コーローコーローつるばみのー
ころげた実を追う神無月ー
百舌が先行き啄ばんだー
コーローコーローつるばみのー
袷の衣裏にせばー
我れ強ひめやもー君が来まさぬー
■大江戸怪談チャット■
mi_yu:何その歌
shiera:あたしそれ知ってるかも
shiera:昔寺子屋で聞いた
shiera:童歌みたいなやつでしょ?
saxdaxkox:あれ続きあるらしいよ
saxdaxkox:でも誰も歌わないんだって。
mi_yu:なぜに?(°Д°)?
saxdaxkox:3番からは、「呪い歌」なんだって。
mi_yu:呪wwwwww
saxdaxkox:人の呪い方を細かく歌ってるから、知ってても絶対歌っちゃいけないんだって。
shiera:かごめかごめみたいな?
mi_yu:日本の童謡って何気怖いの多いよねー
shierau:…誰か続き知らないのかな?
saxdaxkox:年寄りなら知ってんじゃない?
saxdaxkox:でも
saxdaxkox:知っても歌わない方がいいって
saxdaxkox:かなりヤバイって話。
つるばみの詠
1月某日・江戸
師も走るほど忙しい12月を乗り越えて年を跨ぎ、
そろそろ世間が正月休みを明けてのそのそと動き出すという頃。
年末はあれほどひっきりなしにゲートを開閉して貿易船が出入りしていたターミナルも今は落ち着きを取り戻している。
人々が休みの気だるさを引きずって過ごす中、江戸の中心部では帯刀した黒服集団が今日も休むことなく働いていた。
「はーいそこのバイクー追い越し禁止だよー混んでんだから」
笛を銜えた少女は首元にマフラーをがっちり巻いて防寒装備して、
渋滞している道路の脇で交通整備に追われていた。
今年は例年になく豪雪で、ターミナルへ伸びる首都高はひどい渋滞だ。
今日から仕事初めという人も多いから車も多い。
よく音の通る笛を銜え、右手には赤く光る誘導棒を持ってその渋滞の列を整えるのが今日の仕事だが、
こうも寒くて全く動かない車を見ていると運転していないこちらもイライラしてくる。
様々な悪条件が重なるこの季節、正月休みを返上してまで働かねばならないのには理由があった。
「…ッあ!!コラ追い越しすんなっつってんだろーがァ!!!
その高そうなバイク縦に半分にされてーのかオイ!!!」
少女の警告を聞かず追い越し車線に入って車の間をすいすいとすり抜けて行くバイク。
少女は腰の刀を抜いてバイクに向かって怒鳴りつけた。
お構いなしに先へ進んで行くバイクを睨みながらはぁっと溜息をついて前髪を掻き上げる。
武装警察真選組
江戸の平和を守る彼らには正月休みもクソもあったものではない。
「ちッ…ルール守れねぇ奴は勝手に事故ってろってんだ…」
朝からぶっ続けの交通整備に嫌気がさして警察らしからぬ言葉が出る。
「正月から大変だねぇちゃん」
「お役人は休み返上かい」
渋滞待ちしていた車の窓が開いて運転手たちが女隊士に声をかけた。
「そうなんだよ全く…いいよねぇ正月休みある連中はさ!」
銜えていた笛を口から放した女隊士はガシガシと頭を掻いて一般市民をじろりと睨みつける。
警察がこんなところで一般市民に愚痴をいっても仕方がないのだが、
とにかく今はこのイライラを誰かにぶつけたかった。
「まぁそうカリカリなさんな。これでも飲んで頑張んなよ。
俺らも渋滞待ち頑張るからさ」
中年の男性ドライバーはそう言って車においていた缶コーヒーを差し出してきた。
受け取った缶はまだほかほかと温かい。
「ぅわっ、あったかーい!ありがとー!
寒くてマジやってらんなかったんだよね!」
熱い缶コーヒーをカイロ代わりに頬に当てる女隊士・は
江戸を騒がせる問題隊士だが、それと同時に江戸の住人にはそれなりに支持を得る隊士でもあった。
攘夷戦争で両親を亡くし、局長である近藤の道場に引き取られて以来ずっと、彼女は男所帯の中で一人奮起している。
時には上司の命令でミニスカポリスに扮し、
時には幕府が最も危険視する攘夷志士と刀を交え、
時には攘夷浪士の襲撃に合って重傷を負い、
時にはクリスマスでも指名手配中の攘夷志士を追いかけ、
時にはビキニ姿で江戸の海の平和を守り、
時には宇宙最強の戦闘種族と戦って肩を粉砕骨折する
彼女にとってそれらは、有り触れた日常の中のほんの一部に過ぎない、
忙しなく酷く安定性のない日常の、ほんの一握り。
真選組屯所
「あーッ寒かったぁ!」
交通整備から戻ったは暖房の効いた広間に駆け込み、ストーブの前にべしゃっと倒れ込んだ。
「だいぶ冷え込んできたなぁ」
既に広間で寛いでいた近藤が見ていた新聞を畳んで僅かに開いていた襖を閉める。
ピタン、と閉める寸前に隙間から冷たい北風が広間に入ってきた。
「雪、降りそうですね」
「武州は割と積もったらしいぞ」
畳に突っ伏せながらチラ、と後ろを振り返るを見て近藤は補足を入れると、
再び新聞を開いて続きを読み始めた。
すると程なくしてその襖が外側から開けられた。
「…邪魔だな…ンなとこに突っ伏せてんじゃねーよ。ふんづけるぞ」
襖を開けて暖をとりにきたその男は煙草を銜えたまま訝しげにを見下ろす。
「どうぞご自由に。土方さん如きの体重であたしの凝りが解れるとは思えませんけど」
「んだとコラ!!膝裏に踵落としして皿割ってやろうか!?あァ!?」
鬼の副長・土方は煙草を落としそうなほど大口を開けて部下を怒鳴った。
副長が座るべきスペースに平隊員がうつ伏せで寝そべっているのはまだいいとして、(長い付き合いだから)
彼女が明らかに悪意を持って嫌味を言ったことが気に入らなかったらしい。
そうは言ってもどうせやらないだろうと分かっているは変わらずストーブの前に寝そべってテレビのリモコンに手を伸ばした。
土方は近藤に「まぁまぁ」と宥められてぶつぶつ文句を言いながらその奥にどかっと腰を下ろす。
「お望みなら俺が皿叩き割ってやろうか」
再び頭上から声が降ってきたかと思うと、膝裏をぐにっと踏みつける足の感触。
「っやめろやめろやめろ!お前はマジでやりかねねーから!!」
慌てて寝返りを打って目の前に仁王立ちする隊士を見上げた。
同い年の隊士・総悟はスラックスのポケットに両手を突っ込んで相変わらず覇気のない顔でを見下ろしている。
は総悟を睨みつけながらむくりと起き上がり、テーブルに向かい合って膝を折った。
総悟はその横に腰を下ろして胡坐を掻くとテーブルの籠からミカンを1つ取って皮を剥き始める。
「外の様子はどうだ」
「どこも変わりませんよ。スゲー渋滞でさァ。
ったく、どこも混んでるって分かり切ってんだから黙って家にいりゃーいいのに」
車がゴミみてぇだ、とどこかのファンタジーの悪役みたいなことを言って総悟はミカンを口に入れた。
「全くですよ。おかげであたしらはまとまった休みもないし!」
もミカンに手を伸ばして大雑把に皮を剥きながら唇を尖らせた。
近藤は「そうだな」と苦笑しながら新聞を畳む。
先ほどがつけたテレビは丁度ニュースをやっていて、アナウンサーが道路交通状況を説明すると画面の下にテロップが映し出された。
"大江戸高速:ターミナルまで5kmの渋滞"とある。
「…今年は新年会も難しいなぁ」
近藤がぼんやりと呟くと、
「おーう、丁度いい具合に揃ってんな」
再び襖が開いて一人の男が広間を見渡した。
「「とっつァん」」
部屋の前に仁王立ちする悪人面の中年オヤジ。
警視庁のドン・松平片栗虎。
白髪のオールバックに大きなサングラスと銜え煙草という風貌はどこから見てもヤクザそのものだが、
この男こそ真選組を江戸へ進出させたたちの恩人とも言える存在だ。
恩人であると共に何かと面倒事を持ち込んでくるのもこの男で、
が「上司の命令でミニスカポリスに扮し」たのは紛れもなくこの男の馬鹿げた所業のせいだった。
「あぁぁ寒いなチクショー、この広間こたつにした方がいいんじゃねーか?」
松平はそう言って素早く襖を閉めると肩をすくめながらストーブの前にしゃがみこむ。
「いや…どうしたんだよとっつァん、なんか事件でもあったのか?」
あっという間に人口密度が高くなった広間は煙草のにおいが充満する。
と総悟は構わずそれぞれ2つ目のミカンを剥き、近藤と土方が松平を目で追って首をかしげた。
仮にも警視庁のドン、用もなく屯所まで遊びに来るほど暇な男ではないはずだ。
「事件だ?なんだテメーらそんなに事件追いてぇのかよ。
せっかくオジさんがいい知らせを持ってきてやったってのに」
松平はそう言って立ち上がり、と総悟の間にずいっと割り込んできて1枚の紙をテーブルに叩きつけた。
「聞いて喜べ野郎共」
4人は一斉にテーブルの上の紙を覗き込む。
「慰安旅行だ」
1枚の紙にデカデカと書かれた「真選組慰安旅行」の見出し。
その下には「伊豆大島3泊4日」とある。
カラーで印刷された写真には海の臨める高台に大きく立派な旅館が映っていて、
「天然温泉・露天風呂・新鮮な海の幸で冬の伊豆大島を満喫!」と謳い文句が書かれてあった。
向かい合わせに座る近藤とは顔を見合わせる。
「「マジでかァァァ!!!!!!」」
5日後
真選組一同は江戸から船で伊豆大島へとやってきた。
独特の潮の香り。忙しなく漁港を行き来する漁師たちとそのお零れにありつこうと寄ってくる鴉やウミネコ。
海辺は日差しを浴びてきらきらと反射し、時折ウミネコがその海面に顔を突っ込んで魚を食べる姿が見える。
来る前に天気予報でみた現地の気候は週間を通して晴れが続き、波も比較的安定していると言っていた。
だが船を降りた瞬間耳の横を吹き抜ける風はやはり冷たく、
が首に頑丈に巻いていたマフラーの先が頭の後ろで靡いた。
「うわぁ…」
は堤防から山沿いに見える旅館の紺色屋根を見て声を漏らす。
漏らした息は白くなって海風に消えた。
「いやぁ、とっつァんも太っ腹だなぁ。いくら知り合いの伝手とはいえあんな立派な旅館を用意してくれるとは」
「つーか…4日も休んで大丈夫なのかよ」
日差しの眩しさに目を細め、瞼の上に手で傘を作る近藤の横で土方は少し呆れたように無粋なことを言った。
「とっつァんがいいって言ってんだから大丈夫だろう。
そうそうデカイ事件も起こらんさ」
「こんなトコまで来てテンション下げるようなこと言わないで下せェ。
嫌なら帰ったらいいんじゃないですか?っていうか帰れバカ」
「誰も帰るなんて言ってねーだろ!4日間全力でエンジョイすりゃいいんだろ!!」
「ちょっとやめて下さいよこんなトコに来てまで」
船が離れて行く堤防でいつも通りの会話をした後、一同は荷物を持って旅館へと向かった。
港から屋根が見えるだけあって徒歩でもさほど距離がなく、
港町の緩やかな坂を10分ほど歩いたところにその大きな旅館は聳えたっていた。
5階建てで江戸の高層ビルに比べるとさほど高さはないが、その分横に広い立派な佇まい。
濃紺の瓦屋根は周囲の景色と見事に調和している。
歴史を感じさせる木造の造りは上品さがあり、海側からは天然温泉の湯気が立ち込めて硫黄が香ってきた。
正月休みを抜けたこともあり旅館周辺は静かで、駐車場の奥にある庭園には老夫婦の客の姿が見える。
「ようこそいらっしゃいました」
入口に近づくと数人の仲居が恭しく頭を下げて出迎えた。
近藤が「お世話になります」と挨拶して一同は旅館の門をくぐると
「らっしゃいませー」
前方から気の抜けた男の声。
なんだやる気のない従業員だな。
そう思ったが顔を上げると
「「………あ」」
と従業員は同時に短い声を発した。
旅館の名前がプリントされた羽織を着た男の横には、同じ羽織姿の2人の少年少女も並んでいる。
1人はオレンジ色の髪を2つの団子にしてぼんぼりでまとめた13〜4歳の少女
1人は眼鏡という以外はとくに特徴のない地味な少年
そしてもう1人は銀髪の天然パーマを北風に揺らした、覇気のカケラもない男だった。
To be continued
アンケートで冬のホラーが読みたいというお声を多数頂きましたので真選組でホラー。初体験!
学園・西洋とやってみたので和製ホラーが書ければいいなぁ…
10話以下でまとまれば中編扱いにしますが多分まとまらない(笑)お付き合い頂ければ嬉しいです。
「橡の袷の衣裏にせば我れ強ひめやも君が来まさぬ」/万葉集から