さわってみたいなぁと無意識にぼやいたら
横にいたクラスメイトに汚物をみるような目で見られた。
その顔すごく不細工だからやめた方がいいよ、と言ったら
いやお前こそやめた方がいいよ、と言葉を返された。
そこにタッチ
「岡村くんがモテないのは、モテないモテない騒ぐからなんだ」
体育館の壁に寄りかかり、腕を組んでそう呟くと
隣にいたそのクラスメイトが眉をひそめてこちらを見てきた。
「…いや、それだけじゃねーと思うけど」
根本的に。そう言って福井は再びコートに視線を戻す。
戻したところで、今は休憩中だからコートには誰もいないのだけど。
「ああいう人は、送信アンテナしか立ってないから肝心な電波は受信できない」
「あーまぁ、受身ではないと思うけど」
「逆にアンタみたいに受信アンテナしか立ってない奴は余計な電波も受信しちゃって一途になれなそう。一人相撲しそう」
「…なんだ今日随分機嫌悪ィな…俺にあたるなよ」
福井は再びこっちを見て顔をしかめた。
あたってないよ、と視線を落とすと嘘つけと舌打ちされた。
「…アツシくん、手ぇ出して」
項と背中がくっつくくらい見上げて傍にいた1年生に声をかける。
「なにー?なんかくれんの?」
アツシくんはその大きな手をこちらにぬっと差し出してきた。
ぽふん、とその手に自分の手を乗せる。
「…何?」
「…なんか違うなぁ…」
そのまま大きな手の平をにぎにぎしたり、指の腹をぷにぷにしたりしてみた。
きれいな五角形の手の平は肉厚でそこから伸びる指は同じ人間じゃないみたいな長さをしていた。
「あっついから、何もくれないなら離して欲しいんだけど」
「ごめんごめん。飴ちゃんあげよう」
ぱっと手を離してジャージのポケットから飴を取り出した。
熱中症対策でいつもポケットに塩味や酸味の強い飴を入れていたから、
たまたま引き当てたレモン味の飴をアツシくんにあげると「ありがとー」と言いながらその場ですぐ口に放り込む。
「劉くーん、ちょっと手ぇ出してー」
標的を変え、何も知らない二年生の手を問答無用で握る。
「あー違う。遠のいた。指が長すぎる」
「いきなりセクハラしといて何言ってるアルか」
「セクハラなんて言葉どこで覚えたの…いや、いい手だよ?陽泉の未来を担う立派な手だ」
「取って付けみたいに言われても嬉しくねーアル」
唇を尖らせる後輩も可愛いのだけど、まぁまぁと宥めるのもそこそこにして本陣を見つめた。
「今から本陣攻めるから、オラに力をくれないか」
少し離れたところで監督と話をしている岡村くん。
くるりと踵を返し後輩ズを見ると、アツシくんは長い首をこてんと傾げた。
「飴、もう噛んで飲み込んじゃったからないよ?」
「そうか、その気持ちだけで十分だ」
「サイヤ人アルな!?頑張るアルお前がナンバーワンアル!
どこ攻めるのか全く分からないけど!」
中国にも日本のアニメが浸透しているというのは本当らしく、
劉くんは目を輝かせて右手を挙げてくれた。かわいいなこのやろう。
よし、と気合をいれると丁度監督と話を終えた岡村くんがベンチに戻ってきた。
同時にわたしはベンチから離れる。
「岡村くん」
つかつかと歩み寄って彼の名前を呼ぶと結構な距離を開けて立ち止まってくれた。
「どうした」
「…手ぇ出して」
「は?手?」
岡村くんが半歩たじろぐくらいの剣幕で後輩ズにも頼んだことを頼んだ。
岡村くんは不審がりながらも「こうか?」と右手を差し出してくれる。
広げられた右の手のひらを見て、おぉ…と声が漏れそうになった。
アツシくんのに似てるけどアツシくんより手の平の幅が大きい。
指は大げさな話わたしの小指2本分で1本という感じ。
長さは多分アツシくんよりは短い。爪も横長で大きい。
節々がしっかりしていて、少し歪な関節が突き出てて、手相がはっきり見えていた。
「…握ってみてもいい?」
「…は!?何で!?いやいいけどいや何で!?」
びっくりするくらいの速度で手を引っ込めて真っ赤な顔をされた。
「大丈夫…!わたしさっきトイレ行ったけどちゃんと手洗ってきたから!」
「いやそれならワシもさっきまでボール触ったり汗拭いたりしたけど!?」
「気になるんだったらほら!これで!」
ベンチに置いてあった誰のか分からない制汗剤をぶん取り、それを思い切り自分の手に噴射する。
両手をばっと開いて手が綺麗なことを見せつけると岡村くんは目を泳がせていた。
「い、いや…汚いとかそういうことを言ってるんではなく…
ワシの手なんか握っても何も出て来んぞ…?汗ばんでるし蒸れてるし」
ああやっぱり
アンテナ立ってない
「そこがいいっていう女子もいる」
「…いや…うん、あの、よく分からんが…」
岡村くんはそう言って、引っ込めた手を再びおずおずと差し出してくれた。
だけどハッとして右手をわざわざジャージの裾で拭いてから再度差し出す。
やさしい人だなあ
私もつられておずおずと手を差し出して、ぽすん、と手を重ねてみる。
岡村くんの体がびくっと強ばったのを手の平越しに感じたけれど気にしない。
「…へへ、想定以上だ」
生憎手の平全部は握りきれなくて親指を除く4本の指を握るかたちになった。
だけど指の皺の1つ1つをダイレクトで感じて、
固くてけれど柔らかいタイヤの切れっ端みたいな手の熱を感じたら笑ってしまった。
心地よくて、ずっと触っていたら眠ってしまいそう。
岡村くんは相変わらず顔を真っ赤にしたまま「そうか…?」と首を傾げていた。
握り返して、って言ったらさすがに怒られるよなぁ
(……あ)
握手してって言えばよかった。
「…福井、ワシモテ期来たかもしれん」
「普段なら自惚れてんじゃねーよゴリラっていうところだけど、
今回はそうかもなって言っとくわ」
「…女子の手ってちっこくて柔こいんじゃのう…」
「お前が言うと犯罪の匂いがするな…?」
「何で!?」
陽泉企画第2弾は岡村くん!
我らが主将男前すぎて…なんであれでモテないん…
ただやっぱ公式で自称モテないって言ってる子は
ヒロインのパターンが短調になるのでむつかしいなと思います…修行…