アレ?


なんだコレ

空が真っ赤だ



!しっかりしろ!!!!」



アレ?

真っ赤のは私じゃねーか

アレ?


なんで私こんなことになったんだっけ




!!」





カムバック!走馬灯!-前編-






大江戸警察病院


が事故ったってのァ本当かァァああああ!!!!」


廊下は走らないで!という看護婦の注意を無視し、病室前の長い廊下を猛ダッシュしてきた男・松平片栗虎。

個室のドアをスパーンを開けて大声を出すと、ベッドの周りには隊服姿の隊士たちが並んでいた。

「うっせーよとっつァん!が寝てんだろーが!!」

「いやアンタも煩いよ」

ベッドの前にいた近藤が負けじと怒鳴ると横にいた土方は呆れ顔でツッコんだ。

頭に包帯を巻き、顔にガーゼを貼ったはベッドで静かに眠っている。

ベッド横の椅子には同じように頭に包帯を巻いた山崎が座っていて左腕を三角巾で吊るしていた。

「逃走車追っててパトカースリップさせてな。助手席のザキは軽傷だったんだがは頭打っちまって…」

「それで、大丈夫なのか?」

「傷は大したことないって。逃げてた奴も無事逮捕したよ」

麻酔効いて寝てるだけさ、と近藤はを見下ろした。

「よかった俺助手席乗ってなくて」

「コイツ運転荒いからな…」

寝ている仲間を微塵も心配しようとせず総悟はベッドの縁に腰をかけてため息をつく。

「じゃあ俺らはそろそろ戻るか。大勢でいても病院に迷惑だし。ザキ、を頼むぞ」

「はい。…あっ!」

近藤たちが病室を出ようとベッドを離れると、寝ていたがゆっくりと目を覚ました。

病室を出ようとしていた4人は慌ててベットを覗きこむ。

!」

ちゃん!」

虚ろな黒い瞳が何回か瞬きをして、震えていた瞳孔の焦点が合う。

「……ここ…」

「病院だ!覚えてるか!?逃走車に突っ込んで頭打ったんだ!

 どこか痛いとこないか!?なんか食えるか!?」

「いや、頭打ったんだから頭は痛ぇだろ」

身を乗り出して顔を近づける近藤の横で土方が呆れ顔をする。

「何でィ、目ぇ覚めたんなら仕事しろ。オメーの後片付け全部俺がやったんだぞ」

割って入ってきた総悟がの頭を躊躇なくスパーンと叩いた。

「ちょっとォォォ!!!怪我人!!いくら丈夫だっつっても怪我人!!!!」

「………誰ですか」

慌てる近藤の後ろでがぼそりと呟く。



「…誰なんですか、貴方たち」



5人の視線がベッドに集中した。



「…そして私は誰なんですか」




・・・・・・・





「ぅええぇぇぇぇええ!!!!記憶喪失!?なんかデジャブじゃね!?

 誰かも前にこんなことにならなかった!?」

主治医を呼んで説明を受けたところで近藤が大声を出す。

はベッドで体を起こして座っているが、落ち着かない様子できょろきょろと辺りを見渡していた。

「頭の怪我自体は大したことないので一時的なものだとは思うんですけどね…」

医師は「ちょっとごめんね」と言っての下瞼を伸ばして瞳孔を見る。

「オイオイ何だよそれまさか俺のことも忘れちまったっつーのか!?

 !パパだよおおおおお!!」

「変な記憶植え付けんのやめろ」

鳴きながらの両肩を掴んで揺する松平。

「面倒くせーな、もっかい頭撃てば治るだろ。おいちょっと歯ァくいしばれ」

「やめろっつの!更におかしくなったらどーすんだ!!」

そんな松平を押しのけての胸倉を掴む総悟。

土方は二人を押さえつけて怒鳴りつける。

「まぁとりあえず、慣れ親しんだ場所に連れていってあげて下さい。

 ご自宅でもいいですし、思い出の場所とかどこでもいいので」

ブラックジャック似の医師はこの手の症例に慣れてしまっているのか、

まるで他人事のようにそう言って退けた。

近藤と土方はしかめた顔を見合わせる。

「……自宅っつったって…」





「ここがお前の家だ」

怪我は大したことないから、と早々に退院させられたは屯所に戻ってきた。

いつもサイドテールにしている髪を下ろし、隊服でも普段着の袴でもなく

病院から借りた花柄の着物姿で屯所の門を見上げる。

「…大きいお家ですね…」

「家っつーかまぁ合同宿舎的な…お前は警察官なんだ。思い出せないか?」

門前に立つ警備の隊士を交互に見つめ、門の向こうに見える大きな建物を見ては首を捻る。

「お前のご両親は戦争で亡くなってて、お前が11の時に俺が道場に連れてきたんだ。

 そっから一緒に江戸に上京して今はここがお前の家」

縁側からの部屋に上がって広い和室を見渡す。

年頃の女の子の部屋というには簡素で飾り気のない部屋だ。

床の間の傍にかかっている隊服と普段着の袴

衣装箪笥の上に乗っかっているゴリラのぬいぐるみや、

テーブルの上で食べかけにしてあるお菓子には生活感があったが

はどれを見ても無表情に首を捻るだけだった。


「これは昔俺がお前にやった刀だ。安物だから大事に持ってられると恥ずかしいんだが…

 お前なかなか捨てようとしないからな」


近藤はそう言って床の間に置いてある一本の刀を持ってきた。

鞘は傷だらけで柄は汚れているが、鞘から抜くと鈍色の刃が反射しての顔を映す。

よほどのことがあって2本帯刀する時以外は部屋に保管しているものだが、

大切にして手入れを怠っていないのがよく分かった。


「…あ!ほら、これ!去年の慰安旅行で撮ったやつ!覚えてないか!?」


近藤はそう言って棚の上から写真立てを持ってくる。

去年、松平の提案で伊豆大島に慰安旅行へ行った際撮った写真だ。

は写真立てを受け取り、写真の中心に写っている自分を凝視する。

「慰安旅行のつもりがとんだ心霊屋敷でさ、大変だったよなぁアレ」

「おまけに吹雪で船が出なくて、1週間近く旅館にいたしな」

「あん時お前、女将に刺されたけどまな板胸とフロントホックに助けられたんだろ」

3人も写真を覗きこんで当時のことを思い出しながらを見たが、の表情は曇っていくばかりだ。

「……まないた…」

「お!?何でまな板に反応したんだ!?思い出せそうか!?

 よしここは自分で触って確かめ、」

「セクハラで訴えられたいのかアンタ!!」

の両手をとって自分の胸に誘導させようとした近藤の手を土方が思い切り叩き落とす。

「えぇ〜?」

「えぇ〜じゃねぇ!記憶ねぇからって好き勝手すんのやめろ!!」

「何だ、土方さんも案外こいつに対して過保護なとこあったんですね。

 過保護なのは近藤さんだけで十分だと思ってやしたが」

「過保護とかそういう問題じゃねぇだろ…もっとマシな方法で…」

「…まな板っていやァ…」





恒道館道場


「えっ…記憶喪失…!?」


やってきた近藤をいつも通り撃退した後、妙は当然驚いた様子でを見た。

家に帰ってきていた新八が万事屋の2人を呼んだようで、

今には銀時と神楽が興味なさそうに座ってこちらを見ている。

「なんか…デジャブですね。銀さんの時とそっくりじゃないですか」

「あの時は大変だったアル。銀ちゃんの友達に会わせたり馴染みの場所とか連れてっても全然ダメだったし…」

新八と神楽は顔を見合わせて首を捻った。

はお妙さんと仲良くさせて頂いてたんで、何か思い出せればと思って連れてきたんですが…」

中庭で伸びていた近藤が鼻血を拭きながら居間に上がってくる。

「あっ、前にちゃんと撮ったプリクラがあるわ。持ってくる」

妙はそう言って席を立ちパタパタと廊下を走っていった。

「…確かになんかこう、雰囲気違うな。今にも殴りかかってきそうな気性の荒さと覇気がない」

銀時はテーブルに頬杖をついての顔を覗き込む。

女の子らしい着物を着て大人しく正座している姿はどこにでもいるその辺の町娘だ。

「…あの、私は貴方たちとも親しかったんですか?」

「親しかったっていうか腐れ縁っていうか…でもホラ、さんと銀さんはよく

 一緒に甘味処とか行ってましたよね。さんと姉上は同い年だから遊びに行ったりしてて…

 さん前に真選組を家出して万事屋に来たこともあったじゃないですか」

新八がそう言って説明してみせるが、はやはり首を捻って難しい表情を浮かべるだけだ。

そこへ手帳を持った妙が部屋から戻ってくる。

「ほらこれ、お店のみんなと撮ったプリクラ」

手帳に貼られているプリクラにはと妙、スナックすまいるのりょうや花子も一緒に写っていた。

「前にちゃんうちの店の子の暴力事件解決してくれたでしょ?

 それからもうちゃんうちの店で大人気になっちゃって。

 うちに欲しい!っていう店長を止めるの大変だったんだから」

妙はそう言ってプリクラを指差すがの表情は曇っていくばかり。


「……ごめんなさい…こんなに仲良かったのに、思い出せなくて…」


しょんぼりと肩を落とすを見て妙はその肩を叩きながら苦笑した。

「気にしないで。前に銀さんに忘れられた時は腹が立って胸クソ悪くてしょうがなかったけど、

 きっとちゃんはすぐに思い出せるわ。あまり気を落とさないで」

ね?と顔を覗き込むとはもう一度「ごめんなさい」と言って頭を下げる。

するとそれを見ていた銀時がすっくと立ち上がった。

「まどろっこしいな。こういうのはなぁ、なんやかんやで荒療治が一番利くんだよ。

 オラ、歯ァ食いしばれ」

「ちょっと銀さん、女の子に乱暴なこと…!」

の胸倉を掴んで少し乱暴に引き寄せると、はびくりと肩をすくめた。


「…あ、あの……優しく、して下さい…」


びくびくしながら上目遣いでそんなことを言われ、がっちり掴んでいたはずの胸倉を簡単に離してしまった。

「…別に、このままでもいいんじゃね?」

「何言ってやがる!!いいわけねーだろ気持ち悪い!!」

あからさまにから顔を逸らす銀時を見て土方は大声を出した。

「いや、こいつはこれで十分だよ。考えてみたら今までがちょっと酷過ぎたじゃん?

 これはこれで可愛いじゃん?ちょっと俺新たな扉開けそうだ」

「開かなくていいんだよ!!うちの隊士にやらしい視線向けんなって前にも言っただろうが!!!

 近藤さん!近藤さんもなんか言って……」

「…トシ、俺もなんだか今のでもいいような気がしてきた」

「してきたじゃねーよ!!アンタがそれ言ってどうする!!」

「だって可愛くね!?普段だったら逆に鼻骨折れそうなくらい殴りかかってくる

 「優しくして下さい…」なんて可愛い過ぎね!?」

「だからアンタがそれを言ったら…って何してんだ総悟ォォォ!!!!」

ちょっと目を離した隙に総悟がに詰め寄って、鎖のついた革の首輪を装着させている。

「いや、コイツをメス豚に仕立て上げるには今がチャンスかなと思いまして」

「仕立て上げなくていいんだよこれ以上面倒事増やすな!!」



…そんなこんなで。



「なんか…すみませんでした。お役に立てなくて…」

「いやいや、いいんだ。こっちのことだから俺達で何とかするさ」

結局何の進展もないまま道場を後にする4人に新八が頭を下げる。

近藤は苦笑しながらパトカーのドアを開けた。

「大丈夫ですか…?さんがあんな調子じゃ仕事が…」

「んー…まぁ、隊服着せてパトカー乗せてりゃ思い出すかもしれんし…

 あいつにとって家って屯所しかないからな。思い出して貰わないと困る」

まさか家の無くなってる武州に連れていくわけにもいかんし、と近藤は再び苦笑する。

両親を亡くし、実家の道場も既に取り壊されている今彼女の帰る場所は屯所以外にない。

パトカーの後部座席に座ってぼんやりと外を見つめるを見ながら近藤は頭を掻いた。

「じゃあ、お邪魔しました」

近藤がの隣に乗り込むとパトカーが発進する。

「さて…これからどうしやす?」

運転していた総悟はルームミラーで後部座席を一瞥して口を開いた。

は相変わらずぼんやりと窓の外を眺めている。

同志を乗せているというより、補導した少女を乗せているような気分だ。

「…そうだ、屯所戻って剣術稽古でもしてみるか。

 ほら、頭は忘れてても体が覚えてることって結構あるっていうし」



収穫なく屯所に帰ってきた4人は屯所内の道場にいた。

道場の真ん中には胴着に着替えたと総悟が向かい合って正座している。

「…大丈夫かよ近藤さん。あいつ元気な時でも総悟から一本とったことなんかねーのに」

「大丈夫大丈夫。ガキの頃から木刀振り回してたんだ、体が覚えたことはちょっとやそっとじゃ忘れないさ」

他の隊士たちは見回りで出払っているため、今屯所にはこの4人しかいない。

「言っとくが手加減しねぇからな。怪我したくなきゃ避けろよ」

「はい、頑張ります」

互いに木刀を持って立ち上がり、胸の前で構えをとる。

3人の見る限り木刀の持ち方に違和感はなく、いつも見ている彼女の構え方だ。

最悪記憶が戻らなくても剣術を覚えていれば仕事は出来るな…と3人は思っていたのだが。


甘かった。


総悟が踏み込むのとほぼ同時に前に出たを見て少し安堵したのも束の間、

が力任せに降り下ろした木刀を総悟が軽々と避ける。

そして





ボコン!!






鈍い音。

近藤と土方はあんぐりと口を開ける。

真上から降り下ろされた総悟の木刀がの脳天を直撃し、

木刀を離してしまったは前のめりになってそのままぶっ倒れた。

!!」

「あーあ、だから避けろって言ったのに」

「マジでブン殴る奴があるか!!どーすんだよこれ以上悪くなったら!!」

「おい!!しっかりしろ!!っ!!」




To be continued