夏のビキニも男のロマン
-後編-








「……何してんだお前ら」


明らかに不審な水着集団を見て怪訝そうに目を細める万事屋の2人。

2人はどこにでもありそうな海パンにシャツを羽織って他の客に馴染んでいるが、

目の前の水着集団は明らかに周囲の雰囲気から逸脱している。


((…よりによって今一番会いたくない奴らに…!))


土方とは同じことを思いながら渋い顔をした。


「お前らこそ何をしてるんだ。こんなところで商売なんかして、

 ちゃんと許可とってるんだろうな?」

「いやお前こそ許可とってそんな格好してんのか?」

股間に真一文字の黒ビキニで堂々と前に出てきた近藤を見て銀時は眉をひそめる。

「これは今日一日俺たちの隊服だ。愚弄することは許さん」

「お前自分の大事なもの見てみろ。何も真じゃねーだろ。偽りだらけだろ」

この男だけならまだしも隊士の9割が同じビキニを履いているから気色が悪い。

銀時は呆れ顔で近藤を見ると、その後ろにこそこそと隠れようとしている女隊士が目に入った。

「それを言ったらこっちも相当偽りだらけですけどね」

「、ちょっ!」

折角隠れようとしたのに総悟に背中を押されて近藤より前に出てしまった。

これまで見たことのない二の腕と筋肉質な腹筋。

だが胸から尻にかけてのラインがほぼ真っ平らだ。

男隊士に比べるとデザイン重視された水着姿のを見て、銀時と新八は目を丸くしている。


「……相当残念な感じになってんな。

 女の水着姿見てこんなにいたたまれない気持ちになったの初めてだよ俺」

「ちょっと…失礼ですよ銀さん」

「こんなまな板なろうと思ってもなかなかなれませんぜ」


ドSコンビは腕を組んでの頭から爪先までを流すように眺めた。


「だってこの上で紙相撲しても一生勝負つかなそうだものこれ。

 そうめん流したら何の滞りもなく流れて行きそうだも…」



ゴシャッ!!!




直立したまま右足を曲げたは、頭1つ身長差のある銀時の頭上まで足を振り上げて

素足の踵を銀髪に勢いよく振り落とした。

銀時は身体を逆Vの字に曲げて頭を砂浜に突っ込む。

は踵で銀時の首を押さえ込んだまま体重をかけた。

さんさすがにヤバイです!さすがに銀さん死んじゃいます!!

 あああ謝りますから!!ホラ銀さん土下座して謝って!!!」

「……もう土下座してるんだけどこれ…」

地面に頭を突っ込んで両膝を着いているのでほとんど土下座の体勢だ。

「もういい、上着着る!!」

足を銀時から退けて隊服の上着を羽織り、山崎が持っていたビーチボールを取り上げる。

「あたしたちだって仕事で来てるんです。邪魔すんならしょっぴきますよ」

「その浮かれた格好の何が仕事だってんだコラ。

 こっちだって海の家を1日手伝ってくれっつー依頼なんだ。

 そんなふざけた格好で客ビビらせんなら帰ってくれ」

水着にビーチボールを抱えて明らかにバカンスルックのを見下ろし、銀時は顔に張り付いた砂を掃いながら怪訝そうに言った。

…この場合は万事屋の方が正しい仕事をしている。

100%自分たちの方がふざけた理由で来ている。

すると


「とっつぁん、あれ」


ふと海辺に目を向けた総悟が何かに気づいて人ごみの中を指差した。

浜辺に溢れる人ごみの中、手を繋いで歩いてくる1組のカップル。

「栗子!!」

栗色のおかっぱ頭の少女にはたちも見覚えがある。

ピンクのワンピース水着を着た栗子は、金髪で色黒のチャラチャラした男と楽しそうに歩いてきた。

男の方が大きな浮き輪を抱えているのでこれから泳ぎに行くところなのだろう。

「栗子…っあいつまたあんなチャラついた男と……!」

ただでさえ目立つ松平は松林の影に隠れて娘のプライベートを覗き見している。

「…栗子ちゃんって男の趣味がちょっとアレですからねぇ、土方さん」

「なんでそこで俺を見るんだよ」

は腕を組んで冷めた目で横の土方を見た。

栗子とは小さい頃からの仲なので、2人で色恋話をすることもしょっちゅうだ。

前回のホルスタイン野郎しかり、マヨラ13しかり、彼女の男の趣味は決していいとは言えない。

そうは言っても栗子の恋愛話を一方的に聞いているだけなのだが、

最近の恋愛事情も彼女の父親よりは把握しているつもりだ。

「テメーら配置につけ!!標的が少しでも動こうものならたたっ斬れ!!俺が許す!」

「帯刀してねーのにどうやってたたっ斬るんだよ…」

いつもより軽くてスカスカした腰を見ては溜息をつく。

鞘を収めるベルトがないので帯刀が出来ない。

黒い水着集団は面倒くさそうに愚痴を零しながら、ビーチボールやビニールのイルカを持ってぞろぞろと浜辺に散っていった。

「おーいこの辺盗撮とか多いらしいから気をつけろよー

 つーか捕まえろよーっつーかお前らの方が捕まりそうだぞー」

「大丈夫でさァ。ありゃー下についてるかついてないかってだけでほとんど野郎の体と変わりゃしねぇ」

銀時は水着集団の紅一点に向かってやる気のない警告をする。

総悟は焼きとうもろこしを銜えながらその横を通り過ぎた。


「………確かに」


「…っておい金払え金!!」


さすがに上着を脱いで裸足になりスラックスの裾を捲くった総悟は

とうもろこしの金を払わずに水着集団の後をついて行った。

「…結局なんの仕事で来たんでしょうかねあの人たち」






ぅおぉぉらァァァァァ!!!!


頭上高く上がったビーチバレーをジャンプアタックで叩き落とす

超高速回転のかかったビニール製のボールは、ラインを隔てて向こうのコートにいる山崎の顔面に減り込んだ。

山崎は鼻血を噴いて後ろにブッ倒れる。

華麗に着地したは同じチームの近藤や原田とハイタッチしてポジションに戻った。


「…ビーチバレーっつーかドッヂボールじゃねーか」


コートの脇に座る土方は煙草を銜えて呆れ顔をしている。

既にコートの外には死球に当たって伸びている隊士が数名いる。

「しかし敵さんなかなか動きやせんね」

その横に座って焼きとうもろこしを食べている総悟は、黒水着集団の奥にいる1組のカップルに目を向けた。

レジャーシートに2人仲良く座っている栗子とその彼氏は、

なにやら楽しそうに談話しているものの動く気配はない。

「動かねー方がいいだろ。このまま何もなけりゃ早々に帰れんだし」

「いやいや、とっつぁんの言う通りビーチは男を獣に変えるって言いますぜ。

 相手が野郎みてぇなまな板女ならまだしも、年頃の男女が一緒にいて動かねーはずがねぇ」



動くな土方ぁぁアアアアア!!!!



あぐらを掻いた土方の足の間に鉛球のようなビーチボールが物凄い勢いで落ちてきた。

「何してんだお前ぇぇぇぇ!!!!」

「邪魔です土方さん。夏を楽しむ気がないなら帰って下さい」

「テメー周り見てみろ!楽しんでる連中をおちょくってるだけじゃねーか!!」

股間に真一文字のビキニ集団が泣く子も黙る真選組だなんて聞いて呆れる。

「よし俺も混ぜろィ。土方さん、俺のサーブしっかり受け止めてくだせぇ。

 俺ノーコンなんでどの方向に飛ぶか分かりやせんが。

 大丈夫、土方さんならやれるって俺信じてます」

立ち上がってコートに立ち、鎖のつながったボーリング大の鉄球を砲丸投げのように振り回し始める総悟。

「どこの国のスポーツ!?……っあ」

思わず腰を浮かせた土方は人ごみの向こうに見える栗子たちを見て指をさした。

先ほどまで向き合って談笑していた2人だが、

今度はこちらに背を向けて2人揃って海を眺めている。

栗子の左隣に座る彼氏がおそるおそる栗子の肩に手を回そうとしている。


栗子ォォ!!!!


林の影から思わず松平が飛び出したが、次の瞬間コート内でぐるぐる回っていた総悟の手から鉄球付きの鎖がすっぽ抜けた。

その重さゆえにかなりのスピードでふっ飛んでいった鉄球は見事に人ごみの合間を縫って、

栗子と彼氏の顔の丁度真ん中をすり抜けた。

鎖の先端が彼氏の耳をチッ、と擦る音が聞こえる。

鉄球はそのままの速度で降下していき、人のいない海にドボンと落ちた。


「……今なにか…飛んできたでございまする」


不思議に思った栗子は当然後ろを振り返る。

黒い水着集団はいっせいにバッ、と砂浜に伏せた。

「ちょっと何やってんのアンタ…!」

「言っただろィ俺ノーコンだって」


(…なんで警察がこんなこと…っ)


下にした方の頬に砂が張り付いてじりじりと熱い。

折角海に来たというのに友人のデートを見張って邪魔する仕事とかどんだけだ。

栗子に申し訳なく思いつつも、あのヤクザ長官には逆らえない立場の弱さを恨んだ。






「神楽ちゃーん大丈夫?」

今回の仕事先である海の家に戻ってきた万事屋の2人は、

店の奥の座敷で伸びている神楽に向かって声をかけた。

顔に冷えたタオルを乗せ、扇風機を2台当てて涼んでいる神楽は力なく右手を振ってみせる。

「…大分落ち着いたアル…」

「気温どんどん上がってるからねぇ…仕事は僕らに任せて休んでればいいよ」

店の温度計は35度ジャスト。太陽は全く雲に隠れることなくさんさんと光を降り注いでいる。

「銀ちゃんは?」

「もう少し粘ってとうもろこし売ってくるって」


「すいませーん、かき氷いちごミルク2つ下さいでございまするー」


「あ、はーい」

客に声をかけられた新八は返事をしながら店に出て行く。

慣れない手つきでかき氷を2つ作り、カップルに手渡したところで


「いちごミルク5つ」


サングラスをかけた黒ビキニの女がぬっと前に出てきて、五千円札を叩きつけるようにテーブルに置いた。

新八は一瞬何事かと思ったが、つい数分前に見た特徴的なデザインの水着と

驚くほどきれいなまな板体系を見て「あぁ…」と頷く。

「一休みですか?さん」

「まーね。売り上げに貢献してあげようと思って」

は前にかき氷を買っていったカップルをチラ見しながらサングラスを額まで上げた。

「オイ、マヨネーズつけるよう言ってくれ」

「あたしの金で変なモン食うのやめてもらえますか」

既に店先の席に座っている土方が煙草を銜えながら言った。

土方と総悟はベスト姿でワイシャツの袖とスラックスの裾を捲くって暑さを凌いでいたが、

同じテーブルに座る際どい水着姿の近藤が嫌でも目に入る。

加えて立派な制服の袖だけ切り取ったヤクザ長官も一緒なのでそのテーブルだけかなり異様な雰囲気を纏っていた。

「…なかなか海に入りませんね」

はかき氷をテーブル運んでくると再びサングラスをかけ、離れた席に座っている栗子たちカップルを見た。

「海に入る前になんとかしろ。海なんてなぁ、入っちまえば体中のありとあらゆる場所が緩んぢまうんだよ。

 ガキが海ん中で漏らすのだって同じ原理だろ?男だって同じだろ。あちこちゆるゆるだよお前」

「んなこと言ったって…」

今にもそのテーブルに飛び掛りそうな形相の松平は豪快にかき氷をかっ込む。


「……あの男」


スプーンを銜えたまま総悟が口を開いた。

「海に来てるってのに随分大荷物ですね」

口から離したスプーンで栗子たちのいるテーブルの足を指した。

白いプラスチック製の安っぽいテーブルの下、身軽で動くビーチには不釣合いな大きめなバッグが置かれている。

貴重品以外の荷物はロッカーに預けておくのが普通なのに。

「そういやそうだな…」

「浜辺に座ってた時も置いてましたね」

もサングラスを上げて目を細めながらバッグを見た。

すると



「ねぇ聞いたー?この浜辺って盗撮多いんだってー」



5人の隣の席に座っている若い女性の会話が聞こえてくる。

そういえば先ほど銀時もそんなことを言っていたのを思い出した。

「えぇ〜?マジでー?」

「なんかぁ、バッグとかにカメラ仕込んで撮るらしいよ。ありえなくない?」

「なにソレ超キモいんだけどー!」



・・・・・・・



「オイあのバッグかっぱらって来い。今すぐだ。オメーらがやらねーなら俺が殺る」

松平はすっくと立ち上がり、胸元のベストから拳銃を取り出した。

「ちょっ…とっつぁん!まだそうと決まったわけじゃねーだろう!!」

「そうと決まってからじゃ遅ぇだろーがゴリラァ!!

 こうしてる間に栗子の水着姿が盗撮されてたらどうするつもりだ!!!

 いいかな!?もうこっから狙い撃ちしちまっていいかなぁ!?」

他の客に見られては騒ぎになると近藤が慌てて松平の手を押さえつける。

「ちょっと落ち着…」

も宥めようと腰を浮かせると




「キャアアァァァァァ!!!!」




「「っ」」

離れた場所で女性の悲鳴。

5人はいっせいに声のした方を見た。

「子供が…っ子供が沖に流されて…!」

海辺には人が集まっていて、その中心にいる30代ほどの女性が泣きながら海の方を指差している。

サングラスを外して目を凝らすと、水泳禁止区域の浮きが浮いている岩場の傍に小さな人影が見えた。

遊ぶのに夢中で流されていることに気づかなかったのだろう。

浅瀬に比べて波の高い沖合いで、これ以上流されまいと必死に岩場に掴まっている。

はそれを見て立ち上がり、サングラスを捨てて海辺に駆け出す。

「オイ!」

そのまま栗子のいるテーブルに走っていくと、彼氏が持ってきていた大きな浮き輪を取り上げた。

「借りるよ!!」

黒い水着少女が風のように横を過ぎ去ると、

その横顔に見覚えのある栗子は首をかしげる。


「……あれは…ちゃん……?」


は浮き輪を脇に抱えて海に飛び込み、海に浮いている浮きの向こうを目指して泳ぎだした。

それと入れ替わりに銀時が店へ戻ってくる。

「おい何の騒ぎだこりゃ」

「あ、銀さん!なんか子供が沖に流されたみたいで…

 今さんが助けに行ったんですけど…」

新八はそう言って心配そうに海を見た。

浜にはたくさんの人が集まっていて監視員もいるようだが、助けに行ったのが警察だと知ると静かに見守っているようだった。





は浮き輪を抱え、水泳禁止区域の岩場まで来ていた。

当然足のつかない深い海は爪先が冷たくなるほど海水の温度が低い。

加えて岩場の近くは波が高く流れも不安定でなかなか前へ進むことができない。

浮きの向こうを越えて岩場の陰を覗き込むと、辛うじて岩に掴まっている5〜6歳の少女が目に入った。

「大丈夫!?」

なるべく波を立てないように泳いで近づくと少女は震えながら頷く。

「もう大丈夫だからね」

はそう言って少女に浮き輪をかぶせてやった。

しっかり掴まってて、と言って浮き輪の紐を一緒に引っ張り、岩場を伝って浜へ戻ろうと泳ぎ始める。


(………あれ?)



(………意外と進まない)



少女の体重と浮き輪の抵抗。

1人で泳ぐのとは違ってなかなか前へ進まない。

だが休んではいられないと必死に手足を動かしていると


ぐい。


「………ん?」

首元を引っ張られるような感覚と何かが緩んだ感覚。

ふと視線を落とすと、首の後ろで結んでいたはずの黄色い紐が海辺をゆらゆらと漂っている。


(
うそぉ!!!)


後ろの少女が引っ張ったのだろう。

水着は一応背中でもホックで留まっているのだが、このまま海を上がったらえらいことになる。

いくらまな板だなんだと罵られる体だってえらいことになる。



一方、岩場に先回りしていた近藤たちは急に動きの止まったを見て心配していた。

「おいの奴急に泳ぎが止まったぞ。大丈夫かあれ?

 俺行った方がいいかな!?いっちょ俺が飛び込んで助けに行った方がいいかなトシ!!」

「いや…アンタが行くとセクハラになりそうだからやめた方がいいと思う」

今は何もしないで立っているだけで十分セクハラ紛いだというのに。


「ぅわっ!」


岩場に打ち付ける波が思いのほか高く、体は横に慣らされそうになる。

水着の紐も押さえなければならないし、浮き輪も掴まえていなければならない。

「く…っそ…あたし特別泳ぎが得意ってわけでもないんだよな…」

武州の田舎で育ったため海で泳いだ経験は少ない。

ここまで来ておいて今更な話だ。

後先考えずに泳いできてしまったので、今はとにかく浜辺を目指して泳ぐしかない。

「あたしの首に掴まっててくれる?」

「うん…」

少女の両手を自分の首に掴まらせて浮き輪の紐を離し、左手で水着を押さえながら右手で海辺を掻いて少しずつ進んでいく。

!大丈夫か!」

「あたしは平気です。先に子供を!」

解けた紐を押さえながら片手で浮き輪を固定して岩場の上に声をかける。

近藤は岩場を降りて浮き輪ごと少女を抱えあげた。

、お前も上がって来い!」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

両手が自由になったは後ろを向くと慌てて紐を結び直す。


「なにやってんだお前」


岩場の低いところにしゃがんでいた銀時がに向かって手を伸ばした。

「監視員いるんだからわざわざ出ていく必要もねーだろーが」

「…警察がいたのに水着姿で遊んでましたってんじゃ、どこで叩かれるか分かりませんからね」

首の後ろでしっかりと紐を結び直し、銀時の手を掴んで岩場へ上がる。

口ではそんなこと言っていても、こういうことがあるとじっとしていられない性質であることを銀時は知っていた。

「しかし近くで見れば見るほど見事なまな板だな」

「うるさいなァ、いいんですよ武士に胸はいりません」

浮き輪を引き上げながら濡れたポニーテールを絞っていると


ちゃん!」


その浮き輪の持ち主である栗子が彼氏を連れて駆け寄ってきた。

「く、栗子ちゃん…」

「びっくりしたでございまする。真選組の皆さんも来ていたのでございまするね」

まさかデートを邪魔しに来たとは言えず、は乾き笑いを浮かべる。

このままバレずに終わりたかったのに


「オイテメーそのバッグの中身見せろ。

 キャメラ入ってんだろ?オジさん知ってんだぞキャメラで盗撮してんだろ?」


松平と総悟が彼氏に詰め寄り、無理やりバッグを奪ってファスナーを開いている。

「ちょっ…何するんですか!!」

バッグを逆さまにして振ると中から出てきたのはカメラではなく、

折りたたまれたビニールのシャチやすいか柄のビーチボール。

カメラなどどこにも入っていない。






「「「…………………
あれ?」」」







「いや…あの、ごめんね…この辺盗撮多いって聞いたから…

 パトロールを兼ねて来てたんだ」

は更衣室で栗子と並んで着替えをしながら謝罪した。

盗撮のことなどここに来てから知ったのだが、海へ来た本当の理由を話せば松平が娘に嫌われることは必須だ。

「いいえ、お仕事ご苦労様でございまする。

 海に飛び込んだちゃんとっても格好よかったでございまする!」

「一応警察だからね」

首の紐を解いて水着を脱ごうとすると

「…ちゃん背中…」

「え?」

栗子がの背中を指差して首をかしげる。

も首をかしげ、ロッカーのドアについている鏡に自分の背中を映した。





「……っ総悟ォォォォォ!!!!!」





背中の白い「まな板」の文字が薄くなる頃

盗撮犯の男が無事逮捕されたと報道された。




栗子の父親がサングラスのヤクザ長官だと知った彼氏が逃げ出したという話を聞くのは

それから更に先の話だ。





U/V/E/Rworldの「シャカビーチ」とかあゆの「Jury1st」とか海うたを聴きながらノリで書きました。
以前珊瑚様から「海水浴に行く話」とネタを頂戴していたので、
そのときから書きたかった近藤さんの真一文字ビキニを海水浴ネタで!
ヒロインの水着は友人とデザイン話で盛り上がって既に具現化してもらいました!ひゃっほい!
うちのヒロインは筋肉質です。そして見事なまな板です。
今回ばっかりは万事屋の方が正しかった回。