疾風少女は浅黄色を翻す-13-









会合当日



姉上ェェェェェ!!!!



早朝の恒道館道場

玄関で乱暴に草履を脱ぎ、姉を呼びながら廊下を走る新八。

姉上ェェェ!!!姉上帰ってますかァァァァ!!!!

バタバタと煩い足音を聞き、居間から妙がひょっこりと顔を出した。

仕事上朝帰りであることが多い姉だが、丁度帰宅していたようだ。

「どうしたの新ちゃん、朝から騒々しい。

 あら銀さんに神楽ちゃん。いらっしゃい」

血相を変えて走ってきた新八の後ろには銀時と神楽の姿もあった。

「あの…っ!さんの連絡先教えて下さい!!」

あれから鉄子の鍛冶屋から銀時が原付を飛ばして戻ってきたのだが、

妙が仕事で不在だったため早朝に出直してきたのだ。

猛スピードで家まで戻ってきた新八は「ただいま」も言わずぶしつけなことを言ってきた。

突然友人の名前を出された妙は目を丸くして首をかしげる。

「なぁに新ちゃん。この間まで手紙でシコシコやってるかと思ったら今度は電話なの?

 それにちゃんは私の大事なお友達なんだから

 電話でシコシコなんてふしだらなこと許しませんよ」

「真顔で気持ち悪いこと言わないで下さい!!

 アンタどんだけ話飛躍させてんだ!!!!」

真顔でとんでもないことを言って退ける姉の言葉に新八が思わず大声を出した。

「ああぁぁもうさんが無理なら近藤さんとかでもいいですから!!」

「何で私があんなストーカーゴリラの携帯番号なんか知ってなきゃならないの?

 前に携帯番号とか名刺を何枚も貰ったけど全部燃やして捨てちゃったわ」

何してんですかァァァァ!!!!たっ、大変なんです…!!

 早くしないと真選組の皆さんが…っていうか…この国が危ないかもしれないんです!!!」

「…?何言ってるの新ちゃん。ねぇ銀さん一体…」

血相を変えてわけの分からないことを言う新八。

妙は眉をわずかにひそめて首をかしげる。

すると


ピンポーン



道場の玄関からチャイムが鳴った。

「はぁーい」

妙は3人の傍を離れて玄関まで駆ける。

「あら……?」

玄関に立っていたのは、妙には見覚えのない若い女性だった。

黒い髪を後ろで団子状にまとめ、綺麗な着物に身を包んでいる。

「あの…こちらに万事屋さんはいらっしゃいますか…?」

育ちの良さそうな身なりの女性は自分とは正反対の生活を送る人物の名前を口にした。

「あれっ、露子さん!どうしてここに…」

廊下で話を聞いて玄関に戻ってきた3人は自分たちの依頼人を見て目を見開く。

「お店にお邪魔したらお留守だったので…下のスナックで聞いたらこちらだと聞いたから…」

「あ、あの露子さん実は…」

昨日鉄子の鍛冶屋で知った事実に困惑する新八だが、

その横で銀時が手を出して彼の言葉を遮った。

「ああすんません、すぐ護衛再開しますんで」

会合は今日。

つまり今日1日で任務完了ということだ。

銀時はブーツを履こうとその場にしゃがみこんだのだが

「あ、いえ。護衛はもう必要なくなりましたので、その旨を伝えに」

「「----------え?」」

「実は急遽父の会合に参加することになったんです。

 会合の前にパーティーが開かれるみたいで、そこで私を紹介したいって。

 会合には警察の皆さんも警備にいらしてますから、護衛はもう大丈夫です。

 今日までありがとうございました」

露子はそう言って微笑み、3人に浅く頭を下げる。

「…っ銀さん…!」

「………………」

もしあの刀を村田に造らせたのが本当に安東なのだとしたら、

露子が彼の主催する会合に同行することは危険極まりない。

「…あのさ」

銀時は数秒考えてから口を開く。




「……報酬いらねーからさ、護衛あと1日伸ばしてくんねーかな?」





その頃

真選組の屯所では広間に隊士が集まり、これから行われる会合の警備について最終調整を行っていた。

「今日の会合は江戸湾停泊の客船・大和丸で行われる。

 午前10時離陸、その後は江戸湾の周囲を旋回して再び港に戻ってくる仕組みだ」

上座に座った近藤が今日の流れを隊士に説明する。

も一番前、総悟の隣にしっかりと正座して真剣に話を聞いていた。

「一番隊と二番隊は安東殿の身辺警護、三・四・五番隊は各客室の警備と一緒に

 パーティーに参加する安東殿の娘さんの護衛。六番隊七番隊は船のデッキ周辺を見張れ。

 八・九・十番隊は手分けをして船長室や機関室など一般客が出入りしない場所の警備についてくれ」

テキパキと各隊に命令を出していく近藤。

各隊士は大きな声で返事をする。

「俺とトシはなるべく安東殿の傍につくつもりだ。

 少しでも怪しい奴を見つけたら連絡を入れろ。単独行動は許さん。

 1人で判断するな、指示を待て」

「特にがな」

近藤の横で土方が補足を加えてを見た。

はばつが悪そうに唇を尖らせる。

隊士全員に無線が手渡され、各々が隊服の内ポケットに入れてマイクを襟に装着した。

ぞろぞろと隊士たちが広間を出て行く中、は足を崩して携帯を開く。


「…ん?」


会議中は携帯の電源を切ること。

局中諸法度にもある通り携帯の電源を切っていたので気づかなかったが、

-------不在着信が5件。

確認すると

「……妙ちゃんからだ…」

映し出されているのは妙の自宅の番号。

こんなに掛けてくるということは非常事態なんじゃないか。

不安に思ったはすぐさま着信履歴から妙に電話を掛け直した。


プルルルル…


プルルルル…


『はい、志村です』

「あ、妙ちゃん?あたし。だけど」

『あらちゃん、おはよう』

電話に出た妙は特に慌てた様子もなくいつも通りだ。

は首をかしげる。

「あのさ、妙ちゃん家から着歴が5件あったんだけど…

 掛けた…よね?」

妙がいつも通り過ぎて逆に不安になったは彼女に問いかけた。

『あ、ごめんなさいね。掛けたの私じゃないのよ。新ちゃんなの』

「………眼鏡くんが?」

…親友の弟がなぜ自分に?

は目を丸くする。

『なんだか朝早くに銀さんたちと一緒に家に来てね、

 突然ちゃんの電話番号教えてくれって。

 なんか国が危ないとかよく分からないことを言ってたんだけど…

 何度掛けても繋がらなかったから万事屋に行っちゃったのよ』

妙の悠長な説明には表情を曇らせた。



…もしかして旦那たち大蛇に関して何か掴んだんじゃ。



「…ごめん妙ちゃん、万事屋の番号教えてくれる?」




プルルルルル…





プルルルルル…





プルルルルル…





(……出ない)

妙に教えてもらった番号にかけたが、何度コールしても電話が繋がる気配はない。

…当然だ。

かぶき町にある万事屋銀ちゃんは現在留守だから。

「ちッ…早まった行動してなきゃいいけどなー…」

仕方なく通話を切り、頭を掻いてため息をつく。

「おい。行くぞ」

「あ、はーい」

土方に呼ばれ、は携帯をポケットに突っ込んで玄関へ駆けた。

「そういえば安東は?一緒に港まで?」

「いや、先に本庁の連中と一緒に船に乗り込んでるらしい。

 まだパーティーに参加する客も出入りできる時間じゃないし、大丈夫だろ」

「そっすか」

パトカーに乗り込む一行の上に広がる空には

今にも雨が降り出しそうな分厚い雲がかかっていた。







午前9時・江戸湾・船着場

港には一際目を引く大きな客船が停泊していた。

会合やパーティーに参加する多くの人が港に集まっているが、

船内を出入りしているのはまだ警察関係者だけだ。

船内最上階に位置するスイートルームには既に安東が居り、

大きな窓から外の景色を眺めている。



「---------…順調に進んでのかい?安東よ」



開け放したドアの前、暗い通路の方から響く低い声。

窓と向き合っていた安東はその声を聞いてクツクツと笑う。

「…ああ、すべては計画通りだ。

 娘も呼んであるからな、警備も多少そちらへ向いてくれるだろう」

「ククッ…自分の目的の為には実の娘の危険も顧みねぇってか?

 怖いねぇ…」

通路の壁に寄りかかっている影は肩を上下させて馬鹿にするように笑った。

安東はくるりと振り返り、部屋の外に立つ影へと目を向ける。

「君ほどではないさ」





「高杉君」






暗がりの中に、白い靄が一瞬かかったかと思うと


湿った空気に煙管の香りが浮かんで


ふ、と








消えた。









To be continued