疾風少女は浅黄色を翻す-最終話・後編-







3階デッキ




総悟は左手に握った鞘で高千穂の首を後ろの壁に叩き付けた。

丸太のような太さの首を捻り切りそうなほど総悟の左手には力が入っている。

「…ッ…が、あっ…!!」

高千穂の眼球に刀の切っ先を近づけ、左手に更に力を込めた。


「……どうやらテロは不発に終わったらしいなァ」


口元はニヤリとつり上がるが、緋色の瞳は相変わらず冷たい眼光を放ったまま。

高千穂は右手の刀を振り切ろうとするが、相手の首を締める力が強すぎて意識が朦朧としてきた。

背丈も体格も、自分の半分ほどの男の腕のどこにこのような力があったのだろう。

目の前の男はそんなことを考える暇さえ与えない。


「------------死ね」


総悟が右手の刀を振りかざした瞬間





「突入!!」





デッキの方から大きな声が響き、いっせいに多数の足音が近づいてくる。

総悟が目線だけをそちらに向けるとデッキに橋を渡して数十人の幕吏が大和丸へ乗り込んできていた。

本船のすぐ横には幕府の船が停められている。

「……フン、今更手柄取りに来たってかィ」

総悟は左手の力を緩め、構えた刀を下ろした。

高千穂は大きな音を立てて膝を着き、涎と泡を吹きながらその場に倒れる。

「沖田さん!」

ぞろぞろと各部屋へ突入していく人の中で、顔なじみの幕吏が総悟に駆け寄ってきた。

「丁度いいや。コイツ頼まァ」

総悟は刀を鞘に納め、床に落ちた鞭状の刀を拾って幕吏に差し出す。

「え!?」

「あとこれも繋いどいてくれィ」

一緒に懐から取り出した手錠を手渡し、倒れている高千穂を親指で指した。

「そ、それで安東茂左衛門はどこに…!」

「…恐らく」





操縦室

「やりましたね局長…!」

「寿命が半分縮まったよ」

自動操縦に切り替わって安定した操縦席から離れ、近藤は冷や汗を拭う。



「……真選組を甘く見ていたな」



突如入り口から聞こえた声に2人が振り向くと、ドアの前には安東が1人で立っていた。

すぐに確保にかかろうとした山崎を近藤が制し、険しい表情で安藤を見る。

「…つい先ほど防衛庁の船が本船に連結した。

 お前たちに逃げ場はない」

西側から土方と総悟、そして万事屋の2人が露子を連れて走ってきた。

東側からはと銀時が戻ってくる。

安東は真選組に周囲を囲まれながらも、悠長に腕を組んで相変わらず不敵な笑みを浮かべていた。

「…近藤君。武州から移ってきた君たちと初めて会ったのはいつだったかな」

「…5年ほど前だったかと」

「5年にもなるか」

近藤の答えに鼻で笑いながら安東は軽く肩をすくめる。

そしてその視線は新八や神楽と一緒にいる自分の娘へ向けられた。

視線が合うと露子はビクリと肩を強張らせたが、意を決してゆっくり口を開く。

「……お父さん……どうして」

露子は震える唇で父に向かって当然の疑問を投げかける。

安東は浅くため息をつき、横目で窓の外を見つめて腕を組み直した。



「…お前は知らないからだ。本来我々が生きるべき日本の姿を」



遠くで幕吏がバタバタと走り回る音を聞きながら、

安藤はその空間にいる人間すべてに向けて言葉を発した。

「本来わが国の在るべき姿は、お前が生まれる前とうに崩壊している」

その男が言う意味を、露子と万事屋の2人以外は理解していた。

はそれを聞いて眉をひそめる。

この男が昔攘夷戦争に携わっていたことは知っている。

開国と共に刀を捨て、松平と一緒に真選組の立ち上げを手助けしてくれたと聞いていた。

「この国は敗戦と同時に誇りを捨てた。かつて国を護るために天人へ向けた刀は

 今や同じ国の人間に向けられる。捕まえては見せしめだと打ち首にする。

 自分たちが罪を犯せば正義感を振りかざして自らの腹を斬る。…とんだ茶番だとは思わんか」

安東はそこまで言ってフ、と笑って首を横に振り、顔を伏せる。

「…つまりアンタは、俺たちを手助けしてくれるずっと前から大蛇の立ち上げを目論んでいた…」

ドアの外で土方が口を開いた。

真選組と出会ったのが5年前。

村田仁鉄に刀を造らせたのが10年前。

少なくとも10年前既に大蛇の基礎は出来上がっていたということになる。

「何れお前たちと斬りあうことになろうことも予想していた。

 いや、それを目論んでお前たちに近づいたと言ってもいいだろうな」

そう言った安東は再び近藤を見る。


「…なぜ、露子さんの護衛を僕らに依頼したんですか?」


ドアの外から新八が口を開く。

安東は横目で新八を診た。

「今回のテロを実行するにあたって、より多くの人間に私が狙われていると思わせる必要があった。

 真選組が特定の人物の護衛につけば注意は江戸城から大きく逸れてくれる。
 
 その注意を私に向けておく為に露子は君たちに頼んだのだよ」

肩を上下させて笑い、安東はその視線を再び露子へ戻す。



「たとえ娘を利用してでも成し遂げたかったのさ」



視線を交わす娘に向けるのは完全な無表情。

今回のテロとして利用した娘に、もはや何の感情も抱いていないような表情だ。



「…納得いかねーな」



そこで口を開いたのは


「テメーら高見の見物共は好き勝手言ってくれるけどね。

 下々の人間は這いつくばってどうにか生きてるわけよ。

 誇りだ正義感だ、どんなに上っ面が天人に壊されたって武士がすべきことは変わってない」


「アンタは逃げただけだ。この国の現状から。

 敗戦を目の当たりにした、あの時の自分から」



もちろん開国以前の戦経験はない。

だが誰より知っている





その爪痕を。






『…おとうさん、おかあさん』






「国に愛想がつきたんなら1人で勝手に死ね。

 こんな国でも、笑って生きようとしてる人間を巻き込むんじゃないよ」

はそう言って鋭い目つきで安東を睨む。

二十歳に満たない少女が血まみれで上司を睨む姿は迫力があった。

安東はそんなを見て何かを思い出したように薄く笑い、顔を伏せた。


「………そうか、どこかで見覚えがあると思えば…思い出した。あの時の子供か」


何のことだとは眉をひそめる。


「君の両親は攘夷戦争時、浪士たちに道場と防具を貸していたね」


「ッ!」

安東の言葉には目を剥いた。

…何でこいつが知ってる?

近藤にさえ、両親が道場を開いていたということ以外は話していないのに。

近藤たちも両親に関して詳しく聞いてこなかったし、も聞かれなければ言う必要もないと思っていた。

確かにの父は道場を開いており、戦が酷くなって道場を閉めることになってしまったが

国の為に戦う浪士たちに道場を寝床として提供していた。



「そして戦に巻き込まれて死んだ」



ざわッ



は全身の毛がいっきに逆立つ感覚を覚える。




そして、思い出した。






この男の目を見て、あの時のことを。







『…安東殿、子供が』






崩壊した道場で座り込んでいたに、2人の男が近づいてきた。

2人共幕府の羽織を着ており、滅茶苦茶に荒れ果てた道場を見て目を細めていた。


『どうします、保護しますか?』

『…いや。時期に救護隊が駆けつけるだろう。任せておけばいい』


30代後半ぐらいの男は鋭い視線をに向け、

そのまま道場を離れていってしまった。

…道場の中では、天人の襲撃にあった父と母が倒れている。

出稽古に出ていたは奇跡的に難を逃れたが、戻ってきてみれば道場は見慣れた風景を全く無くしていた。








---------まって









どうして、たすけてくれないの?





おとうさんとおかあさん





まだいきてるかもしれないのに




なんで



助けてくれないの?



おいていっちゃうの?




「………ッお前…」

そしてあの頃から成長した少女は、あの時の幕吏を前に怒りを露にする。

「血は繰り返すものだな。まさかあの時の子供が真選組に入隊しているとは」

安東は肩をすくめて鼻で笑った。



「芋侍共の傀儡だと話題は持ち切りだったものだ」



「----------ッ!!」

その瞬間の瞳孔が大きく開き、同時に細い右腕が目にも留まらね速さで抜刀する。

…だが


「……離して下さい」


抜刀したの右手を、横から近藤が強く掴んだ。

「-----駄目だ」

瞳孔が開いたままのは、近藤の制止を聞かずに右手に力を入れる。

だが近藤もそれを上回る力での腕を押さえつけた。


「離せばお前はこの人を斬る」


近藤は表情を険しくさせ、華奢な腕とは思えぬの力を制圧している。


「…それの何がいけないんです。コイツはテロ組織の頭ですよ。

 どっちみち処刑だ」


押さえつけられた手を振り払おうとすると骨と肉がギチッ、と音を立てて擦れる。

全身に大怪我を負っているの腕を強く制止するのは気が引けたが、

そうでもしないとは確実に目の前の男に斬りかかるだろう。

「それは俺達が判断することじゃない。…分かるな?」

大きな瞳は計り知れぬ怒りで瞳孔が完全に開き、

それを宥めるような近藤の言葉も届いていないように思えた。

今すぐにでも近藤の手を払って斬りかかりそうな力に、近藤も力を緩めない。



「…お前は言ってくれたよな。

 真選組と、真選組を守る俺のために刀を振るってくれるって」



そのままの姿勢を保ち、近藤がゆっくり口を開いた。

「俺はあの時からお前を大事な仲間として信用し続けているし、

 お前も俺たちを信用してくれてると思ってる」




小さな手が重い真剣を握り




迷いのない真っ直ぐな剣を振るってきた姿を







ずっと見てきた




 



「自分の憎しみの為に刀を振るうな。憎しみで剣を汚すな。

 お前はこれから先もずっと、自分が突き立てた信念の上で

 自分の護りたいモンを護って刀を振るっていくんだ」




『真選組として…武士として、自分の信念に恥じない剣を此処で高めたいです!!』




今も






覚えて、いるよ







「………………」

近藤の声を聞き、次第に力を緩めていく

近藤もの手をそっと離した。

は刀を握った右手をゆっくり下ろす。

「近藤局長!」

待っていたかのように外から警察の人間が数人走ってきた。

「…連れていってくれ」

近藤の指示に返事をした警察官は安藤に手錠をかける。

安藤も特に抵抗することなく黙って手錠をかけられた。

数人がかりで連れて行かれる安藤は横目で一瞬露子を見たが、すぐにフイと顔を逸らしてそのまま操縦室を出て行く。

部屋の隅に拘置していた3人のクルーも一緒に連れて行かれ、

張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ気がする。

だがそこでは重要なことを思い出した。

「っそうだ高杉…!高杉は!!」

慌てて近くを通った警官に声をかける。

「船内を隈なく捜索していますが…そういった報告は…」

警官はそう言って首を横に振った。

は奥歯を食いしばり、操縦室を飛び出してデッキに抜ける通路を走っていく。

!」

既にデッキでは何人か幕吏が集まっており、客室や倉庫を捜索していた。

は手すりに掴まって身を乗り出し、辺りを見渡す。

大和丸の下に見えるのは江戸の街。

南側のデッキには防衛庁の船が連結している。

だが360度どこを見ても真っ青な空が広がっているだけで、他に船は見つけられない。

が万斉と戦ってから既に2時間近く経過している。

この船が江戸城に突っ込む計画を知っているなら、鬼兵隊が黙って船に残っているはずがなかった。

「……っはァ…はぁっ……」

は肩で息をしてその場に立ち尽くす。

「…仕方ないさ。今回は江戸城衝突を防ぐことが最優先だった」

「………すいません…」

追ってきた近藤が横に並び、の肩を軽く叩いた。




「帰ろう」




防衛庁の操縦士が再び船を手動操縦に切り替え、

大和丸は江戸湾に戻って着陸の準備を始めている。









首の落ちた大蛇を乗せた豪華客船の巨大な船体は


沈み行く夕陽に照らされてオレンジ色に染まっていった。










2日後・真選組屯所


"2日前に起こった江戸城テロ未遂事件の実行犯である安東茂左衛門の身柄が本日警視庁に移されました。

 今日から本格的に取調べが始まる模様です。尚他2名の身柄は…"


女子アナウンサーがそこまでレポートしたところで近藤はテレビの電源を切る。

屯所の広間で流れているテレビでは朝から同じようなニュースが繰り返されていた。

だが広間でテレビを見ていたのは近藤1人で他の隊士はみな出払っている。

近藤はふぅ、とため息をついて重い腰を上げた。

すると


局長ォォォォ!!!」


バタバタと廊下を走る足音と共に山崎の叫び声。

「どうした山崎」

ちゃんが部屋にいません!!!!」

何ィィィィ!?今週は安静にしてろってあれほど言ったのに…!!」

血相を変える山崎の報告を聞いて近藤も大声を出した。






同時刻・屯所近くの甘味処では。


「おねえさーん、いちごキャラメルデラックスパフェ追加で」

「じゃああたし抹茶ぜんざい追加で」


男女が座るテーブルには所狭しと様々な甘味が並べられている。

男の方は天然パーマの銀髪で腰に木刀を差しており、

女の方は真選組の隊服を着て真剣を差していた。

そんな奇妙な組み合わせの男女だが、2人は至って普通にパフェやぜんざいを食べている。

銀時は既に食べ終わりそうなチョコレートパフェのコーンフレークを食べながら向かいに座るを見た。

「つかお前出歩いて大丈夫なの?傷口開いてバターッとかやめて欲しいんだけど」

「大丈夫ッスよ。全治3ヶ月とか言われたけど、右手は使えるんで不自由はしてません」

はそう言って右手持ったスプーンでパフェをつつく。

左手は隊服の上から白い三角巾で吊るされていた。


左腕靭帯損傷。

肋骨2本を骨折。

その他打撲・切り傷多数

全治3ヶ月の立派な重傷患者だ。


今週1週間は安静にしていろと近藤に言われたのだが、はその言いつけを破って銀時とパフェを食べにきている。

「黙って屯所にいてもすることないし。刀駄目にしちゃったんで新しいの頼んでるんですけど…

 それもあと2〜3日かかるんですよね」

スプーンを銜えながら不満そうに唇を尖らせる。

万斉との戦いで紛失したと思っていた刀はあの後防衛庁の人間が回収してくれたが、

刃こぼれしていたので新調しなくてはならなかった。

今は鍛冶屋で借りた別の刀を持っているが、1週間は安静にしていろと言われたので使い道はあまりない。

「あ、一応これまでの状況を教えときますね」

はそう言ってスプーンをグラスの中に戻した。

「安東は現在本庁で取り調べ中です。幕府の重鎮だっただけに政界のショックも大きいみたいで…

 もしかしたら保釈金払って釈放されるかもしれません。他2名もまだ取調べ中ですけど…

 これまでに幕吏を何人も殺ってますからね。こっちは処刑確定でしょう。

 乗客600人の大蛇メンバーは全員の事情聴取が終わったら釈放される予定です。

 騒ぎ起こしただけで殺人はしてないから、こんな人数収容してる余裕はないってお上が」

一般人の銀時に捜査状況を話す

それはこの男が他言することはないだろうと思ったからであり、

露子の護衛をしていた彼等には話す必要があると思ったからだ。

「…で?娘はどうしてんの?」

銀時はその露子の話題を出した。

「…母親と一緒に武州の実家に帰るらしいです。

 取調べの時会ったら「万事屋の皆さんによろしくお伝え下さい」って言われました」

幕府の重鎮だった男の逮捕。

それにより安東家にはたくさんのマスコミが押し寄せてパニックになった。

安東は釈放されても家に戻るつもりはないらしく、

残された家族は武州の実家に帰ることになったらしい。

「…ちッ…なんっかスッキリしねーな…」

報酬は貰ったが後味が悪い。

銀時は頭を掻いてため息をついた。

「10年以上家族や同僚を欺いてきたんだから大したモンですよ。
 
 それだけに今回のテロは本気だったんだと思います」

はそう言って一緒に頼んでいたゆずジュースをストローですすった。

銀時は背もたれに深く寄りかかり、銜えていたスプーンを上下させる。

「……ホントなのか?」

「?何がです?」

ストローを銜えたままは銀時を見上げた。



「お前の親父が、攘夷志士に道場貸してたって」



真顔で問いかける銀時を見て、の表情も変わる。

そしてふーっと深呼吸してからゆずジュースを飲みきり、背もたれに寄りかかって頷いた。


「…本当ですよ。危ないからってあたしは当時道場には近づけなかったんで、

 実際に浪士が使ってるとこを見たことはありませんけど」


「でも、戦の後浪士が道場に花を供えに来てくれたのは見ました」



幼かったにはその意味が分からなかったが、

今なら分かる。

それが武士なのだと、今なら分かる。



「"彼等は必ず天人からこの国を護ってくれる"それが父の口癖でしたから。

 同じ剣を振るう者として、攘夷志士に何かしてやりたかったんだと思います」



銀時は黙っての話を聞いていた。

彼女が自分の昔話をするのは珍しいことだし、

それが自分に無関係というわけでもないからだ。


「敗戦して開国して、いとも簡単に天人を受け入れた幕府を恨む気持ちも分からなくはないです。

 父も生きてたら幕府を恨んでいたかもしれないし、あたし自身攘夷派として刀振ってたらどうなってたんだろうって考えたこともあります。

 でも…そんな国でも、自分の信念を曲げずに自分の刀を振るってる人だっている。

 この国で生きてくのもまんさらでもないかもって、思わせてくれる人がいる。

 あたしは、その人を護って生きていきたいって思ってる」




…ここにいる理由は簡単だった。







あの時、手を差し伸べてくれた人がいたから。














今は、自分に手を伸ばしてくれる人を


ただ護りたい。





「だからあたしは、真選組なんです」





はそう言っていつものように笑った。

そんな彼女を見て銀時もつられるように笑う。

「…そうかい」

「それじゃ早いトコその腕治さなきゃな」

銀時はそう言って追加したパフェの新しいスプーンでの左腕を指した。

「そうッスね」

は再び笑う。

すると



あぁぁッ!!!ちゃんやっぱりここにいた!!!」



突然店のドアを開けて派言ってきたのは山崎。

「1週間は屯所で絶対安静って言われたじゃない!!

 怪我を診てる俺の身にもなってよ!!…あ、旦那こんちは」

2人の座るテーブルに近づき、を怒鳴りつける。

そして銀時には恭しく頭を下げた。

「あーハイハイ。戻りゃいいんでしょ、戻りゃ。

 ったく、崖っぷちから生還したんだからゆっくり好きなもの食わせろっつーの」

はぶつぶつと文句を言いながら席を立ち、銀時の分も一緒に会計を済ませた。

「それじゃ旦那、ごゆっくり」

「ゴリラに報酬請求しといてくれ」

銀時はがめつくあの時の「報酬」の話を覚えていた。

は苦笑して「分かりました」と頷く。

山崎も再び銀時に一礼すると2人は文句を言い合いながら店を出て行く。











「…………ありがとな」










ぼそりと、銀時は呟いた。








それは、もうこの世にはいない彼女の父親に向けて発したものかもしれなかった。








「まったく…局長も心配してるよ!安静にしてなきゃ治らないんだから!

 っていうか俺入隊してから君の手当てが一番多い気がするよ!?」

「ウダウダうっせーな…小姑かお前」

何その言い草ァァァ!!!!

歩きながら小言を洩らす山崎。

は舌打ちをしながら右手で頭を掻く。

山崎の怒鳴り声を聞き流し、ふと空を見上げると青空にぽつんと一隻の船が見えた。

どうやらターミナルから出航したものらしく、どんどん高度を上げて宇宙へ発とうとしている。





『伊藤先生にな、俺は色に例えると白だと言われたよ』




そして、少し前近藤が言っていたことを思い出した。



『俺は、真選組に似合う色は浅黄色なんじゃねーかって勝手に思ってんだ』

『浅黄色?浅黄裏の?』

『田舎侍の代名詞だからな』


首をかしげるを見て近藤は豪快に笑う。

羽織の裏を染める浅黄色は江戸では古臭いとか、田舎くさいとか言うからだ。




『昔はな。白い布が高価で、死装束は浅黄色だったんだと』



『死ぬ覚悟を決めて戦いに臨む色なんだ』








『俺たちも、そんな色が似合うようになりてぇな』










にかっと笑った近藤の表情を思い出し、は顔を伏せてフ、と笑った。

「帰ったら素振りでもすっかな」

「俺の話聞いてた!?」







そして疾風の如く駆け抜ける少女は


目の覚めるような浅黄色を翻し









今日も直走る。












長い間読んでくださってありがとうございました!
悪い癖は次で完結!って思ってるのに思いのほか長くなっていつも最終話を前後編にしちゃうところです(笑)
一昨年…あたりに生み出した真選組固定ヒロインがまさかアンケートで1位を頂けるとは思っていなかったので、
こうして長編が書けてとても楽しかったです!
ちょこちょこといろんな人も出せました。伊藤とかミツバさんとか。
これからまた短編の方を書いていきますので、そちらもどうぞよろしく!!

イメージ曲
REALIZE/喜多村英梨

※小ネタ※
「安東茂左衛門」は悪代官と名高い実在した「安東茂右衛門」から拝借しました。
気づいてた方もいるかもしれませんが、志摩・瀬高・高千穂は日本のヘビの名前です。
浅黄色に関する知識は新撰組の羽織を作っていらっしゃる呉服屋さんが引用なさっていた文章を参考にしました。