女性雑誌のインタビューで一番よく聞かれるのは

「好みの女性のタイプは?」だと思う。

とりあえず無難に「束縛しない子ッス」と答える。

するとだいたい次は「女の子のどんな仕草にキュンとする?」と聞かれる。

ここも無難に「髪を耳にかける仕草とかッスね」と答える。

「あとベタだけど、電車とか隣に座ってて寝てる時に寄りかかられるのとか」とポイント稼ぎで付け加えておいた。





ステップ・ターンでさようなら






「最悪ッス」


一定の速度で揺れる車内

ご帰宅ラッシュをすこし外したこの時間帯は座席に座れる程度には空いていた。

「やっぱ今日、ふたご座最下位だったからッスかねぇ」

ぽち、とスマフォをタッチしておは朝のホームページを開く。


「そうだね。わたしは今日1位だったはずなんだけど」


なぜか拳2つ分ほど開けて左隣に座るマネージャーはどこか不機嫌そうにそう言った。

足元に通学バッグを置き、膝の上に大きな買い物袋を抱えて。

「だから、ごめんて言ってるじゃないスかぁ」

「本当に悪いと思ってる奴は「スかぁ」とか言わない」

「いやあの、ほんとすいませんでした」

上半身を捻り、膝に両手をついて頭を下げる。

頭の上から彼女の長く深いため息が聞こえた。

「そもそも黄瀬くんがノルマ達成しないからだよ。しろよ、イケメンだろ?」

「イケメン関係なくないッスか」

「罰として買い出しとかさ、一人で行けばよくない?もしくは世話係の黒子くんでよくない?

 まぁ黒子くんは手首調子悪いみたいだからしょうがないけどさ。

 さつきちゃんは仕事残ってるし、消去法で赤司くんに指名されたらついて来るしかないじゃん?まだ死にたくないじゃん?」

「途中から赤司っちへの不満になってるッス」

滅相もないですよ、もう一度ため息をついて大きな買い物袋を抱え直す。


「お、オレだってメニュー3倍こなした後ッスよ!?」

「そうか、私は200人分の洗濯物をこなして200人分のドリンク作って200人分のデータまとめた後だけどな」

「………………」


またため息。

ため息すると幸せ逃げるッスよもぉ!とか冗談で言おうものなら裏拳をかまされそうだ。


「…私、ちょっと寝る。ついても起こさなくていい。自分で起きる」

「どんだけ高性能な体内時計!?」


ツッコミが追い付かず彼女は買い物袋に頭を埋めてしまった。

…その体勢すごく苦しそうだけど。

こっちがため息をつきたい。

恐らくまだ寝入っていないだろう彼女に聞こえないように浅く息を吐いて、もう一度携帯を開いた。

新着メール1件、とある。

仕事のメールだった。先日インタビューを受けた雑誌のサンプルが出来たから目を通して欲しい、という内容で

インタビューページが丸ごと画像ファイルで添付されていた。


(正直今細かい字に目ぇ通したくないんだけど…)


後にしたかったが忘れて困るのは自分だ。

今度はやや大きめに息を吐いて画像を拡大する。

数秒で目を通して、ふと左隣の彼女を見た。

項から背中にかけて小さく上下しているからもう寝ているんだと思う。

時折カーブがかかった線路に沿って電車が大きく揺れるけど、コンパクトな彼女の体は微動だにしない。


「…どんだけ頑ななんスか」

「それは腹筋を鍛えてるからだよ」

「起きてたの!?」


むく、と買い物袋から少し顔を上げて返答された。

「こないだ、青峰くんに腹筋を割るにはどうしたらいいか聞いたら「しらね」って言われた。から赤司くんに聞いた」

本気で寝入る直前だったのか目がぼーっとしている。

「いってること難しくてよく分かんなかったけど…とりあえずウチのメニューを毎日5倍ずつこなせば少しずつ割れてくるって」

「5倍!?」

「女はなんとか脂肪が男より多くて…?男みたいに割るのは難しいんだと」

それ多分皮下脂肪ッス。と言いかけてやめた。


「オレ女の子の腹筋が6つに割れてんのはちょっと…」


ちょっとぽっちゃりぐらいが丁度いいッスって!と苦笑いすると、

ぼーっとしていた目を丸くしてガン見してきた。

そして徐に買い物袋を床に下ろし、スカートの中に入れていた青いシャツを出そうとする。

彼女のしようとしている行動が瞬時に予測できて、慌てて両手を掴み上げた。


ーっち!!公衆の面前ではしたないッス!!!」

「黄瀬くんは私の腹筋が見たくないのか!」

「み、見たいッスけど…!見たいッスけどここでは遠慮するッス!せめて学校で…」

「だめだ割れてると言っても横にだから!」

「鍛えてるんじゃないの!?」


シャツを入れて再び買い物袋を膝に戻す。

危うく駅員に補導されて注意されるレベルまで行くところだった。



ごちん。



ため息をついて力が抜けた肩に重みがかかる。

寄りかかるというより、頭突きを食らったくらいの衝撃だった。



「きゅんとする?」



あぜん。

という言葉がこれほどぴったり当てはまったことはない。

「私はしないなぁ〜もっとこう、分厚くてふかふかで汗臭い方がきゅんとする」

よいしょ、と姿勢を戻す。

(自称)鍛えてると言うだけあって体を起こす動作はスムーズだった。

何か言わなくては負けだと思った瞬間、電車が地下に入って大きく弾む。


「お、あ」


口を開けて腰を半分浮かせていたものだから、

体が重力に逆らえず



ごちん。



彼女のコンパクトな肩に突っ込んだ。

座高差のせいでほんとうに頭突きもかましてしまったけど。

彼女は涼しい顔でこっちを見下ろしてにっこり。




「腹筋、鍛えるといいよ」





きゅんと、した。







初黄瀬くんー
黄瀬くんを拗らせてるのに拗らせてることを悟られたくなくて意固地になってる友人に捧ぐ。
公式でイケメンでモデルで性格よし運動神経よしとか書けるわけがねぇ…
と思ってたけど書いてて楽しかったです