疾風少女は浅黄色を翻す-11-









「…何で安東が万事屋に依頼を……?」

銀時の説明を聞いて、は当然の疑問を口にした。

安東茂左衛門といえば知る人ぞ知る幕府の重鎮だ。

これから天人を多数交えた大きな会議を開こうとしている人物が、

なぜ見るからに胡散臭い万事屋に娘の護衛など依頼したのだろう。

「だーから知らねーっつってんだろ。

 直接依頼に来たのは娘だけでその父親には会ったこともねーし、

 警察は事件の調査と幕吏の護衛で手がいっぱいだからって俺たちを紹介されたんだとよ。

 オメーらなんかより俺らの方が頼りになると思われてんじゃね?」

銀時は依頼をこなして金が入れば詳しいことに介入するつもりがないらしい。

「バカ言え、何で幕府の大御所がテメーらみたいな胡散臭い連中を知ってんだよ」

「知らねーっつの!!はっ倒すぞ!!!」

煙草を銜えたまま銀時を睨む土方。

銀時は立ち上がって怒鳴り散らす。

「………………」

そんな中新八だけが難しい顔をして数日前のことを思い出していた。



『どうやらメンバーの中に攘夷戦争に関わっていた者もいるらしくてな。

 恐らくお前のことも知っているはずだ』



(もし桂さんが言ってたことと関係あるんだとすれば…)

…これは真選組には言わない方がいいな。

そんなことを思いながら目の前に立つ4人を見上げる。

「どうしやす近藤さん、安東に直接聞いてみますか?」

「…うーん…」

「でもこいつらに安東の娘任せとくのもどうかと思うぜ?」

「そうですよ。何かあって警察の所為にされるのごめんだし」

4人は万事屋を見下ろして眉をひそめ、口々に不満を漏らした。

「オイオイオイオイ、好き勝手言ってんじゃねーぞコラ。

 俺たちはその安東とかいう娘に直接依頼受けてんだ。

 報酬だって前払いで貰ってるしこっちも後には引けねーんだよ。

 だいたいテメーら警察が頼りねーから俺たちんトコ来たんだろーが」

「んだとコラ」

「やめないかトシ。安東殿が個人で決めたことなら俺たちが口出し出来ることじゃない」

完全に喧嘩腰の銀時に土方は血管を浮き立たせる。

近藤は腕を組んで難しい顔をしながらそれを宥めた。

「…安東殿の娘さんには手の空いた隊士に出来るだけついてもらうことにする。

 お前らはお前らで仕事を続ければいい」

「ハッ、言われなくてもそうさせてもらうぜ」

近藤はそう言ってテーブルに手錠の鍵を投げる。

銀時は器用に右手の指先で鍵を持って自分の手錠を外し、

横にいた新八や神楽の手錠も外してやった。

「殺人事件だか何だか知らねーが適当に頑張れや」

手首をブラブラさせながら立ち上がった銀時は、

新八と神楽を連れて取調室を出て行く。

「…………………」

近藤と土方はため息をつきながら顔を見合わせるが、

は険しい表情で万事屋を目で追った。






「あー酷い目にあった」

「結局カツ丼出なかったヨ。ケチな連中アル」

本庁を出た3人は心地よい秋風に全身を伸ばしながらかぶき町に向かって歩いていた。

「…桂さんが言ってた…"大蛇"って組織について

 真選組は掴んでるんでしょうか」

横を歩く新八が神妙な面持ちで口を開く。

銀時も桂の言っていたことを思い出し、頭を掻いた。

「さーな。あいつらも一応警察なんだし調べはついてんじゃねーの。

 俺たちには関係ねーことだ」

「…だといいんですけど」

新八が意味深な返事をすると


「旦那!」


後ろから自分たちを呼び止める声。

立ち止まって振り返ると、隊服姿のが走ってきた。

「何だ?まだなんかあんのか?」

「はぁっ…ハァッ…すいません……

 ちょっと…お話が……」

本庁から全力疾走してきたのか、肩で息をしながらは3人を見る。

3人は顔を見合わせて首をかしげた。




「どうぞ」

万事屋に戻ってきた一行。

新八が湯のみに淹れたお茶をへ差し出す。

は中央のソファーに銀時と向かい合わせに座り、

差し出されたお茶を受け取っていっきに飲み干した。

「ふーっ」と息を長く吐いて呼吸を整え、湯飲みをテーブルに置いて正面に座る銀時を見る。


「……率直に聞きます。…今回の事件について、どこまで知ってますか?」


真剣な表情で真っ直ぐ銀時を見る目。

銀時は僅かに目を細める。

「あんだっつーの。テメーらの追ってる事件と俺たちが関係あるとでも言うのかよ」

「答えて下さい」

隙を許さないの言葉。

銀時は頭を掻きながらため息をつき、足を組みなおしてソファーの背もたれに両腕を掛けた。

「最初にお前から聞いただけだよ。

 連続して殺害されてる幕吏が首刎ねられた変死体で見つかってるってだけで

 その他は何にも知っちゃいねー。お前首の切断面が気になるとか言ってたじゃん。

 さっちゃんのお陰でその辺は解決したんじゃねーの?」

あくまで桂に聞いたことを誤魔化し会話を進める銀時。

は膝の腕で指を組んでふーっと息を吐き、覚悟を決めたように顔を上げる。

「…嘘言わないで下さい。桂がこの事件について独自に調べてるって山崎から報告来てるんです。

 アンタの耳に情報が入らないわけがない」

いつになく鋭い目線を銀時に向ける

鋭い読みに居間の空気がいっきにピリッと張り詰めたものに変わった。

新八と神楽は息を呑んで銀時を見つめる。

「………何が言いてぇんだ?」

腕を組み、死んだ魚のような目つきを一転鋭く細めてを睨む目。

「…一度真選組を助けたことで一部の攘夷志士がアンタの存在に目を付けてる。

 増してや会合を間近に控えてる安東の娘の護衛なんかすりゃー

 それは確実なものになるはずです」



「あたしは、今回の事件とアンタたち万事屋が安東の護衛を依頼されたことが偶然だとは思えない」




確信をつく、言葉。

「警察が…真選組が、この事件に踊らされてるような感じがする」

真顔で自分の見解を話す

銀時は再びガシガシと頭を掻き、深いため息をついて身を乗り出す。

「…いいのかよ。そういうこと俺たちに喋って」

「別に害はないでしょ、あたしの個人的意見なんで。

 あ、でも土方さんには内緒にして下さいね」

は険しい表情を一転、いつものように苦笑してみせた。

「あの…さん、もし僕らが露子さんの護衛を依頼されたことが事件を関わりがあったとして……

 どうなるんですか……?」

立ったまま話を聞いていた新八が心配そうにに問いかける。

金になるおいしい仕事だと思って引き受けたのに、

殺人事件なんかに関わっていたとなると自分たちの身の危険にも関わってくる。

「…まだ何とも言えないけど…あたしは今回の事件に幕府の人間も関わってんじゃねーかって睨んでる。

 そいつが今回の会合を利用して安東とその家族を狙ってくる可能性も十分あるから、

 今はどんな小さな手がかりでも欲しいの」

はそう言って自分の左腕を見下ろした。

毎日山崎から鎮痛剤を貰っているから日常生活には支障ないが、

今攻め込まれたらハンデになるのは必至だ。

…これは山崎と総悟以外には知れていないことだが。

すると



ピリリリリリ



「あ、ちょっとすいません」

携帯が鳴り、は席を立って廊下に出た。

「はいもしもし」

「………っホントですか!?」

電話の相手から聞いた言葉には声を荒げる。

居間にいた3人も廊下にいるを見た。

「すぐ向かいます!」

は手短に通話を切り、携帯を閉じて居間に戻ってきた。

「…また被害者が出たみたいです。すませんこれで失礼します」

「え…っまたですか!?」

ソファーに立てかけていた刀をとって腰に差し、

銀時にぺこりと頭を下げて再び玄関へ出て行く。

「会合明日だってのに警察ァ何してんだってお上に小言言われちゃう」

はブーツを履き、胸のポケットから1枚の写真を取り出して玄関に立つ銀時に差し出した。

銀時が写真を受け取ると横の新八と神楽が覗き込む。

「何だこれ」

「事件で使われた武器です。あたしが捕まえたんですけど、

 ちょっと加減できなくて殺しちゃったんで手がかりこれしかなくて」

物騒なことをアハハ、と笑いながら言って退ける

銀時は目を細めて写真を見る。

写真に写っているのは日本刀。

だが唾から先の刀身はぐにゃりと変形して鞭のようなしなやかさが窺えた。

「何か分かったら連絡ください。
     ・ ・
 あと、奴らには十分気をつけて」

引き戸を開け、振り向き様に忠告をしたは玄関を出ると階段を駆け下りて行った。

「……………………」

「…銀さん」

来客の去った玄関を見つめ、写真に視線を移して目を細める銀時。

新八は不安そうにその横顔を見上げた。

「…アイツ気づいてやがんな。俺らがヅラに大蛇とかいう組織のこと教えられたの」

さんも沖田さん並に鋭いですからね…でも別に隠さなくてもよかったんじゃないですか?

 今回は僕ら桂さんと手を組んでるわけじゃないし…」

「バカお前、テメーからわざわざ面倒事に首突っ込まなくてもいいだろーが。

 安東の娘にはアイツらも護衛につくっつってんだしよ。

 報酬は貰ってんだし、何かあったら全部アイツらに任せりゃいいしな」

銀時は受け取った写真を見ながらボリボリと頬を掻いて目を細める。

鞭のように撓った刀身は本当に刀なのかと疑ってしまうが、

鋭くギラリと銀色に光るその刃は間違いなく日本刀だ。

「…さて……どーすっかな……」





To be continued