春です。



桜が満開です。




「…ふぇ…ッくしゅん!!!!」





----------花粉の、季節です。







爛漫注意報








「だーかーらぁー!日を改めましょうよ!!

 明日じゃなくてもいいじゃないですか!!」

副長室での怒鳴り声が響く。

「お前1人の為に行事の日付がずらせるわけねーだろ。

 ここ2〜3日が満開なんだ、今のうちに行っとかねーといつ行けなくなるかわかんねーからな」

テーブルを挟んで向かいに座る土方は、そう言って呆れた顔でを睨んだ。

はぶーっと頬を膨らませてテーブルに手を付き、身を乗り出す。

「あたしも行きたい!!!」

「行けばいいじゃねぇか。マスクとサングラスして」

「そんなナリで花見なんか楽しめるわけないじゃないッスか!!」

「じゃあ留守番してろ」

「だから曇ってる日に変更しましょうって言っ…ッくしゅん!!!」

話の途中で盛大なくしゃみ。

は口を押さえた手でそのまま手近なティッシュを掴み、鼻をかむ。

「あ゛---------…きっつい…」

涙目になってティッシュで鼻を押さえていると

「辛そうだなぁ

障子を開け、近藤が部屋へ入ってくる。

「障子は素早く閉めて!!

 あと隊服に花粉がついてるかもしれないから、部屋に入る前に掃って下さい!!!」

「あぁスマンスマン」

鼻をかみながらびしっと障子を指差す

近藤は後ろ手で障子を閉めながらその場で隊服の袖を掃う。

ここで掃わないでぇぇ!!!!

ティッシュボックスを抱え、咄嗟に飛びのいて近藤から離れた。

土方はやれやれと溜息をついて煙草の白い煙を吐く。



--------生まれて18年



は初めて花粉症というものにかかってしまった。



これまで何ともなかったのに、ある日外に出たら突然目が痒くなってくしゃみが出て、

毎日鼻炎で鼻声。

外に出るのが嫌でしょうがない。

晴れの日は極力パトカーから出ないで見回りをするようになってしまった。

「だから、曇りの日にやろうって言ってるんです」

気が済むまで鼻をかみ、は気を取り直して土方に提案する。

「曇り空の下で花見して何が楽しいんだよ。

 酒もマズくなるだろーが」

「ムサい野郎共だけで酒を飲む方がマズいです。毎年ウチの花見が華やかに行われてんのは

 あたしのお陰だってことを忘れちゃいけねー」

「ちょ、近藤さんこいつウゼーんだけど」

土方は眉間に濃いシワを寄せてを指差し、近藤を見た。

近藤は腕を組み、困ったような顔をしながらテーブルの前に腰を下ろす。

「しかしなぁ、毎年きちんと日程を決めてるし、山崎たちにはもう場所取りに行ってもらってんだ。

 今から日程の変更は出来んのだよ」

「……それは、百も承知ですけど」

ぐすっと鼻をすすり、はばつが悪そうに顔をそらした。

「お前だって外に出るのはつらいだろ?

 明日はゆっくり休んで、後でゆっくり別の宴会を設けようじゃないか」

駄々をこねるを宥めるように、近藤はそう言って提案してきた。

は唇を尖らせ、腑に落ちない顔をしながら再び鼻をかむ。






翌日



「それじゃあ行ってくるな」

良く晴れた昼下がり、屯所の玄関からぞろぞろと私服の隊士たちが出てくる。

近藤は1人屯所に残るの見送りを受けながら、少し申し訳なさそうに手を振った。

はなるべく外気を吸わないようにマスクをして玄関に立っている。

「屋台で焼きそば買ってきて下さい。

 あと広島風お好み焼きとイカポッポといちご飴とわたあめも!」

「分かった分かった、何でも買ってきてやるから。

 花見は今年ちょっと我慢してくれな」

行けない腹いせにこれでもかと土産を頼む

だが近藤はその気持ちが分かるのでそれぐらいは許してやろうと太っ腹な返事をした。

「もし出かけることがあったら戸締りはちゃんとしろよ。

 夕方には帰ってくるから」

「しっかり留守番してろィ。お前の分まで俺が飲んできてやらァ」

近藤の横で「鬼嫁」の酒瓶を抱えながら嫌味交じりに笑う総悟。

はひくっと口元を引きつらせながらも怒りを押さえて隊士たちを見送る。

近藤は苦笑しながら再び手を振り、玄関を出て静かに戸を閉めて行った。

「……っくしゅん!!」

バタン、と戸が閉まると同時にくしゃみが出た。

(あ---------ッ!!もう悔しい!!何で花粉なんかにやられるかなあたしの鼻!!!)

ぐすっと鼻をすすってそのまま台所に向かい、何か飲もうと冷蔵庫を開ける。

「-----------あ」

前に買っておいた白いな●ちゃんのペットボトルがない。

ちゃんと油性ペンで「の!」と書いておいたはずなのに…

「あークソ総悟だな絶対…」

仕方なく冷蔵庫を閉め、何か食べようと辺りを見渡すが普段棚に入っている煎餅やポテチの一式も無くなっていた。

「……あ。花見のつまみに持ってったんだ」

山崎が張り切って買い貯めてたなぁと思い出し、1人その場に立ち尽くす。

「……なんもないじゃん!!!」

丁度昼食時。

屯所で雇っている女中は基本、朝食と夕食を作るだけで帰ってしまうので

何かを食べようにもまず作ってくれる人がいない。

冷蔵庫の材料をどうにかして自分で作ることも可能だが

(…それは面倒くさいし)

台所をウロウロしながら考え、1つの答えのたどり着いた。





「……コンビニ…行くっきゃないか…」






そんなこんなで。


ヒソヒソヒソ…


「ねぇママーあのお姉ちゃん変だよー」

「シッ!見ちゃいけません!!」

道行く人々が自分を怪訝な顔で見つめ、後ろ指さしながら道を開けていく。

真選組のカッチリした隊服とハーフパンツ

腰に帯刀した少女。

辛うじて少女と分かるのはその体つきと真横に結われた髪ぐらいだ。

は口を大きな立体型マスクで多い、目を花粉防止のサングラスで覆って街を歩いていた。

警察だというのに怪しさ極まりない格好で、そのままコンビニへ入っていく。

「いらっしゃいまー…
ぅお!!!!

やる気がなさそうに間延びした挨拶をする若い定員は、の姿を見ていっきに目を覚ましたようだ。

一瞬手元の警報機を鳴らそうと考えたが、相手の服装が真選組の制服であることからそれを止めた。

(えぇーと…白いな●ちゃんと…わさびポテチと…小腹空いたからなんかすぐ食えるもの…)

雑誌コーナーの前を通りながら買うものを考えていると、向こうから見覚えのある人物が歩いてくる。

「……ん?」

サングラスの下で目を細め、前から歩いてくる男を見た。

銀髪の頭

腰に差した木刀

魚が死んだような目をした…

「旦那。旦那じゃないですか。こんちは」

偶然見つけた知り合いにいつものように挨拶する。

だが銀時と思われる男は明らかに怪訝な顔で立ち止まり、眉をひそめてをジロジロ見てきた。

「………どちらさんで?」

着ているものこそ真選組の隊服だが、サングラスとマスク姿では明らかに不信人物だ。

「あたしですよあたし。です」

室内なら幾分平気だと思い、はサングラスを外して銀時に素顔を曝した。

「…あぁお前か。何やってんのそんな格好で。

 怪しさ極まりねーぞ」

「いやちょっと花粉症にやられちゃいまして。

 サングラスとマスクないと外に出られないんですよ」

事情を説明し、再びサングラスをかける。

「あー…花粉ね…なんか新八も家でクシャミばっかしてたな」

「旦那はこんなところまで買い物ですか?」

見たところ手ぶらだが、彼の住むかぶき町からこのコンビニまではかなり距離がある。

不精の彼がわざわざこんなところに出向いてくるんだから、何か理由があるはすだ。

「ジャンプ買いに来たんだよ。近所のコンビニどこ行ってもなくてさー

 原チャでここまで来たんだけど此処にもねぇんだよなァ」

面倒くさそうにガシガシと頭を掻きながら、店の外に停めてある原チャリを見る銀時。

は首をかしげ、今週のカレンダーを頭に思い浮かべた。

今日は月曜。

そして祝日なので、隊士たちは揃って花見に出かけた。

「…今日祝日だから土曜に出たんじゃないですか?」




・・・・・・・




「あぁ!!!」

銀時は身を乗り出し、びしっとを指さす。

そのままその手でべしっと自分の額を叩き、面食らったように呻り声を上げた。

「あぁぁ-----------っ…!んじゃあるワケねぇじゃん!!

 どっこも売り切れてるわけだよ!!あークソ!!!!」

心底悔しそうに頭を振る銀時。

はそんな銀時を見てしばらく考えた後、ピンとひらめいた。

「山崎の読んだやつでいいなら貸しましょうか?

 屯所にあると思います」

の提案に銀時は呻るのをピタリと止め、顔を上げる。

「マジでか?あーいやでもその為だけにお前らのトコに行くのが面倒だよな…

 あいつ等と顔合わせてもそれはそれで面倒くせーし…」

近藤や土方に会うのを心底嫌がっているようで、銀時はあからさまに顔をしかめてみせた。

「今はみんな花見で出てるんで屯所にはあたしだけです。

 あたしは花粉症酷くて留守番だから。近藤さんたちは夕方まで帰ってきませんよ」

はそう言ってコンビニの時計を見る。

時刻は午後2時過ぎ。

隊士たちが出ていったのが1時前だから、ドンチャン騒いで帰るのは6時を過ぎるだろう。

「そうなの?じゃーちょっくら邪魔するかな。

 多分この様子だとどこ探しても売り切れだろうし」

「じゃあ決まりですね」






「それじゃあ今年度の真選組の活躍を願って、かんぱーい!!」

同時刻

満開の桜の下、近藤の音戸で隊士たちは右手のグラスを高々と上げる。

焼酎の入ったグラスをカシャン、とぶつけ合う音が響き、

その場はいっきに賑やかになった。

「いやぁ、満開だな!天気予報どおりだ、ここ2〜3日が見頃だろうな」

頭上に咲き誇る桜を見上げ、近藤は嬉しそうに笑う。

「だから言っただろ、日付ずらさなくて正解だって」

その横で酒より煙草を進めながら土方は言った。

「だがは残念だったな。毎年必ず全員でやってきた行事だろ?

 あいつも楽しみにしてたんじゃねーかと思うとやっぱり心苦しいものがあるよ」

「ま、こればっかりはしょうがねぇな。

 本人が外出るの辛いってんだから」

桜色の情景に白い靄を吐きながら、土方は煙と一緒に溜息をつく。

「どーせ今頃テレビでも見ながらゴロゴロしてんだろ」






一方

「どうぞ適当に上がって下さい。1回来たことありますよね?」

屯所の鍵を開けて玄関に上がり、ブーツを揃えながら銀時に向かって言う

「え、これほんとにいいの?なんか彼女の両親が出かけてて留守なのーって時に

 彼女の家にお邪魔する彼氏的な気分なんだけど大丈夫なの?」

銀時はブーツを脱ぎながら辺りをキョロキョロ見渡す。

こんな時に近藤や土方が帰ってくれば面倒事になるのは目に見えているから。

「だーいじょうぶですって。えーっと…昨日稽古場の用具室で読んでたの見たから…そのままなら稽古場かな?」

そのまま奥の稽古場へ向かうの後をついて銀時も廊下を歩き出す。

局長室や大広間などを通り過ぎた一番奥にある部屋

「稽古場」と書かれた札の古い戸を引くと、広い板の間が広がっていた。

多数の防具と竹刀が整然と並べられていて、道場特有の木の香りがする。

は奥の用具室を開け、中の明りをつけた。

「あ、あったあった」

隅の防具の影に隠してあるジャンプを発見し、埃を掃いながら拾い上げる。

「はいどうぞ」

「悪いな、あーよかった読みたかったんだ新連載」

「どうせならそのまま持ってちゃって下さい。

 土方さんに見つかると面倒だし、毎週溜まっていく一方だし」

倉庫を出て後ろ手で戸を閉めながらは言った。

山崎が買ってきたものだが、土方と同じマガジン派のにはどうでもいいことなので

ジャンプをあっさりとタダで銀時に受け渡す。

「じゃそうさせてもらうわ」

帰るまで待ちきれないのか、銀時はさっそく道場の縁側に腰を下ろしてあぐらをかき、ジャンプを開く。

そんな様子を見たは苦笑しながら縁側の戸を開け放した。

中庭の池の縁に咲く、1本の桜の木。

大きくはないが丁度満開のようで池の水面にその花弁の色を映している。

真選組が始まって間もなく、まだ隊士も少なかった頃はあの桜の下でよく花見をしたものだが、

組織が大きくなった近年ででは都心の桜名所まで出向いて花見をしている。

「花粉大丈夫なのか?」

を見上げ、差し込んでくる陽の光に目を細めながら銀時は問いかける。

「マスクすればなんとか。

 それに、やっぱりこんなに天気がいいのに暗い室内に籠ってるなんて勿体無いでしょ」

ポケットから出したマスクを耳にかけ、はその場にすとんと腰を下ろした。

「そういえば旦那は花見行きました?」

「一昨日行ったよ。またお前らとカブると面倒だからって早めに行こうって新八が」

銀時の言葉を聞いてはくす、と笑う。

「じゃあ今年は滞りなく進んでるのかな」

浅く溜息をつきながら晴天の空を見上げて、マスクで少し籠った声で呟いた。

銀時はそんなを横目で見る。

「……………」

少し寂しそうな諦めたような横顔を見てガシガシと頭を掻き、

ジャンプを閉じてコンビニで買ったいちご牛乳を袋から出した。

「んじゃまぁ、ぼちぼち花見といこうや」

そう言ってパックの角を持ち、に近づける。

は目を丸くして一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにつられるように笑みを零した。

マスクを顎まで下げながら、同じくコンビニで買った白いな●ちゃんのペットボトルを取り出していちご牛乳のパックに近づける。


ごつん


パックとボトルを軽くぶつけ合わせ、再び視線を満開の桜へと向ける。

「あ、わさびポテチありますよ。軟骨のから揚げとフライドポテトも」

「甘いモンねーの?」

「プリンありますけど1個しかないんでジャンケンで」

1人で食べようと思って買ってきたお菓子やレジフードを縁側に広げ始めた。






ひらり






花弁が春風に舞う










桜ネタを書くときっていつも時期で迷うんですが、
やっぱ地元が満開のときに書いたほうが気分も上がるので。
関東は既に葉桜だと思いますが、我が地元では今満開です。
銀さんと花見。最中に皆が帰ってきてわーっていうのも考えたんですが平和的な方向で(笑)
どうにもこうにも休みがとれず花見にいけません…orz