と深く関わらないようにしてきた静雄を、「好きになりたい」って』


『静雄が望んだことを、自分の持ちうる全ての力を使って叶えてみせる、って』


涙を浮かべながら大声でそう言ったのを思い出し、セルティは少し彼女を羨ましく思った。

自分はそんなにストレートに感情を表現できないから。

「すごい男前じゃない。静雄と似たもの同士かもね」

『ああ。静雄はムチャクチャだけど、いい奴だ。

 だから私に新羅が居てくれるみたいに…静雄のことを分かってくれる子が傍にいてくれたらって思ったんだ』

古くからの友人である静雄はセルティと知り合った頃からあんなだったから。

新羅はそんなセルティを見ながら頷き、柔らかく笑う。

「そうだねぇ。俺も今こうしてセルティと一緒にいられることは凄い幸せなことだから、

 やっぱり誰かが傍にいてくれるってことは尊いことなんじゃないかな」

自分の場合は相手が人間ではないのだけど。

「…でもあんまり静雄静雄言われると妬いちゃうよ?」

『しょうがないだろ静雄の話なんだから』

惚気た会話をする2人を他所に、池袋の夜は更けていく。





目白までの道のりを、2人は様々なことを話して歩いた。

互いの年齢に始まってが静雄の2つ年下だと分かり、

静雄が長身であることからが身長を聞いたり、

家族構成や仕事のこと、静雄は今までセルティにしか話したことがなかった自分の過去のことも話した。

互いのことを話し合っていると20分ほどで目白の駅前に着いた。

あっという間の時間だった気がする。

「ここで大丈夫です。ありがとうございました」

「明日も仕事なのか?」

「はい。あ、階段滑って転んだとか言えば全然大丈夫です。

 肩も新羅さんが鎮痛剤くれたから仕事には支障ないし」

仕事、という言葉ではふと思い出した。

昨日会社に訪ねてきた静雄と同級生だという男のことを。

「あの、静雄さん」

「ん?」

「昨日、会社に記者…みたいな人が私を訪ねてきて、静雄さんの同級生だって言ってました」

「同級生?」

同級生の就職先なんか知らないしほとんど顔と名前を覚えていない。

静雄は片眉をひそめながら数少ない同級生の顔を思い浮かべる。



「折原臨也っていう人なんですけど…」



只一人、思い浮かべないように意識するだけで腹が立っていた男の顔が強制的に静雄の脳裏をかすめた。

彼女の職場にやってきた臨也と、

なせか彼女の顔を知っていた黄巾賊

こういう時にだけよく働く勘が、この事態を一本の線で繋げていく。

瞬間的に沸騰した血液がいっきに頭に上ってこめかみの血管が浮き出てきた。



「…あの野郎ォ…!!」



ゴキン、と鈍い音がして、静雄が手を置いていたフェンスが歪む。

「…し、静雄さん…?」

ただならぬ空気を感じたは不安そうに静雄の顔を覗き込んだ。

「何された!」

逆に静雄もを見下ろして物凄い剣幕で詰め寄る。

何故静雄が怒りを顕にしているのか分からないは戸惑うばかりだ。

「な、何も…社長の知り合いだと言って会社にアポをとって来て…静雄さんのことを聞かれました…」

昨日会社にやってきた折原臨也と交わした会話を思い出し、慎重に言葉を選びながらも正直に話す。

「…最初から仕組んでやがった…俺とお前のことどっかで知って、黄巾賊のガキ共にお前のこと流したに決まってる!」

フェンスを歪ませた手で頭を掻き、苛立たしげに舌打ちをする静雄。

は自分が口に出した名前がとんでもない人物だったのだと知り、顔を青くさせる。

「あのクソノミ蟲野郎…ッ今すぐ新宿行ってぶっ殺…」

「あ、あの!!」

まずい、と思ったは咄嗟に静雄の言葉を遮った。


「な、なんか…急に肩の、傷が、痛くなってきちゃって…あ、いたた…

 出来れば…アパートまで一緒に…来て頂けない、でしょうか……」

 

我ながら苦しい嘘だと思った。

新羅がくれた薬のおかげで今は全く痛みがない。

でも何とかして「折原臨也」という男の話題から離れなくてはと思った。

二人の間に何があって静雄が折原臨也という男にここまで憎悪を向けるのかは分からない。

しかしこのままでは確実に静雄は彼を殺しに行く。

冗談や比喩ではなく、本当に。

彼ならそれが可能だと今日一日身を持って体感したは何としてもそれを止めたかった。

静雄はの傷口を見下ろすと、の嘘を訝しむ様子もなく電池の切れた人形のように右腕を下ろした。

「…そうか…そりゃ良くねぇな…」

騙すようで気が引けたがとりあえず意識は「折原臨也」から逸れてくれた。

は静雄に聞こえぬよう安堵の溜息を漏らす。

「家、どっちだ?」

「あ、えっと…目白通りです…」

が答えると静雄は「そうか」と言って先に歩き出した。

は心の中で静雄に謝りながらその後に続く。

すると前を歩いていた静雄が急に立ち止まり、くるっと向きを変えてこちらに手を差し出した。

「?」

も必然的に立ち止まり、首を傾げて静雄を見上げる。

「カバン」

「え」

「肩、痛ぇんだろ」

静雄はそう言ってが肩にかけているショルダーバッグを指差した。

カバンを持ってやる、という意味だと理解したは慌てて首を振る。

「え、い、いえ!そこまでは…!」

「新羅のマンションまで行くのに一回持ったけど結構重かったぞ。

 新羅も重いモン持つなって言ってただろ」

確かにこのバッグには仕事で使うファイルやら化粧ポーチやらかさばる重いものが入っている。

怪我をした肩にはかけられないから反対の左肩にかけていたのだが、体が感じる重さはあまり変わなかった。

「いや、大事なモン入ってるっつーなら無理は言わねーけど」

「いえ全く!全く入ってません!!」

は慌ててバッグを下ろす。

静雄はそれもどうなんだ?と首を傾げながらバッグを受け取った。

はそこで嘘をついてしまったことを激しく後悔した。

「…すみません…」

静雄を止めなくてはと思ってついた小さな嘘が逆に気を遣わせてしまった。

荷物がなくなって軽くなった肩をしょんぼりと落とし、静雄の横を歩く。



「…謝んのは、俺の方だ」



少し間を置いて、静雄が言った。

は目を丸くして隣を見上げる。

「理由は、どうあれ…お前がああいう目にあったのは俺が原因だ。

 俺があいつらに顔知られてなきゃお前を狙うこともなかっただろうし…

 …って、あの街にいると俺が知らなくても向こうが俺を知ってたりするからそれは無理だったと思うけど…」

静雄はそう言って申し訳なさそうに頭を掻いた。

はふと視線を落として、自分のバッグを持ってくれている静雄の手を見る。

新羅のマンションで血を洗い流していたからもう赤く染まってはいないが、

長い指のあちこちに切り傷があって親指の爪が少し割れているのが見えた。


「…でもあれがなかったら、私はこうして静雄さんと歩くことは出来なかったと思います」


それを聞いた静雄はを見下ろす。

「話しかける勇気もなくて、今日は静雄さんいないかなぁってビルの回りウロウロしたりして、

 話しかける話題とかタイミングをすっごい時間かけて計画したりして」

そう言ったはふふ、と笑って静雄を見上げた。



「知ってますか?「好きです」っていう言葉に応えてくれる人がいるって、すごいことなんですよ」



「こんな小さい怪我なんかどうでもいいやって思っちゃうくらい、すごいことなんです」

があんまり柔らかく笑うから、静雄は照れを隠すために顔を逸らして頭を掻く。

「…小さくねぇだろ5針縫っただろ」

「そう感じちゃうくらい凄いってことです!」

は身を乗り出して力説した。

彼女の笑顔は、不思議だ。

促されたり強いられているわけではないのにこちらの頬も緩む。

つられて笑ったことを恥じる暇もないくらい、ごく自然に人を笑顔にさせる力がある。

「…あー…そうだ

静雄は緩む頬を隠そうと下を向いたまま名前を呼んだ。

は思わず立ち止まり、目を見開いて静雄を見上げる。

そんなの表情を見た静雄の方が驚いて後ろを振り返った。

「…俺何かおかしいこと言ったか」

「え、いやあの…名前…呼んでもらったの初めてだから…

 私だけ静雄さんのこと覚えてるものだと思って…」

それを聞いた静雄は少しばつが悪そうに頭を掻いた。

「いや、俺も人の顔と名前覚えんのは苦手だけどさ…さすがに覚えてるよ」

自分はそこらの見知らぬカラーギャングや高校生にまで名前を呼び捨てされているものだから、

普通の人間をどうやって呼んだらいいのか分からなかった。

親しくなくても名前で呼んでいる知り合いもいるし、逆にそこそこ親しくても苗字で呼び続けている知り合いもいる。

「じゃなくて何だ、えぇと…」

本題とずれてしまった、と静雄は再び頭を掻いた。

「怪我治るまでは電車もしんどいだろうし…奴らがまた来ないとも限らねーし…

 職場近いんだから何か、あったら…」

歯切れ悪くそう言った静雄を見上げ、はやんわりと笑う。


「怪我、治っても会いに行っていいですか」


そして静雄が脇に抱えていた血まみれのワイシャツを見る。

「また洗濯させて下さい。ワイシャツは得意分野なんです」

そう言って笑い、両手をそっと差し出した。

静雄は何度目か分からない程その笑顔につられて笑う。


「ああ」


そして血まみれのシャツを、その細い腕に預けた。








新宿・某高級マンション

「いやしかし驚いたよ。まさか彼女が君に頼んだ情報元の部下だったなんてね」

東京の街が一望できる高さにある部屋で、臨也はわざとらしい笑みを浮かべながら波江に声をかけた。

手には先日波江から受け取った書類を持っている。

「…わざとらしい。実は全部知ってたんじゃないの?」

波江は奥でファイルを整理しながら冷ややかな視線を送る。

「まさか。生憎シズちゃん関連のことで俺の思い通りになったことはないからね。

 彼女はこれから色々と関わってくるだろうから早めに手を打とうと思ったんだけど…

 どうにもシズちゃん同様クセがあるみたいだ」

肩をすくめ、諦めるように鼻で笑う臨也。

波江は眉をひそめ、本棚から顔を覗かせる。

「そういう子には見えなかったけど」

「俺だから分かるんだよ。性質は全然違うけど、考え方がシズちゃんそっくりだ」

臨也はそう言って憎らしいという表情でニヤリと口元を吊りあがらせた。



『…ご忠告、ありがとうございます』



…あの日、臨也の話を聞いたは恭しく頭を下げて臨也に礼を言った。

だがその表情は、感謝に満ちたものではなかった。



『でも、私は私の意志であの人と一緒にいて、あの人と話をしたいと思った。

 あの人のことを…もう少し、知りたいと思った。

 だからその結果として危険な目にあっても私はいいと思ってます。

 命知らずで馬鹿な女だと笑って下さい』



「…理屈じゃない、ってあたりがシズちゃんと似てて実に気分が悪いよ。

 黄巾賊のチンピラ被れがどうこう出来るレベルじゃなかったってことか。

 まぁいい物見れたから今後に乞うご期待、って感じかな」

そう言ってソファーに深く寄りかかり、満足気に笑みを浮かべる。

そんな臨也を横目に見ながら波江は浅く息を吐いた。





「---------最低ね、貴方って」






長らく加筆修正のためメニューから下げていた静雄長編でしたが
ようやく再掲載までこぎつけました。
お問い合わせ下さった方々本当に申し訳ありません!