取材を受けるといいこと言った場面に限ってカットされる









「え、取材?」

よく晴れた昼下がり

局長室で近藤と向かい合わせに座るは目を丸くした。

「ああ。何でもとっつァんの馴染みの新聞記者が、

 の取材をしたいって言ってきたんだと」

あぐらをかいて座布団の上に座る近藤はそう説明して、一冊の雑誌を畳の上に置く。

は首をかしげてその雑誌を手にとった。

ページをパラパラとめくっていくと、コラムのような蘭に記者の写真が載っている。

30代半ばあたりの男で、"敏腕記者・情報を迅速に正確に、且つ面白く"と見出しがある。

「なんだってまた」

は顔を上げて再び近藤を見た。

「いやー俺も直接会って承諾したわけじゃないから分からないんだが…

 何でも他社の新聞での記事を見てから是非1度取材してみたいって思ってたらしくてな?」



『武装警察という世界で働く紅一点!血潮漲る男達の中で咲く一輪の花って感じじゃないですか!

 しかも剣の腕も相当たつときた。これは是非一度お会いしてみたいと思いましてね!?』



「とかなんとか言ってたらしい」

松平から聞いた記者の話を思い出しながら近藤は笑う。

「アッハハ!やっぱ叩くことしかしない三流記者とは違うなぁ!!」

も雑誌を閉じてまんざらでもなさそうに笑った。

「……ボソボソ聞いたかオイ。一輪の花だとよ!プッ」

「ブタクサの間違いだろ!!」

障子の向こうで聞き耳を立てていた隊士たちも近藤の説明を聞いて小声で笑っている。

山崎や原田は腹を押さえ、悶えるように畳を何回も叩きながら転げまわっていた。

「でも…こんな取材受けていいんですか?」

は雑誌を置き、近藤の表情を窺う。

今までにも何度かチンピラ警察24時とかで彼らの仕事に密着!みたいな取材を受けたことはあったが、

1人の隊士に限定して取材を受けるなんてことはなかったからだ。

「いやぁ、ホラ俺たちこんなんだからイメージアップとかあまり図れんだろ?

 相手はお前を相当買っているみたいだし…いい機会なんじゃないかと思ってな」

「ボソボソ…返ってイメージダウンになるんじゃね?」

「やめた方がいいって局長」

障子の隙間から部屋を覗き、中の様子を見ていた隊士たちだったが、

突然その視界が真っ黒になった。

「「「------------ん?」」」

真っ黒なのは障子の前にが立ちはだかっているからだと気づいた瞬間



ドォン!!!!



がぶっ放したバズーカは障子を直撃して隊士たちを巻き込み、

物凄い音と煙を立てて大破した。

「近藤さん!あたしやります!」

「おぉそうか!やってくれるか!!」

バズーカをぽいっと投げ捨て、目を爛々と輝かせて近藤を見る

近藤も嬉しそうに笑う。

黒コゲになって障子の下敷きになっている隊士を完全に無視して。








「…ほんとに大丈夫か近藤さん」

その日の夜、取材を承諾したことを告げられた土方は眉間にシワを寄せて近藤を見る。

「ん?」

「アイツ結ッ構沸点低いぞ?ロクでもねー質問にキレて暴れまわったらどうすんだよ」

が短気なのは自分を見て育ったからだということを棚に置き、土方は怪訝な顔をした。

「大丈夫さ。アイツももうガキじゃねーんだ。その場に見合った対応ぐらい出来るだろ。

 それに向こうは真選組としてのを取材したいっていうんだから気張ることはない。

 自然体でいけばいいんだ」

対する近藤は至って温厚。

…その自然体に問題があるのだが。

土方は煙草の煙と一緒に溜息をつき、しぶしぶ納得するように頷いた。

「…まぁ、近藤さんが決めたんなら何も言わねーけどよ」

近藤は「大丈夫だ」と笑うが、土方は不安だった。

は今でこそある程度社交的に振舞ってはいるが、基本的に近藤と土方以外の言うことは聞かないし、

赤の他人が自分の領域に入ってくることを極端に嫌う。

何も知らない記者がその怒りの地雷を踏んで面倒事になったら、と柄にもなく心配していた。




-------その心配は悲しくも的中してしまうのだが。





翌日


「お待ちしておりました!さぁさ、どうぞどうぞ」

よく晴れた午後、屯所の玄関に1人の客人。

小奇麗なスーツが良く似合う男が1人、肩にカメラをぶら提げて玄関に上がった。

「この度は取材を了承頂きありがとうございます。

 皆さんお忙しいでしょうにすいませんね」

男性記者はそう言って笑い、近藤の後に続いて廊下を歩いていく。

見回りを済ませて戻って来た隊士たちは、後ろからそれを見つめていた。

「…あれが記者か?思ったより若いな」

「大丈夫かなぁちゃん。

 イメージアップにはまずならないと思うんだけど」

「いやでもアイツ猫かぶんのはうめーから。うまくやるかも」

好き勝手言う隊士たちを他所に、近藤と記者は客間へ入っていく。

「初めまして。真選組一番隊のです。

 今日はよろしくお願いします」

客間の掃除をしていたは記者の前に立ち、にこりと柔らかい笑みを浮かべて頭を下げた。

「あなたがさんですか…!いやぁ、テレビや写真で見るよりずっと可愛らしいですね!
 
 こちらこそ、よろしくお願いします」

男は大仰な言い振りで肩のカメラを下ろし、に名刺を差し出す。

は営業スマイルを浮かべたまま名刺を受け取り、テーブルを挟んで並べてある座布団に腰を下ろした。

近藤もその横に座り、記者はその向かいに座ってノートとペンをテーブルに置く。

「じゃあ早速取材に入らせてもらってもいいですか?」

「はいどうぞ」

はお茶を入れる準備をしながら頷いた。

さんは今おいくつ…でしたっけ?」

「18です」

「若いですねー!でも年頃なのにこうして男性陣の中で暮らすってちょっと大変じゃないですか?」

記者は興味深々な様子でペンを持ち、サラサラとメモ書きをしていく。

は3人分の茶を湯のみに淹れ始めた。

山崎たち隊士は忍び足で部屋の前に近づき、襖の奥に耳を澄ませて会話を盗み聞きしている。

「いや確かに色々不便はありますけどね。

 もう慣れちゃったっていうか、物心ついたときから皆一緒なんで今更何とも思いませんよ」

どうぞ、と記者に湯のみを差出し、落ち着いた様子で質問に答える。

「手元の資料によると、隊士の大半とは真選組として成り立つ以前からの付き合いなんですよね」

「ええ、両親を亡くして身寄りがなくなったところを拾ってもらったんです。

 もともと家が道場だったんで、そのまま局長の道場で世話になる形に」

両親の死は戦が原因だったことや、拾われた時の詳しい様子などは話さずに

あくまで簡潔的に説明する

「これまで数々の事件を取り扱って、攘夷志士を多数逮捕しているそうですけど…

 やっぱり毎日トレーニングや修行は欠かさないんですか?」

間をあけることなく質問攻めしてくる記者。

近藤は少しハラハラしながら横目でを見ていたが、

はそれを予想していたのか落ち着いた様子で返答を考えている。

「そうですねーやっぱ野郎には負けたくないんで、時間がある時はなるべく竹刀を握って

 稽古場に入るようにしてます。あ、最近腹筋にも力入れてるんですよ」

自分で淹れた茶をすすりながら右手で腹筋を押さえた。

「さすがですねー!じゃあ質問を変えるんですけど」

記者はそう言ってノートのページをめくり、嬉しそうに笑う。



「初めて人を斬ったのはいくつの時でした?」



その質問に初めての目付きが変わった。

横に居た近藤や、部屋の外で聞いていた隊士たちにも緊張が走る。

「今まだ18なんですよね?それじゃあ結構早い段階で真剣で人を殺めるってことをしてたんじゃないですか?」

記者は平然と質問を続ける。

「ちょっと…」

耐えかねた近藤が腰を浮かせたが、


ガッ


横のの手が、近藤の膝を押さえた。

近藤は眉間にシワを寄せて横目でを見る。

は冷静な態度で真っ直ぐ記者の方を見ていた。

「……それって、聞く必要ないんじゃないですか?

 記事にしても面白くないし、読む人も嫌でしょう」

はあくまで冷静を保って答える。

だがその言葉には少なからず怒りが籠っているのを近藤は感じていた。

「いやいや、幼少時代から剣を振るってきた貴女だからこそ真実を聞いて記事にしたいんですよ!

 ここには貴女と同い年で隊一の剣豪と言われてる沖田さんがいますよね?

 でも沖田さんが男性だし、何れは武士の道を歩くってことも考えてたと思うんですよ。

 貴女の場合は違うじゃないですか!局長に拾われて、そこで真剣を手にとって人を斬るっていう覚悟が

 その時既にあったってことでしょ!!」

記者は興奮した様子で半分腰を浮かせながら熱弁する。

それだけにの不快感は募っていた。

「…この時代じゃ珍しいことじゃありませんよ。

 攘夷戦争敗北後、開国して天人が巣食うようになったこの国じゃ

 自分の身は自分で守っていかなきゃならないし」

の表情からは完全に愛想笑いが消えている。

「凄いですよねぇ女性でありながらその逞しい感性が!!

 どうですか、初めて人を斬ったときってやっぱり女性だから怖かったりしたんですか?

 なんか逆に相手を油断させられそうで特権って感じしません?

 でもやっぱり慣れてきちゃうものなんですかねぇお侍さんって」

「…慣れとか、そういう問題じゃないでしょう」

眉間にシワを寄せ、完全に不快感を顔に表す

その空気が横の近藤には痛いほど通じてくる。

「じゃあやっぱりお国を守るっていう使命感から仕方のないことだって割り切ってしまってるんですか?

 いや、鬼の副長と恐れられる土方さんを始め男性陣はまだアレじゃないですか。

 ただ女性の貴女がその華奢な体で果敢に刀を振るうっていう姿勢に大変興味を持ちましてね!?」

---------その瞬間にと近藤は理解した。



ああ、とんだ馬鹿を招いてしまった、と。




「今度ぜひ実際に刀を振るっている現場に同行させてくださいよ!

 女隊士の戦場ってのを…」



ゴッ!!



の機嫌が、持っていた湯のみをテーブルに叩きつける音で表現された。

記者の声が止まり、横にいた近藤もを見る。

「----------近藤さん、仕事行きましょ」

テーブルに零した茶など気にせず、は席を立ってテーブルを離れた。

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよまだ取材の途中…」

記者が慌てて腰を浮かし、テーブルに両手を着く。

は冷めた目でそれを見下ろし、記者を睨んだ。

「…これ以上なにが聞きたいんですか?

 初めて人を斬ったときの感想とか?感触とか?そんなのあなたに話して解るんですか?」

年相応の可愛らしい顔に似合わぬ冷徹な目。

記者はそれに怯んで言葉を出すこととが出来ない。

「あたしを色物扱いすんのは全然いいッスよー

 今まで散々そういう見方をされてきたし、それに見合った実力もつけてるつもりだから

 名前負けする気もないし。むしろ扱い以上に暴れてやろうって思ってるし?」



「ただねぇ…此処では戦がどうとか人を斬る覚悟とか、易々と口にしない方がいい」



完全に敬語が消えた、本来の素の喋り方。

記者がぽかんと口を開けてを見上げている。

「アンタは目の前で仲間が殺されるのを見たことはあるか?」

今度は突然の方が記者に質問を投げつけた。

「その仲間を殺した相手に復讐をしようと思ったことは?

 死んだ仲間や殺した相手が夢に出てきて暫くトラウマになったことは?

 洗っても洗っても体から血の臭いがとれないような錯覚になったことは?」

「------

表情を変えず、低いトーンで言葉の羅列を並べるを近藤が止める。

弱冠18歳の少女が吐くものではない内容に記者は圧倒されていた。

「1つでも経験あんなら、頭下げて謝ってやるよ。

 あたしは使命感とかそんなくだらない理由で刀なんか握ってない。

 局長と、真選組を守る為にはなんだって斬るんだ」


「それだけなんだよ」


冷たい目付きで記者を睨み、はそのまま障子を開けて部屋を出て行った。

近藤は「やっぱりやったか」という顔で頭を掻き、浅く溜息をついて

未だあんぐりと口をあけている記者の方を向く。

「いやいや、すいませんねぇ。ウチの隊士たちは皆血の気が多い奴らばっかりでして。

 女隊士といえど例外ではないんですよ」

ハハ、と苦笑しながら茶を啜る。

「ご期待に沿えずに申し訳ありませんが、ウチは貴方が思っているような格好よくて綺麗な場所じゃありません。

 泥臭くて血生臭い、そんな荒々しい場所で生きる連中なんです」


「どうか、お引取り下さい」


そう言って深々と頭を下げ、近藤も立ち上がって部屋を出ていってしまった。

1人取り残された記者は開け放された障子を見て呟く。


「----------…格好いい…」





「あぁ--------ッもうっ!!」

部屋を出たは、足音に怒りを込めて廊下を歩いていた。

(とっつァんの馴染みってロクなのいねーじゃん!!!)

此処にいない上司を思い浮かべて怒りをぶつけながら、

ズンスンと長い廊下を歩いていると


ゴン!!


「ッた!!」

後頭部に強烈な空手チョップ。

「ったいなァ!何…」

頭を押さえて振り返ると

「…総悟」

後ろに立っていたのはガムを噛んでいる総悟。

「お前完全にマスコミ敵に回したな」

総悟はそう言いながらの横に並ぶ。

は頭を押さえたまま唇を尖らせて再び歩き始めた。

「…別にいいもん。元々そういう目でしか見られてなかったんだし、

 今更何を記事にされようが知ったこっちゃないよ」

髪を手ぐしで直すを横目で見ながら、総悟は呆れるように笑う。

すると今度は



げしッ!!



「って!!」

背中にハイッキック。

「ってーな今度は誰…」

さすがに2度目の攻撃に怒って勢いよく振り返ると

「…知ったこっちゃないよ、じゃねーよコラ」

背後に立っていた男を見ての血の気がサーッと引いていく。

こめかみに血管を浮き立たせた男はもくもくと煙を立ち上せてを睨んでいた。

「……土方…さん」

「なーにがイメージアップだ。また余計にマスコミ喜ばすだけじゃねーか。

 だから言ったんだよお前は沸点低いって」

銜えていた煙草を指で持ち、目を細めながら溜息をつく土方。

「…すいません。だって、ムカついたから」

「ガキだな相変らず」

「コイツが短気なのは土方さんに似たからでしょ」

同じ状況にあったら自分もキレてたくせに、と言う総悟を横目で睨み、

土方は再びスパーッと白い煙を吐いた。

「さー明日の新聞が楽しみだ」

「何書かれてんだろうな」

他人事のように言う2人を見ては唇を尖らせながら頭と背中を押さえて、肩を落とす。






翌日


"噂の真選組女隊士・外見とは裏腹なその男気に迫る"


翌日の芸能欄に書かれた記事の見出しは、予想とは全く違っていた。

叩かれるどころか、むしろ男らしいと評価されている。


「………これもアリなんじゃないか?」

「…アリか?」





揃って1枚の新聞を眺める近藤と土方が、ぽつりと呟いた。








男らしいヒロインを書きたくて書きました。
ヒロインが短気なのは土方さん似。
お人好しなのは近藤さん似。
真選組は割と取材とかオープンだと思う。