■大江戸怪談チャット■




mi_yu:そいやこないだの歌ググってみた


shiera:なんだっけ?


mi_yu:つるばみの詠


mi_yu:どこも大抵2番までしか載せてなくて呪いサイトみたいなところで見つけた


saxdaxkox:やめればいいのにwww

saxdaxkox:で、どうだったの?


mi_yu:ここに歌詞書いたからって呪われたりしないよね?笑


shiera:ないっしょwwww


mi_yu:でもやっぱ怖いのでアドレス貼ります↓↓↓
http://sss.tutakazura.com/kaidan_tsurubami.htm


saxdaxkox:歌わなきゃ大丈夫だよ。

saxdaxkox:多分。


shiera:ちょっと見てきますー







つるばみの詠-10-








"こちら現場の結野です!今朝から江戸の街に降り続く突然の雪、

 陽が暮れた今も止む気配はありません。気象庁も予測できなかった今回の異常気象は

 江戸の街に多大な影響を与えています。各地で車のスリップ事故が相次ぎ、転倒した方もいるようで

 怪我人が続出しているようです。皆さん、今度とも急な天候の変化に十分注意し、

 お車を運転なさる方はくれぐれも安全運転を心掛けて下さい!"


午後の料理番組の途中、突然入ってきた臨時ニュースでは江戸の女子アナウンサーが

相変わらず吹雪に見舞われて必死に中継していた。

画面上に運休している電車の名前が次々と映し出されたが、本土を離れている自分には全く関係ないことだった。

画面は即座に料理番組に切り替わり、さして興味もないのでリモコンで電源を切る。


「…どうすっかなぁ…」


リモコンをテーブルに置いて溜息をつく。

どうすっかなぁ、と言っても何度も確認したように、天気が回復しなければこの島から出ることは出来ない。

そして


「………………」


ちら、と天井を見上げる。


ここは、本来の自分の部屋の真下。

本来ここは山崎と原田が使っていた部屋だ。

隣室だった近藤たち3人も自分たちが使っていた部屋の真下に降りてきており、今はすぐ隣の部屋にいる。

理由は簡単。



自分の部屋が怖いからだ。



壁を叩くような謎の音

部屋に落ちている木の実

天井から吊るされた少女の身体

喪服姿の女

首を吊った男



あの二部屋で様々な怪奇現象が起こり過ぎて、耐えかねた4人は揃って部屋を出てきたのだ。



「…泣く子も黙る真選組を何だと思ってやがる…」



姿の見えぬ得体の知れない「何か」に向かって文句を吐くが、

これは今が昼間でここが自分の部屋でないから言えることだ。

「…山崎に資料見せてもらおう」

じっとしていても余計なことばかり考えてしまう。

どうせどう動いたって島から出られるわけではないが、自分の性質上、ならば動いた方が有意義だと考えている。

思い立ったら吉日、と携帯を持って部屋を出て2つ隣の部屋に向かった。

声もかけずに戸を開けると、いくつものスリッパがごちゃっと散乱していて足の踏み場がない。


「きったないなぁ…」


10足ぐらいあるだろうか。

思えば今が使っている部屋にいた山崎と原田、

そして今近藤たちが使っている部屋にいた隊士2人、

そして元々この部屋を使っていた隊士2人の合計6人がこの部屋にいることになる。

そりゃスリッパも多いわけだ。

せめて自分だけでも綺麗にしようと脱いだスリッパを揃えて部屋に入ると、

余裕があるはずの部屋は人口密度が高くみっちりしていた。

部屋の隅で狭そうに小さな円を作ってUNOをしている隊士、

反対側でジャンプを読み回している隊士、

壁側に寄せられたテーブルに山崎の姿を見つけては「あれ?」と首をかしげる。


「近藤さん。土方さんも…」


山崎と向かい合って座っているのは近藤と土方。

総悟はその後ろでUNOに交じっている。

「おう、呼びに行こうと思ってたところだ」

「しかし狭いっすね…何人?6…9…あ、あたし入れて10人か」

は部屋を見渡しながら山崎の隣に腰を下ろした。

テーブルの上には山崎が調べてきた事件の資料が広げられている。

「さっきとっつァんに電話して本庁の人間に失踪事件を調べてもらったんだ。

 運よくパソコン持ってきてる奴がいたからデータベースを送ってもらった」

近藤がそう説明すると山崎が開いていたノートパソコンをに向けた。

慰安旅行に来てまでパソコンを持ってきている奴がいたのか、とは少し呆れたが、

離島で警視庁のデータベースが閲覧できるのは有難い。


「失踪したのは南方千瀬当時15歳。女将の言った通り、10年前この旅館で奉公してたらしい」


パソコンの画面には新聞に載っていたものと同じ顔写真がカラーで映し出されている。

「…あれ……この子の顔…」

は顔写真を見て目を細める。


目にかかるほど長い前髪、肩で切り揃えられた黒髪

不健康な色白の肌

通夜に参加した時撮られたのだろうかと思うほどその表情は暗く、どんよりとしてる。

その白い顔の右半分が、浅黒く変色していて大きな痣のように見えた。


「黒く見えたのは本当だったんだ…」

「先天性の病気か何かじゃないかな」


画面の明暗を調節してまじまじと写真を見ると山崎が横から口を挟んだ。

「両親はどちらも幼少時に死亡、その後町の助産師である南方夫妻の養子にとられている」

近藤の説明を聞きながら画面を見て行くと、夫妻の妻の名前がの目にとまった。

「…南方千泉……」


"千泉さんだっていい加減静かに暮らしたいだろうに…"


そしてふいに町人の話を思い出す。

「この人知ってる!町で名前聞いた!」

「じゃあまだ健在でこの町にいるってことか?」

「事件当時42歳だから…今は52歳か。現住所は分からんのか」

「そこまでは…お千瀬の出生場所すら不明なんです。この島だってことは分かってるんですけど…

 おかしいですよね、小さな町で誰も彼女の素性を知らないんですよ」

4人は画面を覗きこんで渋い顔をした。

「もっかい町で聞き込みするしかありませんね」

「いやお前聞きこみ下手だから駄目だ。今度は俺たちが行く」

「何言ってんですか、土方さんの方がもっと駄目でしょ。銜え煙草で瞳孔開いた警官なんか逃げられますって。

 そいつの聞き込み下手はアンタに似たんですぜ」

後ろでUNOをしていた総悟が口を挟むと土方はその後頭部に殴りかかったが、

総悟がひらりとそれをかわして土方の拳は空振りに終わった。


「もう一度町に出て聞いてみよう。ザキ、お前は残ってもう少し調べを進めてくれ」

「分かりました」


近藤が立ち上がって刀を持つと山崎は敬礼しながら返事をする。

は刀を取りに部屋に戻り、土方も面倒くさそうに腰を上げて後ろの総悟に「行くぞ」と声をかけた。

総悟は「UNO上がり!」と山札に最後の手札を捨てて一抜けし、2人に続いて部屋を出る。






同時刻・従業員休憩室


「なかなか江戸の天気回復しないみたいですね…」


テレビを眺めながら茶をすすり、新八が暗い声で呟く。

半纏を脱いで私服に着替えた万事屋は女将に言われた通り休憩室で寛いでいた。

寛ぐと言っても一刻も早くこの旅館を出たい今はダラダラするのも気が気じゃない。

神楽は酢昆布をかじりながら横にいるが、銀時は横になって先日買ったジャンプを読み直している。

「ゆっくりして下さいっつったってすることねぇしよー

 もう買った土産食っちまうおうぜ」

「だ、駄目ですよ!姉上に殺されます!!」

むくりと起き上がって土産を詰めた袋の中からご当地のお菓子を引っ張り出す銀時。

新八は慌ててテレビの前を離れてそれを止めた。


"皆さんバイト頑張ってきて下さいね。ちなみにお土産はカニとアワビとご当地ポッキーでいいですから"


江戸を発つ前見送りをしてくれた妙は笑顔で高額な土産を注文してきたが、

予算の都合上買ったのはご当地ポッキーだけだ。

バイトを紹介してくれたお登勢には温泉饅頭を買い、同じものを万事屋のお茶受けにも買った。

「銀ちゃーんお腹空いたアル」

「食事はこれまで通り3食賄い出してくれるらしいからいいにしても、

 天気が回復しないことには動きようがねぇってんだからどうしようもねぇな」

横になっていた銀時の腹に神楽がタックルをかましながら倒れ込み、

銀時はそれを蹴飛ばして小さな頭を思い切り叩く。

すると入口の戸をノックする音が聞こえた。

新八が「はい」と返事すると外からゆっくりと戸が開けられる。


「………あの…」


戸を開けて部屋を覗きこんできたのは仲居の一人だった。

外見年齢は40代半ばほどに見えるが、忙しく働いているせいか若々しく見える。

「どうしたんですか?」

新八が伺うと仲居はキョロキョロと辺りを見渡して素早く部屋に入ってきた。

「…真選組の方々と…お知り合いなんですよね?」

「知り合いっていうか…まぁ、はい、そうですけど…」

遠慮がちに問いかけてくる仲居を見て3人は首をかしげる。

「さっき隊士の方たちが話してるのを聞いてちょっと心配になって…

 もしかしたらお伝えしておいた方がいいかと思ったんです」

「…?何をですか?」

仲居はしばらく躊躇った後覚悟を決めたように顔を上げて真っすぐ3人を見つめた。



「10年前に失踪した…お千瀬ちゃんのこと…」



一方、真選組の4人は港に来ていた。

先日万事屋の2人と町を歩いた時、新八はこの辺りで夫の自殺を教えてくれた人がいたと言っていた。

だがここ数日何度も町で聞き込みをしているせいか、

若い2人の男女に銜え煙草の男と神妙な面持ちの屈強な男がプラスされているせいか、

漁師や漁港で働く女性たちはそそくさと建物の中に入っていってしまう。

「ほら駄目だ。土方さんのせいだ。ちょっと、聞き込みする時ぐらい煙草やめて下さいよ」

は不機嫌そうに眉をひそめて漁港を見渡す。

「うるせーな俺のせいにすんな。俺よりバナナ食ってる近藤さんにビビってんだろ」

「…なんでバナナ食ってんですか近藤さん」

「いや腹減ってな。夕飯までまだ時間あるから部屋にあったバナナ持ってきた」

「何で部屋にバナナあるんだよ!?」

「さぁ…仲居さんが茶菓子にって持ってきてくれたんじゃないか?」

近藤はもさもさとバナナを頬張って小首をかしげる。

土方は大きな溜息をつきながら漁港で作業をしている1人の漁師に近づいた。


「ちょっと話が聞きてぇんだが」


懐から警察手帳を取り出し、男に見せながら声をかける。

新八や神楽が声をかけた時はまったく取り合おうとしなかった漁師だったが、

強面の男に警察手帳を見せられると一瞬身構えた。

「南方千泉って女を探してる。この島に住んでるはずだ。何か知らねぇか?」

なんやかんや言って聞き込みというより尋問に近いな、と思いつつも漁師の男を見つめる。

男は少し訝しげに4人を見ると首をかしげて土方に視線を移した。

「…警察が今更あの人になんの用だ」

「10年前の旅館従業員失踪について調べてる。その千泉って女に詳しく話を聞きたいんでね。

 知ってることを教えてくれると助かるんだが」

網をまとめる手を休め、漁師は険しい表情で顎鬚を撫でる。

「……あの旅館で何かあったのか?」

そして反対に聞き返してきた。


「聞きたいのはこっちですよ。あの旅館、一体何があったんです?」


横にいたが口を開く。


「顔半分に痣がある女の子とか…喪服の女とかつるばみの実、とか?」


が首をかしげると漁師の表情は一層険しくなった。

冬だというのに額に汗が滲んで見える。

そして観念したように溜息をつき、首に巻いていたタオルでその汗をぬぐった。

「…今更アンタらが何かしてくれるとは思わねぇが、少しでも進展すりゃ千泉さんも楽になるのかもしれねぇな」

男はそう言って停めていた船に乗り込むと操縦室から何かを持ってきて再び沖に上がってきた。

4人に差し出されたのは島の地図だ。


「あの人はこの島の最南端、町と全く反対方向に一人で住んでいる」


土方が受け取った地図をみんなで覗きこむ。

地図で指されたのは今自分たちがいる漁港の反対側だ。


「…あの事件を解決してくれるなら会いに行ってみればいい。

 ただ過去を掘り返したいだけなら帰ってくれ」


漁師はそう言って4人の傍を離れて行く。



「「「「………………」」」」



4人は上げた顔を見合わせた。



「…行くか」







To be continued