どうぞ、狙い打って下さい。




脳天から爪先を貫いて、

この小さく醜い臓物の全てを焼き焦がして

骨幹を引き裂いて


不味い血の一滴一滴も、貴方様の為に在ればよいと思うのです









神雷が猫を打つ-最終話-










信濃・上田城


城の周囲に馴染みの忍の気配はなかった。

恐らく総大将の命で上田を離れているのだろう。

出来るならその忍に書状を預けて早々に上田を離れたかったが、今はその忍と話をするのも億劫だ。

要らぬことを聞かれて長話になるのは目に見えている。

でも、と城内を見渡すと深紅の鎧が横切る。

まだマシかと判断するとその鎧を追って中庭の木に飛び乗った。

結局、直接用があるのはあの男なのだから。



「真田殿」



いつものと違う忍の気配に気づくのが遅れたのか、真田幸村は驚いたように顔を上げて中庭を見る。

「…そなたは…伊達の…!」

は縁側の前に降り立って膝を着く。

幸村も慌てて縁側に出てきた。


「政宗殿が深手を負われたと聞いた…!大事はないのでござるか!?」


が口を開く前に幸村が切羽詰まった様子で問いただしてきた。

一から説明する手間が省けたは一瞬説明する順序を戸惑ってしまう。

「…回復に向かっております。大事はございません」

「そうか…ようござった…」

が冷静に答えると幸村も強張っていた肩の力を抜いて幾分表情を和らげた。


「政宗様から…これを預かっております」


懐から書状を取り出し、幸村に差し出す。

幸村は書状を受け取って中身を取り出し立派な字で書かれた文面に目を通していく。

その顔色はみるみるうちに血色がよくなって覇気に溢れていくのが見て取れた。

文の内容を知っているにとってその反応は予想通りなのだが、

ここで少しでも険しい表情をしてくれれば右目の副将の気苦労も減るかもしれないのに、と思った。

幸村はバッと顔を上げて晴れ晴れした表情でを見る。

「喜んでお受けするとお伝え下され!」

「はい。確かにお伝え致します」

は頭を下げて早々にその場を去ろうとしたが幸村は更に続ける。


「そなたや片倉殿のような従者がいれば政宗殿も安心して療養することが出来るな」


それを聞いたは顔を上げた。

見上げた男の顔に曇りはなく、嫌味でも何でもなく素直に心の丈を述べただけといった感じだ。

だから性質が悪いのだとは思った。



…だから苦手なんだ。この人は。



しばらく黙って言葉を選んだが次第にそれも馬鹿らしくなって、

相手に気付かれぬよう浅く溜息をついた。


「……私は猿飛殿を羨ましく思ったことがあります」


わざとらしく言った。

だが恐らく暖簾に腕押しだとは思った。

幸村は何がだという顔で首をかしげる。


「いつも笑って貴方の話をなさる」


恐らくそれは違う。

自分にそう見えてしまうだけだ。

自分がこうも頑なであるせいで(主の言う"頭の固ぇ奴"とはこのことなのだ)

へらへらと笑うあの忍との会話を思い返す度、そんな錯覚をしてしまう。



「…そなたは違うのか?」



は顔を上げて思わず眉をひそめる。

自分を見下ろす視線は真剣だ。


「そなたは政宗殿の名を口にする時、口調が和らぐ」

「、」


は僅かに相貌を見開いた。




…ああやっぱり




苦手だ。





「………失礼致します」


泳ぐ目を誤魔化して先に顔を逸らし、再び木に飛び乗る。


殿」


すぐに枝を蹴ろうとしたが名前を覚えられていたことに驚いて立ち止まってしまった。


「来春を楽しみにしていると、この幸村全力でお相手致すとお伝え下され。

 そしてそなたとも、伊達の忍として改めて合間見えることを心待ちにしている」




----------同じ目をしている。





怖い程に。






「……承知」


言葉少なく頷き、素早く城を飛び出す。

傾きかけた陽を木々の間から見上げて速度を上げ、城の真後ろに位置する大木に抜けたところで

正面から感じ慣れた気配が近づいてきた。


「お」


向こうもこちらに気付いたようだったが、は相手を一瞥しただけで素通りしようとする。


「ちょ、ちょっとちょっと!無視はないんじゃないの、無視は!」


黒い篭手が伸びてきて蒼い頭巾の根元をぐいと引っ張る。

首が締まって減速を余儀なくされたは仕方なく立ち止った。

「上田に何の用?ついに命令無視して旦那暗殺でもしに来た?」

「…次にそれを言ったら殺す。っていうか…離して。変なところ掴まないで」

主が暗殺を禁じていることを知りながらわざとらしい皮肉を言う佐助に苛立ちつつ、頭巾を掴んでいる手を掃った。


「聞いたよ。独眼竜に化けたんだって?見たかったなぁ」


頭の後ろで手を組んで幹に寄りかかりながらまたもわざとらしく言った。

は締まった襟巻を戻しながら横目で佐助を睨みつける。

「髪と睫毛もバッサリ切っちゃって勿体ねェなー。旦那絶賛してたよ。

 まぁお前元々男顔だし、胸も尻もかすがの半分以下だから無理なく出来たんじゃね?」

「…褒めるか貶すかどっちかにしたら」

くノ一として動いていた時は若干貧相な身体で苦労したこともあったが、

今はこの身体と顔付きを喜ばねばならない。

だがそれを改めて他人に指摘されるとさすがにむっとした。


「独眼竜、怪我したらしいじゃん。大丈夫なの?」

「あんたの主に全部話した。主に聞いて」

「そりゃないっしょー旦那経由で聞くと話が5割くらい削減されて知らされるからさー」


大事はないらしい、それより聞いてくれ一騎打ちの果たし状を、きっとあの男はこう続ける。

もそれを想像して浅く溜息をついた。

「…傷自体は大したことはない。回復に向かっておられる」

「そ。安心した。安否分かるまで旦那が煩かったからさァ」

「………………」

からからと笑う佐助をよそには本来の目的よりも、先ほど立ち寄った近江のことを思い出していた。



「……魔王の妹に、会ったことがある?」



そして珍しく自分から口を開く。

佐助は目を丸くして首をかしげた。

「あるよ。仕事で一回姉川に行ったから」

「…………そう」

未だ体に残る不気味さに軽く身震いすると、佐助はが言わんとしていることをだいたい予想した。


「あの女に何か言われた?」


は顔を上げる。

間違いなく、市の言っていた「忍」とはこの男のことだと思った。

が黙っているのを見て佐助は苦笑のような嘲笑のような表情を浮かべる。

恐らく自分が彼女に言われたことを思い出したのだろう。

「それで?自分はもうそっち側じゃないって腹が立った?」

ぴく、との肩が動く。

反論しようとする前に佐助は鼻で笑いながら肩をすくめた。

「確かにお前はもう暗殺も密偵もしないかもしれないけど、今までのがチャラになるわけじゃないし

 主が何と言おうとお前は死ぬまで忍だろ?身の程を知れよ」

完全に挑発するような言い方だったがは自分でも驚く程冷静だった。

もともとこの男が何を言おうと関心がなかったが、今はそれを受け流すというより正面から突き飛ばす覚悟がある。

「独眼竜の旦那が考えてることは分かるけどさ。

 だったら別に傍に置くのはお前じゃなくてもいいわけで…」

「…何イラついてるの」

は溜息をつきながら佐助の言葉を遮った。


「またあの人にこっぴどく振られた?」


侮辱を込めて無表情に言い放つ。

図星を突かれたのか、佐助は目を丸くして二、三度瞬きをしてから苦笑した。

「…お前、相変わらず可愛くないね」

「どうも」

その場を去ろうと佐助に背を向けると



「お前まであいつみたいになるなよ」



次の瞬間、は枝を蹴ろうとした右足を上げて背後に振り切り、

上半身を捻らせて佐助の顔面目掛けて後ろ回し蹴りを叩きこむ。

踝に収納していた隠し刃が剥き出しになって佐助の鼻先すれすれのところで止められていた。


「…相変わらず、惚れ惚れする蹴りだよなー」


佐助はそう言って笑いながら左手での足首を掴み、右手での膝を覆う。

「、」

そのまま膝にミシリと力をかけられ、危険を察知したは腰から多節棍を抜いて勢いよく薙ぎ払った。

佐助はの足を解放しながら距離をとって難なくそれを避ける。

も飛び上がって違和感の残る右足を庇うように左足から着地した。

「……悪趣味…」

「いやお前足癖悪いからさ、皿割るのがてっとり早いじゃん?

 ま、今ここでお前と戦りあったら旦那にどやされるからやらないけど」

はは、と笑う佐助とは裏腹にの額には冷や汗が滲む。

は右の踝を左の脛当てにぶつけて刃を収納させると蒼い頭巾を目深にかぶった。

「…今度馬鹿なことを言ったら、この足その口に突っ込んでやる」

「ちょっとちょっと、いつかの貸しまだ返してもらってないんだけど?」

頭巾と繋がった襟巻を直しながら僅かに背後を振り返って勢いよく枝を蹴る。


「近いうち戦で返す」


一瞬僅かに枝が揺れると気配は既に遠い。

佐助は思わず吹きだしてやれやれと頭を掻いた。


「…どこまで主に似るんだよ」






川中島

静かに流れる二つの川の合流地点。

今が乱世であることを忘れてしまいそうなほど長閑な風景だが、

川辺に並ぶ木の上に立った一人の忍は険しい表情でその景色を見つめていた。

均整のとれた体の輪郭がくっきりと分かる黒い影。

木々の緑に全く融け込まない金髪が風に靡いて傾きかけた陽に妖しく光る。

(まだ武田に動きはないか…いや、むしろ懸念すべきは豊臣と伊達だ…

 独眼竜が相模で怪我を負ったという話が本当ならば出陣にはまだ時間がかかるはず…)

誰も居ない草原を見つめながら思案を巡らせていると、近くの叢から視線を感じて勢いよく枝を蹴った。

視線の先に苦無を投げつけると同時に叢へ飛び込み、次の苦無を構える。

「……っ」

飛び込んだ先の枝に立つ影を見て目を見開き、構えた苦無を下ろした。


「………」


投げた三本の苦無は多節棍の鎖の輪に綺麗に嵌っている。


「…お久しぶりです。かすが姐さん」


は鎖に嵌った苦無を抜き取って郷の先輩くノ一に投げて返した。

「お前が伊達軍についてから会うのは初めてだな…」

「ええ。元気そうで何よりです」

本当にそう思っているのか分からないぶっきらぼうな言い草も相変わらずだ、とかすがは少し安心した。

最後に姿を見たのは彼女がまだ豊臣軍にいた頃だが、

最後に言葉を交わしたのは三年前、織田による松永攻めの直前だ。

あの頃は少し心配になる細さと血の気をしていたが、今は少し健康的になった気がする。

「近江で浅井長政の話を聞くことが出来ました。

 豊臣軍は既に近江から撤退。稲葉山に戻り、近々川中島での武田・上杉の動きを窺うつもりのようです」

「…っ本当か…!?」

の淡々とした説明を聞きかすがの顔色が変わった。

「早く謙信様に伝えなければ…!」

「武田勢に伝えるのを忘れました。機が出来たら伝えて下さい」

変わらぬ口調で続けるの言葉にかすがは丸くして一瞬硬直する。

「……何故私が」

「また上田に戻るのは面倒なので」

はそう言って頭巾を被る。

ここからなら越後へ戻るかすがが信濃に向かうよりが戻った方が早いのだが、

はまるで悪びれた様子もなくけろっと言って退けた。

枝を飛び移りその場を去る準備をすると


!」


呼び止められて素直に立ち止り振り返る。


「…私を、軽蔑するか?」


後ろめたそうに、しかし確かな口調でかすがは言った。

まるで先ほどまでの佐助との会話が筒抜けだったかのようだ。

は静かに首を振る。

「…忍も人間です。どんなに機巧のように動こうとも」

そう言って恭しく頭を下げ、枝を蹴って北へと急ぐ。

小さくなっていく背中を見つめ、かすがは浅く溜息をつきながら南西の方角を見つめた。

このまま越後に戻ろうと思っていたが思い直し、

しぶしぶと信濃の森の中へと駆けて行った。







奥州の国境を越えた頃、空気が変わった。

暮れた陽で低下した気温のせいだけでなく、張りつめた寒気が吐く息を白くさせる。

襟巻を鼻まで上げて森を出るとその向こうに広がる城下の光景に思わず息を飲んだ。

田畑や民家の屋根をうっすらと染めている雪。

僅か数刻の間に積もったようで、冬の訪れに包まれた町はまるで時間が止まったように身動き一つ見せなかった。


(…冷えるわけだ…)


襟巻を下げて冷たい空気を吸い込むと焚火の燃え残りや枯れ草など冬独特の匂いがする。

軽く身震いしながら城門の屋根に飛び乗り、主の部屋の上に着地したその瞬間


「…、わっ」


瓦屋根に薄く積もった雪で足袋が滑り、重心が崩れてそのまま屋根の上で横転した。

下になった左頬が雪に埋もれて冷たい。

「…………………」

屋根の上で転んだのなんか初めてだ。

自分を叱咤しつつ雪を掃って立ち上がる。

屋根を歩くことは諦めて廊下に降り、灯りのついている主の部屋へ向かった。


「政宗様」


部屋の前に正座して声をかけるとすぐに「入れ」と返事が聞こえる。

両手で障子を開けると政宗はいつもの定位置で胡坐をかいていつものように勢力図を見つめていた。

その右手にはまだ包帯が巻かれていたが、猪口を握っているところを見ると不自由はしていないようだ。

「Good job、西国はどうだった?」

「は、政宗様のご予想通り既に浅井が落ちていました。

 浅井長政、妻お市共々無事の様子。次に豊臣が動くは川中島やも知れません」

後ろ手で障子を閉め、再び部屋の中で正座して報告する。

「HA!武田・上杉の様子見ってか?漁夫の利を得るにしちゃー賢くねぇな」

政宗はそう言って猪口に注がれた酒をぐいといっきに飲み干した。

「まぁ何にせよそのまま三つ巴になってくれりゃ動きやすくなるな。春日山はガラ開きってわけだ」

空になった猪口は床に置くとコン、と小気味のいい音を立てる。

政宗は徳利の上に逆さにしていたもう一つの猪口を持ち、それをに差し出した。

は猪口を見下ろして目を丸くする。

「飲めよ」

「…え…!い、いえ私は…!」

が慌てて首を振ると政宗は無理やりその手に猪口を持たせて徳利を傾けた。

必然的に両手で猪口を持って酒を注がれる形になってしまう。

忍として働いて十数年、主に酒を注がれるなど初めてのことで珍しく緊張してしまった。

「小十郎だって俺が注ぎゃ飲むんだ。黙って飲め」

徳利の縁をの猪口にコンとぶつけて嬉しそうに笑う。

は揺れる酒の水面を見つめて困った顔をした。

だがこの状況で断るわけにもいかず、「いただきます」と一礼して口へと運ぶ。

猪口に口をつけるとそのままいっきに酒を飲み干した。

「いい飲みっぷりだ」

政宗は満足そうに笑ってを指差す。

ひどく久しぶりに体に入った酒はいっきに体に巡り、猪口から口を離すと吐息が熱かった。


「…雪が降ったな」


格子窓を僅かに開けながら政宗は呟く。

「お前、さっき屋根の上ですっ転んだだろ?」

「……っえ!」

クッと喉で笑う政宗の言葉には慌てて顔を上げた。

の反応を見た政宗はニヤリと笑う。

「音がした。あと左の頬だけ赤ぇ」

ついでに襟巻も濡れてる、そう言って肘掛に頬杖をついた。

は赤面してばつが悪そうに目を泳がせる。

いくら雪が積もっているとはいえ屋根で転ぶ忍など聞いたことがない。

だが政宗はそれを叱るでも軽蔑するでもなく軽快に笑って格子戸を閉めた。


「奥州の冬は厳しいぞ。覚悟しとけ」


籠った部屋の空気が一瞬で入れ替えられて、残り短い蝋燭の火が揺らめく。

決して温かくはない部屋だがの表情は緩んだ。



「はい」



寒雷が近づく

高い空に偏西風が連れてきた巻雲が漂い、ぽっかりと不気味に浮かんだ積乱雲が雨脚を誘う。

その雨がこの雪を解かすものなのか、上空で凍って再びこの地に積もるものなのか、二人にはまだ判断できない。


鈍い胸の痛みさえ心地良いのは酒のせいだけではないと思った。


は徳利を持って政宗の猪口に酒を注ぐ。

政宗は一口飲み、空になったの猪口にも酒を注いだ。


ぽかぽかと体が温まっていくのも、酒のせいだけではないと思った。








春・奥州国境

まだ僅かに雪の残る奥州の山奥

雪解け水が流れて増水した川は流れが速い。

待ち焦がれた春の森に餌を求めて動き始める小動物たちは木々を機敏に動き回り、

長い冬眠から目覚めた熊は激流に憶することなく川辺を目指す。

自然の生態系の中に侵入してきた影をいち早く察知した山鳥が枝を飛び立つと、

その場所に忍が着地して枝が僅かに揺れた。

蒼い襟巻を靡かせる忍は再び枝を蹴って芽吹き始めた緑の中に気配を散らせながら森を抜ける。

付近の森が一望できる崖の上にいるはずのない姿を確認し、思わず立ち止まって木を降りた。


春風に靡く紅い鉢巻きと同色の上着

炎の模様が染め上げられた具足


「真田幸村!此処で何を…!」


今頃は政宗と一騎打ちの最中だと思っていたのに、なぜこんな国境付近にいるのか。

が思わず声をかけると真田幸村はゆっくりと振り返った。


そしてに向かってにこりと笑いかける。


はぎょっとして思わず一歩たじろいだ。

武田軍の若武者をこれまで何度も色々な場所で見てきたが、一度も笑った顔など見たことがなかったからだ。

無愛想というわけではないが、単純に余裕がないので敵前で笑うことなど出来ない男なのだろう。

気でも触れたのだろうかと怪訝に思っていると


「よっ。やっぱお前が来たか」


真田幸村は笑ったままそう言ったが、その声は真田幸村のものではない。

がよく聞き慣れた、飄々と軽い声。


「な…っさ、佐助…!?」

「いやーお前を騙せるってことは俺様の変装も捨てたモンじゃないなー」


顔や井出達こそ真田幸村そのものだったが、へらへらと笑うその声は間違いなく佐助のものだ。

「…そんな格好でなぜここにいるの」

「念のためさ。この機を狙って攻めてくる奴がいないとも限らないだろ」

真田幸村、否、真田幸村に化けた佐助はそう言って崖の上から下を見下ろした。

「どう、お前も独眼竜に化けてここで偽真田対伊達とかやってみる?」

「冗談はやめて。…っていうか…その顔のまま喋らないで」

は眉をひそめて怪訝な顔で佐助を見た。

「何で?だめ?」

「…なんか嫌だ。調子が狂うし腹が立つ」

「何で!?」

真田幸村の表情が焦りと驚きで歪む。

いい出来だと思ったんだけどなぁとぼやいていると、少し離れた荒野からズドン、と物凄い轟音が聞こえてきた。

二人は思わず顔を上げて音のした荒野を見下ろす。

姿こそ見えないが、蒼紅の鎧が激しく対峙する姿が容易に想像できた。

「おーおー盛り上がってんねぇ」

紅い上着の襟ぐりを掴んで剥ぎ取ると迷彩柄の装束と緋色の髪が覗く。


「んじゃま、主も盛り上がってるし俺らも盛り上がっときますか」

「…最初からそう言えばいいのよ」


指に引っかけた手裏剣をくるくると回す佐助を見ても腰の多節棍を抜く。

少し強い春風は奥州の上に暗雲を連れてきて、まだ遠い場所で低い春雷が轟いた。



どうか狙い打って下さい



春雷も


熱雷も


秋雷も


寒雷も



竜の背を飛び越えて

醜いこの猫を貫いて下さい





「…Struck by lightning」






なんやかんやで10話になりました。後々バナー作って長編扱いにしようかなと思います。
忍が猫だっつったのは銀魂の全蔵さんです。
彼の言葉からここまで膨らむとは思ってませんでした(笑)
幸村連載では書けなかった人たちが書けて楽しかったです。浅井夫婦好きなので生きてます。
雷が多いのは日本海側らしいので一応城は米沢。
補足と言い訳はゴミ箱に収納します。ここまで読んで下さってありがとうございました!

EMPTY96/U/V/E/Rworld