Memory-総悟編-












「だーめ!!それあたしの!!!」

「何言ってやがんでィ、てめェさっき2つ食っただろ」

「アンタも食ったじゃん!!譲れ!育ち盛りの女の子に譲れ!!」

「男より強いクセにこんな時ばっか女を利用すんじゃねーよ。

 これ以上丸くなっても知らねェぞ」

朝の広間に響く男女の声。

テーブルの上の大福を巡って醜い争いが勃発していた。

上座に座る近藤と土方は呆れ顔。

「おいテメーら、朝っぱらから醜い争いしてんじゃねーよ。

 大福の1つや2つでグダグダ騒いでんじゃねェ」

スパーッと煙草の煙を吐き、テーブルを挟んでどつき合う2人を睨む土方。

は総悟の顎を押さえて、総悟は右手にの髪を掴んで。

「だってこれとっつぁんのお土産ですよ!京都の有名な和菓子屋さんの!」

「俺ァそんなことどーでもいいんですが、

 コイツに最後の1つをとられるってのがどーにも気に食わないんでさァ」

お互いを押さえ合って、2人は土方を見た。

「この大福の素晴らしさを分からない素人は食うな!!」

「じゃあてめェは分かるってのかィ」

2人は再び睨み合う。

「あー…はいはい、2人共ストップー天下の真選組が大福1個取り合って喧嘩なんて、

 市民に知れたら格好つかないだろー」

近藤がそう言って割って入った。

「ここは公平にジャンケンで決めなさい」

掴み合う2人は腕を組む近藤を見た。

「「………………」」

そして再び睨み合い、ゆっくりお互いから距離をおいて右手に力を入れる。

「「…最初はグー…」」

「「じゃんっけん…」」



「「ポイ!!!」」




・・・・・・・




ああああぁぁぁあああ!!!

はマヌケに広げた右手の平でそのまま頭を抱え、テーブルの上に膝を着く。

総悟はニヤリと笑い、皿の上に残っていた最後の大福を口に運んだ。

「あー美味しい←棒読み」

「…ッドS-------!!!クソドS----------!!」

「言葉遣いが悪いぞ。武士は1度負けたら潔く引き下がるべきだ」

近藤はうんうんと頷く。

は涙目になってキッ、と総悟を睨む。

総悟は口元に白い粉をつけて意地悪く笑った。









コイツ・沖田総悟とは








出逢った時から








「家族のようなもの」という大きな括りでは表せないような



なんだか微妙な関係を築いていた気がする。














7年前



『どうだ!汚ねェが広いだろ!!』

木刀一本腰に挿して、案内された本道はたしかに綺麗とは言いがたいボロ道場だった。

でも確かに広い。

奥には竹刀が整理されていて、読めない漢字の掛け軸がかかっている。

はそれを見上げ、広い道場を見渡した。

『俺ちょっと仲間と話つけてくるからちょっと待ってろな』

近藤はそう言っての頭に手を乗せ、縁側から草履を履いて中庭へ出て行く。

『………………』

再び中を見渡し、ちょこんと隅に腰を下ろした。

膝を抱え、木刀を横に置いてぼーっと道場の木目を見る。

すると


『オイそこの』


『っ』

障子の方から男の声。

顔を上げると、そこには色素のうすい髪色をした同い年くらいの少年が立っていた。

白い着物に青い袴姿。

整った顔立ち

手には竹刀を持っている。

『稽古付き合ってくれィ』

少年はそう言って中に入ってきた。

そしてにもう1本の竹刀を投げて寄越す。

『…でも…あたし…』

竹刀を受け取りながらも、は躊躇う。

『横にある木刀は飾りじゃねェだろ?

 絡んできた浪士をそれで滅多打ちにしたってことは聞いてんだぜ』

『っそれはあっちが…!!』

腰を浮かせ、近づいてくる少年を見上げる

『小娘が木刀さして1人で歩いてりゃそこらのバカは物珍しがって寄ってくるんでさァ。

 女が男と同じように刀持つには相当の覚悟と意志が必要だって、近藤さんが言ってたぜィ』

『…近藤さん…?』

は眉間にシワを寄せる。

『お前拾ったお人好しでさァ。この道場の主だ』

少年はそう言って向きを変え、庭の方を見た。

も立ち上がり、庭を覗く。

『一緒に長髪の男がいるだろィ。アイツもお前と同じように近藤さんが拾ってきたのさ。

 俺アイツ超嫌いだけど』

ここへ自分を連れてきた大柄な男・近藤は少年の言う通り黒髪の長髪を1つに結わえた目つきの悪い男と一緒に話をしている。

『俺はまだガキだから、国だの幕府だのって難しく考えて剣は奮いたくねェんだ。

 俺がここにいるのも、真剣を持つのも、近藤さんが好きだからあの人についてってみたいって思ったんでさァ』

障子に手をかけ、少年はそう言って近藤を見る。

『お前は?』

そして視線をへ移した。

澄んだ目が真っ直ぐ、の目を見る。







『変わらず剣を振るうなら、何のために振るいたいと思う?』







「…………ん」

路上に停めていたパトカーの運転席で目を開けた

(……寝てた)

ぼーっと寝ぼけ眼でフロントガラスを見る。

そうだ、巡回中になんか眠くなったから車を停めてちょっと一眠りしていたんだ。

(土方さんに見つかったらまーたどやされる)

ふーっとため息をついて前髪をかき上げ、車のエンジンをかけた。

(…懐かしい夢、みたなぁ…)

すると



コツンッ



「っ」

運転席の窓を叩く音。

「何サボってんでィ」

驚いて外を見ると、車の横には総悟が立っている。

…なんだか正夢みたいだ。

「サボってませーん、仮眠とってたんですぅ」

窓を開けながら、は目をこすって総悟を見上げた。

「暇なら乗せろィ」

総悟はそう言ってが答える間もなく助手席に乗って来る。

「アンタ今日この辺管轄だっけ?」

「いや。ちょいと野暮用で」

は首をかしげ、とりあえず車を発進させては横目で総悟を見た。

「とりあえず駅付近をぶらっと。銜え煙草のマヨラー発見したら思っ切りアクセル踏みな」

「はいよー」

総悟はベルトを締めて腕を組み、座席に深く寄りかかる。

はまだ眠そうな返事を返した。

「……ねェ総悟」

前を見ながら名前を呼ぶと、総悟は返事をせずを見る。

「あたしが近藤さんに拾われてきた時のこと、覚えてる?」

唐突な質問にさすがの総悟もキョトン顔。

「どーした、急に」

「なんとなく。昔の夢見たから」

変わらず前を見ながら話を進める

総悟はそんなを横目で見てから、すぐに思い出すように笑った。

「忘れるわけねェだろィ。クソ生意気な小娘が木刀持って睨んできやがったんだから」

「小娘って、ウチら同い年じゃん」

は横目で総悟を睨む。

「アンタが勝手に勝負挑んできて…」

「ちょっと挑発したらすぐ乗ってきた」

「だってなんか暴れたい気分だったんだもん」









『変わらず剣を振るうなら、何のために振るいたいと思う?』










『…わ、わかんない…そんなの』

は少年から顔をそらし、手元の竹刀を見る。

『今までは?ただ粋がって刀振ってたのかィ?』

『っ違う!!』



"剣を振る意味は人それぞれだ"



初めて握った竹刀

頭に乗った父親の大きな手。


"大切な人を護るため、国を護るため、

 何かを作るため、壊すため…剣を持つ意味に正解なんかないんだ"


"だから剣を腰に挿し、振るうということは

 自分の意思を貫くということ"


あの時意味なんか分からなかった

ただ握らされた竹刀を振るのが楽しくて





"自分の生き様を剣術に込めるということ"






『…っあたしは………!』






だってもう、護るものなんて







『……なら』

少年が口を開く。

『これから探していきゃいいだろ?』

少年は竹刀を肩に乗せ、真っ直ぐを見下ろした。

は目を見開いて少年を見る。

『お前が此処で剣を振るう理由。"真選組"って枠の中で、お前が護りたいもの』

『これから探したって、遅くはねェハズだぜ』

澄んだ目から視線を逸らせない。







"願わくは、お前には『護る剣』を、振るってもらいたいよ"







『………………っ』

は唇を噛み締め、手にある竹刀をぎゅっ、と握る。

そしてすっくと立ち上がり、両手で竹刀を持って少年を見た。

『…御一手、お相手願います』

迷いが消えたまっすぐな目。

少年はそれを見てフ、と笑う。






バシッ!!!






『『っ』』

庭で話をしていた近藤と土方は、本道から聞こえる大きな音に顔の向きを変えた。

『…アイツら…早速仲良くなったのか』

『オイオイ…いくらガキ同士っつったって、小娘に総悟の相手が出来るわけ…』

『大丈夫さ。見てな』

近藤は腕を組み、打ち合いをする2人を笑いながら見ている。

やあぁぁあっ!!

が勢いよく振り下ろした竹刀を自分の竹刀で受け止める少年。

そのままの竹刀を力強く押して弾き、脇を締めた状態から竹刀を振って、の胴体を狙った。

『っ』

は宙に飛んで竹刀を避け、宙で1回転して少年の後ろをとった。




バシッ!!!




力強い突き。

少年は竹刀を縦にしてそれを止める。

『……やるじゃねーか』

『アンタもね…っ!!』

顔を見合わせた2人は笑っている。

『楽しそうだろ?』

『…ガキのケンカにしか見えねーけどな』






体の底から蘇ってくる









剣を奮う楽しさ










あたしがそれに、意味をつけるんだとしたら?











「「戻りましたぁ」」

揃って局長室に入る2人。

「お、揃って仲良く戻ってきたか」

「コイツがサボってるとこ見つけたんで」

「サボってませーん」

親指でを指す総悟。

はそんな総悟を追い越し、テーブルの手前に座り込む。

「お前帰ってきたら再放送のドラマ録画するとか言ってなかったか?」

「あっ!!そうでした!!」

近藤の言葉に下ろした腰を再び上げ、部屋を出て行こうと障子を開けた。



入れ替わりに座った総悟がを呼び止め、立ち止まったに何かを投げて寄越す。

は両手でそれをキャッチした。

小さくて柔らかい


「……大福」


駅前の和菓子屋で有名な抹茶クリーム大福。

の好物の1つ。

昼間の巡回で彼が駅前に居たのはこのせいか。

は大福を見つめ、顔を上げて総悟を見る。


「これで貸し借りナシだぜィ」


総悟はそう言って自分も同じ大福を食べながらを指差した。

は再び手の平の大福を見て顔を上げ、嬉しそうに笑った。

大福を両手に持ったまま、足取り軽く廊下を駆けていく音。

総悟はそれを見て呆れるように笑い、後ろ手で障子を閉めた。

「…なんだかんだ言って、仲良いいなお前ら」

そんな様子を見ていた近藤が笑って総悟を見る。

「バカ言わないで下せェ」

総悟は大福を食べきってため息をつく。



「アイツとは兄妹みたいな、ダチみたいな、ライバルみたいな、

 微妙な関係なんでさァ」



「それ以上にもそれ以下にもならねェ。

 これからもずっとそのままでいいんですよ」



そう言って笑う総悟は嬉しそうだった。

近藤もそれを見て再び柔らかく笑う。

(時期が来てそういう話2人に持ってったら…斬られるかな…)






2人の心配より三十路間近なんだから自分の婚期の心配しろ。








近藤が土方にそう言われるのは数分後の話。









シリーズ始めた時から、3人それぞれとの出会いを書こうと思ってて最初はドS王子です。
次が土方さん、最後に局長って感じで書こうかなと。
ちなみに抹茶クリーム大福は管理人の好物です(笑)