迂回路はこちら






「赤司くん!」


練習が終わり、部員が解散していく中で今しかないと思って声をかけた。

「あ」が裏返ったような気がする。

「か」で唾が飛んだような気がする。

「しくん」って続けたつもりだったけど「くしゅん」って言ったような気もする。

けれど呼ばれて振り返った少年は涼しい顔でこちらを見てきた。


「どうした」

「…あ、の…明日…う、うちの近所の神社でお祭りがあるんだけど…」

「ああ、知ってる。通学で通るから」


それがどうした?と首から下げていたタオルで汗を拭きながらもう一度聞かれた。


「あ、ぅ、あの、その……い、」


タオルを手に持って首を傾げられる。



「…い…いい天気になると、いいよね…」



肩から脱力して項から溶けていきそうだ。

それを聞いた赤司くんは体育館の窓から外を見る。

「晴れるんじゃないか?ここ一週間は晴れ間が続くとニュースで言っていた気がする」

「…う、うん…そうだね…」

「で?」

赤司くんは椅子に置いていたスクイズボトルを拾い、いよいよ部室に戻る準備を始める。

こちらもいよいよ時間がない。

「うん、あの…い…」



「…いちご飴とか、売ってる、かな…?」



ああああもう

一旦限界まで海老反りになってその後勢いよく壁に頭突きかましたい。

粉々に粉砕してもらって溶かしてもう一度1から再構成されたい。


「売ってるだろ。りんご飴はあまり見ないけど、いちご飴はよく見る」

「……うん…」


いちご飴って可愛いし美味しいけど、最後のあのヘタがネックだよね。と続けたら

「俺はそもそも祭りであまり物を食べない」と完全にシャットアウトされた。

ああこれはきっと当たっても裏拳で跳ね除けられそうだな…


「もういいか?来週の練習試合の打ち合わせがあるんだ」

「あ…うん…くだらないことで呼び止めて…ほんとごめんなさい…

 死んで詫びます…生きててすいません…」

「そうだな。じゃあ現地で」

「うん、現地で………」


・・・・・・・


「…現地で?」

「ああ、現地で」


踵を返し5歩ほど歩いたところで赤司くんは振り返って言い直す。

頭のわるい私が状況を飲み込むのにしばらく時間を要していると

こちらに聞こえるように鼻で笑われたのが分かった。



「俺の思い違いなら、謝るけど」



わたしはどうしてこんな人を好きになったのだろうと、こういう顔をされる度に思うのだけど

そうかこういう顔が好きなのかと原点回帰したら

元も子もなくなってしまうわけで

たまには「思い違いだバーカ!!!」って言ってダッシュで逃げてみたいけど

そんな私なら最初からこういう人を好きなんかならないわけで


「違わない………こともなくもない…です……」

「そうか」


結局こうなる。


「…い、一緒に行って下さい…」

「偉いな。ちゃんと言えたじゃないか」



いい天気になって

いちご飴が食べられたらいいなぁ。



「…何スかあれツンデレッスか?」

「どちらかというとツンツンデ…ツンって感じだと思います」

「意味が分からないッス」




帝光赤司で夏。
彼が冬生まれのせいか赤司と夏を結び付けられないです。
春夏秋冬することは変わらなそう。
だから連れ出すの…さ…!っていうヒロインがんばれ。